第2話

 こういう状況になると逆に頭の中は冷静になっていくというもので、実際俺の頭は極めて冴え渡っていた。

 いや、ていうか昨日飲み会はあったけど普通にお酒はいっぱいも飲んでいなかったので酔っ払うもクソもないのだが。

 だからこそ、まあ、この友人からの連絡が意味不明な訳だが。

 

「……」


 俺は、とはいえ呆気に取られて一瞬フリーズせざるを得なかった。

 友人曰く、何でも俺は酒の勢いで件のクラスメイト、小鳥遊莉奈と関係を持ってしまったという事になっているらしい。

 前提として俺はお酒を飲んでいなかったから酔っ払ってそんな事をした筈がないし、そもそもこうなってしまう可能性も考えていたからああいうみんなが集まる場所でお酒を飲みたくなかったとも言える。

 だからまずそもそもとして彼から伝えられたメッセージは全く持って事実無根の嘘である訳だが、しかしあの村田秀雄がこんな事を冗談で俺に言ってくるとは思えない。

 冗談でも人を陥れるような質の悪い冗談は言わない奴だと思っていたし、だから逆説的にこれは「何らかの意図がある嘘」である可能性が高い。

 その、「何らかの意図」に関しては今のところまるで分からないが、それでも意味のないという冗談である可能性は極めて低いだろう。

 

 そもそも、この冗談は下手をすると山車にされた小鳥遊莉奈が関わってきてしまうという危険性がある。

 つまり、今回のメッセージでのやり取りは村田秀雄ラインでのみ行われていたが、もしかしたら俺が「こんな事を言われた」と小鳥遊莉奈に報告する可能性だってあるのだ。

 そうなると圧倒的に村田秀雄の立場が危うくなる。

 高校を卒業し、関係性が今までよりも希薄になっているとはいえ、友人関係に溝が出来てしまう可能性は十分にある。

 そのような嘘を、果たして彼が吐くだろうか?


 疑問はまだある。

 何故、こんな事を言ったのか。

 例によって意味のない、質の悪い冗談は言ってくるはずがない以上これには何らかの意味があると判断している訳だが、現状それが何なのかがまるで分からない。

 可能性としては本当に「誰かに脅されてこのようなメッセージを送るように仕向けられた」という可能性が最も高くなってくるぐらいには奴はこんな事をしないと俺は思っている。

 で、ある以上。

 このメッセージは間違いなく、彼以外の何者かによる意図が絡んでいると思っている。

 その、何者かは誰なのかっていうのもまた、現状俺には分かっていないのだけど。


「ふう……」


 いろいろと思考を巡らせていても埒が明かない。

 こうなった以上、実際村田の奴にどういう意図の冗談なのかを問い詰めるのが先決だと、そのように思った。

 それが一番手っ取り早いし、確実だ。

 そのように思った俺は、だからすぐにスマホの電源をもう一度入れてメッセージを奴に送ろうとした――のだったが。


 しかし、それよりも前に新しいメッセージが送られてくるのが先だった。



 ……送り主は、件の小鳥遊莉奈だった。




『ふつつか者ですが、よろしくお願いしますえへへ(〃´∪`〃)ゞ』



「……」


 ブルータス、お前もか。

 そして同時に、今回のこれはどうやら組織的な犯行である事も分かったのでますます俺は頭を抱えたくなるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る