第14話 たぁくんの過去

『全く…我はそんな大モテの匠くんが羨ましいよ。』


「お前…あんま思ってないだろ…」


『まさかぁ…我だって思ってるに決まっているじゃないか。疑うなんて、ガッカリだよ。』


地面がぐちゃりと唸る。

靴の底には泥がくっつき、今にも靴下が濡れそうなジメジメとした校舎裏。

俺はそこで響.5に今日の朝、あったことの報告をしていた。


『僕も無関心ってわけでは無いんだよ?』


「じゃあ、興味が湧くわけでも無いのか。」


『まぁ…平たく言えばそうかもしれないな。』


「平たくってなんだよ…」


『で?結局誰を取るんだい?』


声色を変えて響.5は俺に質問を投げかけた。


「だ、誰を取るって…」


『君、今悩んでるだろう?誰にも興味が無いってわけでもなさそうだし。』


「ど、どういうことだよ…」


すると、響.5は呆れたようにため息を吐く。


『別に、君、誰に対しても興味が無いわけでは無いんだろう?多分、色々な人が君を求めすぎて、君は誰を求めるか、決めてないんだろう?』


「それって…どういうことだ?」


『君の周りにはたくさんの花がある。君はそこから一本の花を摘まなければならない。じゃあ、君は何を選ぶ?わからない。それが君の今の答えだ。』


「つ、つまりどういうことだよ…」


『ここまで行ってもわからないかね?つまり、君は、恵まれすぎて逆に困っている状態に陥っているんだ。君は、君自身は、その恵まれすぎている状況から、離脱しないと前には進めないと思うよ。君にとっては全部大事な物なんだろうね。君はそれを捨てられずにいるんだ。もう少しよく考えてみると良いよ。』


「は、はぁ…」


『とりあえず、君はこれから学校だろう?そろそろ切るよ…』


「あ!待って…」


ツーツーツーツー……………


電話が切れてしまうと、俺は「ッチ」と舌打ちしてスマホをポケットに入れた。


俺にとっては全部大事な物…か。


俺はぼうっとしながら前へと一歩踏み出した。


「でぇ!!!」


俺が三歩目ぐらいで校舎の正面に向かおうと、歩くと頭に何か硬いものがぶつかって、俺は尻餅をついた。


制服に泥がついて、とても気持ち悪くなる。


「あ!たぁくん大丈夫!?」


そして、びちゃびちゃに汚れた俺に手を差し伸ばしてくれたのは友理奈だった。


「ゆ、友理奈、どうしてここに?って…GPSか?」


友理奈はギク!と音が鳴ったように視線を87度ほどズラす。


「そうだな…GPS辿ってきたのか!!!」


「や!!でも、うちたぁくんのことが心配できたんだもん!!だって、また虐められてたらどうしようって…心配で…」


また虐められてたら?


「こ、校舎裏の暗い所なんて、うち、たぁくんに何かあったらどうしようって急に怖くなって…」


ああ…思い出した…嫌な記憶だ…



小学生の頃だろうか…

そう言えば、俺、虐められてたんだった…


教室中に響く迫害の声


一人だけ違う、ボロボロの机


紙屑のようにしてまとめられた教科書


あの親父や、ナナや柚珠姉に心配されたくなくて、必死に隠し通した日々。


言えなかったタスケテの言葉。


涙ながらに学校に通う日々はまさに地獄だったことを覚えている。


そんな地獄に舞い込んできたのは、転校生の友理奈だったっけ。


友理奈はその風貌と明るさであっという間にクラスの人気者になっていったな。


俺みたいな害虫以下の存在とは別の世界で生きて行くんだとも思った。


あの時までは…




あの時は、小学2生ごろだったかな。


俺は図画工作の授業で、書いた絵が最優秀賞を取ったんだ。


それで、先生は俺を教卓の前に呼び出すと、教室の前で、俺の絵の良い所とかを熱心に語ってくれたんだっけ。


確か感銘を受けたとか、なんとか。


その時は俺はとても嬉しかった。もちろん、先生がそこまでして、俺の絵を熱心に紹介してくれたからだ。


でも、その日の放課後。

事件は起きた。


俺はクラスの女子に校舎裏に来てと言われ、女子について行くと、その校舎裏にいたのはいじめっ子の主犯格の少年だった。


そいつは、「お前がなんで俺より上なんだよ」と問いかけると、いきなり俺に向かって大きな石を投げつけてきたんだ。


痛かった。


頭に石が当たり、血が出ると、主犯格の男はニヤリと笑って、「どっちが上か、わからないのか!?」というと、俺の鳩尾に勢いよく蹴りを入れてきやがったんだ。


そいつの足はサッカーをやっていて、ボールを蹴ることに関しては、一丁前だった。


一発蹴られるだけで、鳩尾は大人が本気で握り潰して、殺しにかかっているように痛く、俺はその場に疼くまった。


そいつは獲物を捕らえた狼の如く、笑うとその場にいた男子を呼びつけると、倒れかけた俺を思いっきり蹴り始めた。


集団リンチだ。


その場にいた女子は、口や鼻を押さえて、何か下品なもの、もしくはゴミを見るような目で、俺を見下し、挙句果てには、「汚いな…早く死んでくれれば良いのに…」という風な言葉を浴びせ続けた。


