第46話 私も世界で一番好きですわ!!
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──前日、隆太視点──
「それで、良い考えってなんですか?」
「音ノ葉のスマホに偽の催眠アプリを仕込むんだ」
「えっ?」
偽物を仕込むって……どういうことだ? と、俺の疑問をよそに滝宮さんは続けて。
「音ノ葉に偽のアプリを仕込んで、催眠をかけるまで動向を見守る。そして催眠が失敗したタイミングで我々が出てきて、同じように江野が説得すればいい」
「要するに今までと同じやり方ってことですね……でもわざわざ偽のアプリを入れる理由は?」
そう聞くと、滝宮さんは言うかどうか迷った末に……こう口にして。
「まぁ、あくまで予想なんだが……おそらく音ノ葉は江野に催眠を使うんじゃないかって思ってな」
「えっ?」
「そのまま江野が催眠にかけられると、作戦が上手くいかない可能性がある……だから江野が動けるほうがいいんじゃないかって思って、催眠を入れるべきだと判断したんだ」
なるほど……? まぁ滝宮さんの言う通り、本当に俺に催眠をかけてくるのなら、俺はどうしようもなくなるからな。俺に催眠かけようとして、失敗したところを問い詰めれば上手くいくだろう……そんなことを思ってると。
「じゃ、じゃあ江野くんは催眠にかかったフリをするの?」
「えっ?」
全く考えてなかったことを松丸さんは口にするのだった。なんで催眠にかかったフリなんて、そんな回りくどいことをしなきゃならんのだ……と思っていたのだが。
「ああ、そうだ。催眠状態のフリをして、音ノ葉の本音を探っていけば、催眠も消しやすくなるだろう」
滝宮さんもそのつもりだったらしい。かかったフリなんかせず、現行犯で止めればいいと思うんだけど……まぁ何か考えがありそうだし、大人しく従っとくか。
「分かりましたよ。催眠にかかったフリをして、言うこと聞けばいいんですよね?」
「ああ。突飛な命令されても、大人しく従うんだぞ」
一応音ノ葉のことは信じてるけど……どうしよう。今まで溜め込んでた欲望を抑えられずに、めちゃくちゃエロい命令とかされたら。そうなった場合、流石に正気を取り戻さざるを得ないんだけど……。
「…………」
……でも俺も催眠状態の音ノ葉にキスとかしたっけ。でもあれは緊急事態だったし……音ノ葉を含めたみんなを助けるための行動だったから、あれは仕方ないよな……うん。
「ということで江野、偽のアプリを入れるため、音ノ葉のスマホは頼んだぞ」
「……分かりました。とりあえず体育の時間は流石にスマホ置いていくと思うので、明日滝宮さんのとこに持っていけばいいですよね?」
「ああ。偽アプリを入れるだけなら数秒で済むからな」
「今更だけど、偽アプリ作れる滝宮ちゃんって何者なんだろう……」
──
──
回想終わり。それで俺の眼の前には、非常に混乱している様子の音ノ葉の姿があって……。
「という感じで、滝宮さんに偽のアプリを入れてもらったんだ。だからさっき音ノ葉が発動したのは、全く効果の無いものだったんだよ」
「えっ、じゃ、じゃあ……さっき私が言ったことは……?」
「もちろん覚えてるよ」
俺がそう言うと、音ノ葉は頭を抱えながら魂の叫びを口にして。
「うっ……うわぁぁぁぁぁああああああッ!! 恥ずかしすぎますわ!!!!!」
「いや、俺は音ノ葉の本音が聞けたから嬉しかった……」
「そういう問題じゃありませんわ!! 私がずっとひた隠しにしてた、か弱い部分を見られて……本当に死にたくなるくらい恥ずかしいんですわぁ……!!」
まぁ誰にも見られたくない素顔を見られたんだから、恥ずかしくなるのも当然か……でも普段の過剰なスキンシップや、セクハラギリギリの発言よりかは、そういう女の子らしい(この世界では男の子らしい?)ところ見れて、可愛いと思ったんだけど……そんなこと言うと、また叫び出すかな。
そして滝宮さんは日頃のお返しと言わんばかりに、馬鹿にしたような感じで、さっきの音ノ葉のモノマネを披露して……。
「ふっ……なんて言ったっけ。『偽りの愛なんて虚しいだけです……』だっけ?」
当然、音ノ葉は激昂して……。
「だぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!! ぶち殺しますわ滝宮!!!!!」
「おっ、落ち着いて、音ノ葉ちゃん! アプリが偽物だってことは、江野君が言ったことも嘘だってことだよ」
「……!!」
そんな松丸さんの言葉に、音ノ葉は目を見開いて……俺の方を向く。きっとさっきの質問の真相が気になるのだろう。
「そ、そうですよ隆太様。もう一度聞かせてください。好きな人いないんですか?」
「…………んー。あー、その……」
俺は言葉に詰まる。俺の好きな人ね…………まぁ。あの文化祭の後からずっと色々と考えていたけど。ホントは最初から答えは決まっていて……でも、それを認めたくなかっただけなんだよな。
……でも。音ノ葉の本音を聞いた今なら、俺も。ちゃんと言える気がする。
一回俺は息を整えて……そして長い長い間の後、俺はこう口にして。
「………………音ノ葉」
「……えっ?」
「音ノ葉……俺はお前のことが好きだよ」
「────え。えっ……!!!!!!??」
音ノ葉は信じられないとでも言いたげに、手で口を覆う。そして「ッ~~!!!」っと声にもならない声を上げながら、屋上を何周か走った後……。
「りゅ、隆太様ぁーー!!!! 好き、好きですわ!! 私も世界で一番大好きですわ!!!! 愛してますわ!!!」
そのまま俺を抱きしめてきたのだった。全体重を預けてきたので、俺の首は締め付けられて……。
「ちょ、苦しい苦しい苦しい……」
「よかった……私、本当に幸せですわ。夢みたいですわ……大好きですよ、隆太様」
「…………ああ。俺もだ」
そしてようやく手を緩めてくれたので、俺も音ノ葉を抱きしめ返した……そしてそんな光景を眺めていた二人は、手を叩いて拍手してくれて。
「おめでとう。二人とも幸せにね……!」
「ふっ……おめ」
……で、そんな二人を見た音ノ葉は一気に現実に戻ったような表情に変わって。
「……隆太様。次は二人きりでお願いしますね?」
「あ、ああ……」
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