第3話
冷静になれ、クールに心を落ち着かせるんだ。
俺はむかむかしてきて吐きそうになっている胃袋を宥めつつ、この危機的状況をどうすれば良いのかと頭を何とかして働かせようとした。
どうやら俺は何らかの組織的な悪巧みによって貶められようとしているらしい事が分かったが、しかしどれだけ考えても「どうして?」という根本的な疑問に行き着く。
つまり、こんな事をするメリットがまるで分からないのである。
俺が酔っ払ってその……小鳥遊莉奈に手を出したという事にしたとして、一体誰が得するというのだろうか?
むしろ単に俺を困らせたくて、あるいは俺が困る事によって悦に浸りたいという快楽的な犯行と言う可能性もあるけど、しかしだとしてもこんな捨て身な事をするだろうか。
そう、捨て身。
この……いっそ事件と言ってしまおう。
この事件において最も重要なのは、俺が小鳥遊莉奈に手を出してしまったという嘘の証言。
そしてそれを張本人である小鳥遊莉奈が何故か「そうである」としている事が謎だった。
彼女は何故、今回の一連の事件に対して協力をしているのだろうか。
あるいは、今回の証言はあくまでスマホでのやり取りによって得ているので、最悪の場合実は本人じゃなかったという可能性もあるけど……
「なんにしても」
ひとまず、最初にするべき事は。
……やはり、単刀直入に本人に尋ねるべきなのだろう。
つまり最初の発端となったメッセージの送り主である村上秀雄にまずそれの意図を尋ねてしまうのが一番だろう。
そう思った俺は直ちにスマホで電話を掛ける。
すると案外あっさりと電話は繋がり、そして開口一番『やっちまったな!』と言われた。
『お前、まさか小鳥遊さんと関係を持っちまうなんて。いや、まさか最初に大人の会談昇るのがお前だとは思ってもなかった!』
その言葉に嘘らしさや演技らしさは感じられなかった。
彼がどうしようもない程の道化って可能性は、まあ、ないか。
そもそもこいつはメッセージ内ならともかく演技と言う意味では嘘が吐けないタイプだった。
だとしたら、少なくとも秀雄は「小鳥遊莉奈と俺が関係を持った事は真である」と思っている、信じている?
「……」
『まさかなー、小鳥遊さんって可愛いし美人さんだし、何よリ優しいし。彼女になれた人は嬉しいだろうなーとは思ってたけどよー』
「……?」
『あれ、湊人? どうかしたのか?』
「……いや」
どうも話が変わってきている気がする。
メッセージでは「俺が酒の勢いで小鳥遊莉奈に手を出してしまった」と書かれていた筈。
なのに彼の中では既に俺と小鳥遊莉奈はそこから一歩先の関係になっている事になっているらしい。
それは果たして彼の勘違いなのか、はたまた別の何かなのか。
……埒が明かないな、やっぱり単刀直入に聞いてみるか。
「なあ、秀雄?」
『なんだ、俺は童貞だからアドバイスは出来ないぞ』
「そうじゃなくて。俺と、その。小鳥遊さんとのあれこれって誰から聞いたんだよ」
『は?』
こいつ何言ってんだみたいな反応された。
いや、むしろ俺の方がそんな反応したいんだが?
『いや、お前。小鳥遊さんがグループメッセージで朝一番に報告してたじゃん。こんな事があって付き合う事になりましたーって。見てないのか?』
「は?」
血の気が引くのを感じた。
え、なに今ってそんな事になってんの?
水しか飲んでないはずなのに酔った勢いで童貞捨てた事になってた カラスバ @nodoguro
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