第47話 愛してますわ!

 そして次の日……文芸部部室。久々に全員集まった俺らは、いつもの席に座って話をしていて。


「ふふ、やっと部室に来てくれたね、音ノ葉ちゃん」


「なんか心配かけてしまいましたね、ごめんなさい……でも、もう大丈夫ですわ! 隆太様との真実の愛を確かめあえましたので……!」


「……ふっ。催眠で本音を聞き出そうとしたヤツのセリフとは思えないな?」


「うっせぇですわ!! 隆太様から聞いたけど、アンタも最悪な理由で催眠使おうとしたんですよね!? よくそんな余裕そうな顔出来ますわね!?」


 いつも通りの賑やかな会話が繰り広げられるのだった。そんな会話に俺は割り込んで、全員の注目を集めて。


「今日で約束の三日目だ。全員、思い残すことはないよな?」


 俺の言葉に三人は、朗らかな表情を見せて。


「はい」「ああ」「うん……!」


 各々スマホを前に出すのだった。どうやら俺の説得の甲斐もあって、全員納得してくれたみたいだ。


「よかった。これで長かった俺達の戦いが終わる……やっとイカれた催眠アプリの世界から解放されるんだ」


 俺は両手を上げて、伸びをする……誰にも知られてないけれど。誰にも感謝なんてされないけれど……確かに。確かに俺達は世界を救ったんだ。


「お疲れ様でした、隆太様」


「みんなもだよ……みんながいなかったら、絶対にこれは達成出来なかったことだ。本当にありがとう」


 改めて俺はみんなにお礼を言う。そして音ノ葉は微笑みながら。


「別に催眠が無くなったとしても、私達は友達ですからね!」


「うん!」「ああ」


「……いや、友達とか思ったことないが?」


 ここで滝宮さんの天邪鬼が発動してしまう……当然、音ノ葉は反応して。


「は? 滝宮には言ってませんけど。しゃしゃり出ないでください……願わくばそのまま呼吸しないでください」


「こういう時くらい仲良くしてくれよ……」


 ……でもちゃんと名前で呼ぶようになったの、俺は見逃してないぞ。それで滝宮さんも呆れたようにしつつも、ちょっとだけ素直になって。


「まぁでも……君たちが部室に来てくれたおかげで、退屈しない日々が過ごせた。まるで物語の登場人物になれた気分だったよ……その点は感謝しているさ」


「……私はまだ最初に催眠かけたの忘れてませんけどね?」


「まぁまぁ……」


 まぁ確かに俺らが滝宮さんに催眠かけられてたら、あそこでゲームオーバーだっただろうからな……でもあそこで滝宮さんを信用した俺もだいぶ凄いよな。結果的に滝宮さんもいないと、催眠撲滅は絶対に達成出来なかっただろうし。


 そして松丸さんも俺らに視線を合わせて。


「うん。わ、私も……みんなに会えてよかった。三人が協力してくれたから、私も絶望しないで立ち向かうことが出来たよ……!」


「こっちこそありがとう。松丸さんの情報が無かったら、俺らは絶対に詰んでただろうし……松丸さんが勇気を出して俺らの元に来てくれたから、催眠を消すことが出来たんだ。本当にありがとう」


