水しか飲んでないはずなのに酔った勢いで童貞捨てた事になってた

カラスバ

第1話

 酒が飲めないけど、最近だと別に周りに合わせて酒を飲む必要がなくなってきた雰囲気があるのは良い兆候だと思った。

 とはいえ成人になりたてなこの時期。

 みんなお酒を飲めるようになってすぐなのでそりゃあお酒を飲みたくて仕方がないのだろう。

 ……高校の同窓会、あるいは成人式の後の飲み会。

 次第に大きくなる騒ぎ声を聴きながら俺は「やはりお酒は嫌いだ」と思いつつ、水をちびちび飲んでいた。

 クラスの中でも特に仲がよくて今でも交流を持っていた親友の村田秀雄は既に正気が火星あたりまで吹っ飛んでいるのか、服の前をはだけさせて大笑いしていた。

 見事な酔っ払いの完成系である。

 あとは頭にネクタイを巻き付けたらOKだなとかどうでも良いことを思う。

 まあ、そのネクタイをブンブン振り回しているのが今のやつなのだが。

 俺はそんな楽しく酔っ払っている連中から離れてコップいっぱいの水で今日を乗り越えようとしていた。

 の、だったが。



「あっ、平田湊人くぅん」


 なんかこれまた出来上がっている奴が近づいて来やがった。

 彼女はクラスメイトの小鳥遊莉奈。

 成人式の後なので正装をしていた彼女はなんだが瞳がとろんとしていていかにも酔っ払ってますといった感じだった。

 それでもしっかりだらしない格好はしていないあたり、さすがは元クラス一の美少女だと思った。


「楽しんでる?」

「ん、楽しい空気だとは思ってるよ」

「えへ〜、楽しいよね。久しぶりにみんなと会えて、私も嬉し」

「それは重畳」

「うふ。湊人くんと久しぶりに話せたのも私、嬉しいな。お酒もあるから倍楽しい!」

「……さいですか」

「おうおーう、ノリが悪いぞお酒を飲め飲め! あーでも無理はしなくて良いからねお水で結構!」


 なんかだる絡みされてかなりうざい。

 相当出来上がっていると見た。


「うふ〜」


 ていうか酒臭いな……

 化粧と香水の匂いを若干打ち消してしまう程度には匂う。

 ……高校の時では想像出来ない匂いで、少しショックを受けている自分がいた。

 なんだか自分だけが昔の思い出の中に取り残されているみたいで、なんだが哀愁を感じる。

 大人になるとはこういう事か、なんて事も思ったりするのは爺臭いだろうか?


「えへへ、私幸せ〜」


 ていうかこの人、これでちゃんと帰れるのだろうか。

 少し心配だ……



  ◼️



 で、ラノベみたいな展開で泥酔した彼女を連れて帰るみたいなことにはならず、彼女はそのまま二次会へゴーしていった。

 俺は流石にお酒が飲めないのに参加したら場の空気を見出すちゃうかなと思い、参加するのは遠慮した。

 空気は楽しめて、お酒は飲めないけどまた参加したいなとは思った。

 名残惜しいけど、今日はもう帰ろう。







 で、翌日。

 村田秀雄から連絡があった。


『おい、お前酒の勢いで小鳥遊さんと関係持っちゃったんだって!?』


「あ゛?」


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