殺人鬼タクシー

 夜の街に走る一台のタクシー。運転手はあまり見かけないほどの大柄な男。この男、実は最近この町で噂になっている連続行方不明事件の犯人であった。手口は実に簡単なもので、タクシーを装い乗客を乗せ、人気のない山に連れて行きその大きな体でしめ殺す。という具合のものだった。生まれつき大きな体をしていた彼は、小さな頃から熊が好きで、山で行われるその殺人は、さしずめクマを催した快楽殺人のようなものであった。

 ある夜も同じように街中を走らせていると、道端で手を挙げる男が一人。「今夜はこいつだ」と乗車させると、行く気などさらさらない目的地を聞き、何気ない会話を始める。運転手は、ふと客の大事そうに持っている箱が気になった。中身を聞いてみると、「包丁が入っているんです。仕事道具で大切なものなんです。」と返してきた。男は、仕事道具と死ねるなんて幸せなもんだなあと呑気なことを考えながら、二人を乗せたタクシーは目的の山に近づいていった。

 山に入ると、運転手の男が必ずする話がある。熊の話だ。その日も運転手は意気揚々と話し始めた。


「お客さん、山で一番強い動物って知ってます?熊ですよ。熊。その腕を使って獲物を屠るんです。殺した獲物が大きければ土なんかで隠したりするんですってね。熊は山の王ですよ。私も憧れてるんです。易々と殺しをする熊にね。あなたが五人目ですよ。」


そう言って彼は車を停めた。

ただ客の男は何の気なしに話し始めた。


「じゃあ運転手さん。そのあなたの大好きな熊の数少ない天敵ってなんだかわかります?」


客は続けて、


「それは武器を持った人間ですよ。」



翌日、運転手の男は五人目の行方不明者として報道された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

表裏 雑多 @SooS

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