 俺も松丸さんにお礼を言う……続けて音ノ葉も。


「私からもお礼言いますよ。松丸ちゃんは本当に良い子で、この文芸部に平穏をもたらしてくれました……本当にありがとうございます!」


「ううん……音ノ葉ちゃんの方が、この部活には欠かせない存在だよ!」


「そうか?」


「隆太様、声に出ちゃってます!!」


 そして一同の笑いが。こんなしょうもないやり取りをしてると、本当に平和が戻ってきたんだなぁと実感するよ。それで音ノ葉はそのまま滝宮さんに視線を向けて。


「まぁ滝宮も……最低限の働きをしてくれたことには感謝してますよ。もう二度と会いたくないですけど」


「じゃあもう明日から来なくていいぞ?」


「なっ……じゃあアンタが来なければいいじゃないですか!!」


「それは無理だ。部長だし」


「じゃあ私が部長やりますから!!」


 そしてまた言い合いが始まる……かと思ったら、音ノ葉は俺に近づいてきて。


「それで……隆太様。昨日は好きって言ってくれて、本当に嬉しかったです。正式に付き合ったことですし、これからはもっと楽しい思い出作りましょうね!」


「……ん? いや、付き合うとは言ってないけど」


「…………」


 そう言うと音ノ葉は、この世が終わったかのような絶望顔を見せてきて……。


「え、え………………? じゃあ……つ、付き合ってくれないんですか……?」


 そんな様子を滝宮さんは、手を叩きながらウキウキで眺めるのだった……まぁ流石に俺は滝宮さんほど、良い性格はしてないので……おちょくるのはこれくらいにしておいて。


「……付き合わないとも言ってないだろ?」


「えっ…………!?」


 すると音ノ葉の目は徐々に光を取り戻した……ホントこいつは単純で可愛い奴だ。


「じゃ、じゃあ! 付き合ってくれるんですか!?」


「ああ……もちろん。俺と一緒に思い出作っていこう」


 そして俺の言葉を聞いた音ノ葉は、昨日のように強く俺を抱きしめるのだった。


「うっ……嬉しすぎますわ!!! 幸せ過ぎて死んでしまいそうですわ!!」


「ちょ、だから痛い痛い…………」


 そしてそんな俺らを白い目で見る、滝宮さんが俺の目に入ってきて。


「…………」


「なんですか滝宮……こっち見るんじゃないですわよ」


「いや、幸せな音ノ葉には興味ないから。よそでやってくれないかなって」


「私だってこんなとこでやりたくなかったですわよ!!」


 そしてまたいつもの言い合いが……今度は長くなりそうだと思ったので、とっと俺は割り込んで、アプリを消すようみんなに伝えた。


「争いはアプリ消してからやってくれ……ほら、スマホ出して」


 そしてみんなはスマホを出す。そしてこんどこそ合図で一斉に消そう、と話しているところで……松丸さんがポツリと口を開いて。


「……えっ? なんか反応があるんだけど……」


「えっ?」


 反応……反応って? なんか…………非常に嫌な予感がするんですけど。


「…………松丸さん。まさか反応って……」


「うん……催眠の反応」


「うええっ!? どういうことですか!? もう全部終わったはずでしょう!?」


 喚くように音ノ葉は言う……一瞬、俺も信じられなかったが、いち早く滝宮さんはその可能性を示唆して。


「もしかして……そのお豆とやらがまた催眠を誰かに付与したんじゃないか?」


「ええっ、ちょ……!? それ、止めるなら今しかないですよ!?」


「え、江野くん……どうしよう……!」


 そして全員の視線は俺の方を向く……今の俺が。リーダーとして出せる命令は……まぁこれしかなくて。


「……催眠削除は一旦中止! 直ちに現場へ向かうぞ、みんな!!」


 どうやらこの世界はまだ、俺達に歯向かってくるらしい……はぁ。上等だよ。ここまで来たら最後の最後まで付き合ってやるよ。


「は、はい! 行きましょう!」


「まだまだ退屈させてくれないねぇ……」


 そう言って松丸さんと滝宮さんは、そのまま部室から出ていくのだった。


「よし、俺らも行くぞ音ノ葉……」


 ……と言ったところで、音ノ葉から引き止められて。


「隆太様」


「なんだよ?」


「…………」


「…………?」


 その数秒後……音ノ葉はとびっきりの笑顔で。


「……愛してますわ!」


 ……こいつ。こんな緊急事態に……でも。ずっと俺と二人きりになるチャンスを伺ってたんだろうな。全く……可愛い奴だよ。






「…………俺もだよ。ほら、早く準備しろ」


「はいっ! 隆太様!」


 そして俺らも続けて部室から出ていくのだった。また、平穏な世界を取り戻すために。


 ──

 ──


 完結です! 最後まで読んでくれてありがとうございます!

 

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催眠アプリが流行っている貞操逆転世界に転生してしまった 道野クローバー @chinorudayo

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