体は一方的に蹴られ、心は一方的にズタボロにさせられ、俺はこれなら死んだほうがマシだ、なんて考えた。


でも、そこに一つの光が差し込まれたんだ。


それが、友理奈の存在だ。


友理奈は俺をいじめている主犯格の男子を思いっきり、ダッシュで殴りつけ、2メートルほど、飛ばしたんだ。


そこから俺をいじめている奴ら全員を蹴り、殴り、蹴り、殴り、全員を泣かせた。


俺をゴミのような目で見ていた女子も、ビクビクするように、「ゆ、友理奈ちゃん…?」と言葉を失っていた様子だった。


そういえば、主犯格の男子は友理奈に「何すんだ!!!!!」と怒りをあらわにしていたが、その次の瞬間、友理奈の見たことない赤く染まった顔で「お前たちこそ!!!!!何してんだ!!!!!!!!」と女子とも思えない声量で、男子たちをビクつかせた。


次に、友理奈は泥だらけで、びちょびちょに濡れた俺に手を伸ばすと、無理矢理俺の汚い泥で汚れた腕を掴んで、友理奈の家に連れてかれたんだ。


友理奈の家で、俺は強制的に友理奈と一緒に風呂に入れられ、友理奈に体を洗われながら、「安心して、あなたは私が守るから」と優しく声をかけられたことも覚えている。


そこから、友理奈のおかげで、先生にイジメがあったことが報告され、俺の家族にも真実が明かされることとなった。


今ではその時の話を出すことはタブーとされているのか、あまり俺らの話題には出てこないが、ナナや親父や柚珠姉が俺の事を気にかけるようになったのはその時からだったような気もする。






「な、何もなかったんだよね…?うち、本当に心配だから…」


「ああ…大丈夫。なんでもないさ。」


俺は懐かしい記憶を思い出すと、俺は少し頬を緩ませ、友理奈の手を取った。


「たぁくんどしたの?そんな微笑んで。あ!もしかしてうちに惚れちゃった?」


「いや、ちょっと、昔の事を思い出しただけだ。」


「えー!?違うの!?ショック…」


友理奈の顔を見てみる。

綺麗に整った鼻。さらりとした髪の毛。愛おしい丸い目。


別に惚れてはいないと思う。多分。


「ん?なんか顔についてる?」


「いや。何もついてない」


こういう時は意外と鈍感なのか。


「にしてもたぁくんすごい汚れたね。」


「ああ、そう言えば。後で体操着に着替えないと。」


「ふふふ…うちがお着替えさせてあげようか?」


「お前、前よりグイグイ来るようになったな…」


「え!?ま、ま、まぁ?他の人たちがたぁくんのこと本格的に狙い始めてきたしぃ?こ、これくらいは良いでしょ?」


友理奈は頭をポリポリとかいた。


「お着替えのどこが良いんだよ…」


大事な物って、全部が大事なものじゃダメなのだろうか。

わからない。

でも、俺にとっては友理奈は大事なものだと思う。


自分の感情が不安定ということを今、よく感じれるな。


「っt、た、た、た、たぁくん!?」


気づくと俺は、なぜか友理奈の手を握っていた。

それは、暖かく温もりがあり、そして、安心感が漂っていた。


「え?うわぁ!!!!なんで!?」


「も、もしかして…そういうこと!?」


「え!?いや違う違う!!!!絶対に無い!!!!!」


「ぜ、絶対に無いって何!?」


「え!?いや、な、なんで!?血迷った!?」


「ひ、ひどくない!?うちと手を繋ぐだけで、血迷ったって!?」


「と、とりあえず、早く教室に行こう!!遅れる!!!」


俺はいきなり走り出すと、「え!?たぁくん!?」と言い、俺を追いかける。


まあ、多分すぐに追いつくだろうけど。


学校の時計は8時を示す。


早く行かなければ。

俺は足にさらに力を入れ一歩一歩踏み出した。





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リレー小説「ただの高校生だった俺に許嫁ができたのでできたので、溺愛していた姉と妹と幼馴染を振り払って恋愛します」8話と14話 最悪な贈り物 @Worstgift37564

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