リレー小説「ただの高校生だった俺に許嫁ができたのでできたので、溺愛していた姉と妹と幼馴染を振り払って恋愛します」8話と14話

最悪な贈り物

第8話 最悪な贈り物なんかじゃない!!!

「むにゃああ…は!!!」

私はベットから上半身だけ起き上がり、充電器の付いたスマホを見た。

スマホの液晶画面の中には、ど真ん中にAM8:02と表記されている。

「ああああああ!!!!!」

私はお腹の中から声をあげるとすぐに立ち上がる。

そして私は、黒いヘアブラシを勉強机の上から取り出し、慌てて髪を整える。

「やばい!やばい!!寝坊しちゃった!!!」

私はクローゼットの中から、痛い感じの黒い服を取り出し、もこもこの服から着替えると、慌てて玄関へと出るための扉を開けた。

「あ!眼帯!」

私はバタバタしながらもヘアブラシを机の上に置き、そして代わりに眼帯を取り出すと、すぐ右目に付けた。


「おはよー!!!」

「あ、おはよ響輝。」

私は自室から階段を降り、リビングに行くと、そこにはお母さんの姿だけがあった。

私は慌てて昨日、念のために準備しておいたバッグを取ると、そのまま玄関に滑り込む。

「ああああ!!!それじゃあ行ってきまーす!!!!」

私は靴を中途半端に履くと、家の中から「行ってらっしゃい。」と言う優しい声がした気がした。


「ああああ!!!!!やばいやばい!!!!」

私はそんなことを呟きながら必死に走る。


走る。



息切れしても、私は止まることは絶対にしなかった。



だって、だって今日は!!!



「あ、ユミーさん…じゃなくて、五十嵐さん。」

「はあ、はあ、はあ…yutoさん…じゃなくて、双葉、待ったか?」

私は息切れしながら聞くと、彼は優しく微笑み、「大丈夫です。待ってませんよ。」

その言葉を聞くと、私は安堵し深く息を吐いた。

「それじゃあ、行きますか。」

「ああ。そうだな!」

私は彼、双葉ふたばさんのエスコートの元、待ち合わせ場所のすぐ近くの駅のホームへと向かった。



ガタンゴトン…

揺れる電車の中、私と双葉さんは電車の座席の一つに座っていた。

私は席の端で。双葉さんは、4センチほど離れたところで。

「き、貴様…バイトは大丈夫なのか…?」

「ええ。僕が都合の合う日に誘ったので。今日は僕にとっては、とても都合の良い日です。」

「そ、そうか…ならよかったのだが…」

うう…き、緊張する…

なぜこうなったか。

それは昨日の話になる。


私が、「ともかくあした、頑張れ、匠!」なんて思っていた時、ちょうど、yutoからLINEが来たのだ。

その内容。それは…

「に、にしても珍しいな…き、貴様が自ら誘ってきたのもあるが…ふ、二人だけで、す、水族館に行くなんて…ま、まるでこれは言うなれば…」

私が厨二病の言葉を探していると、双葉さんは

「で、デート…と言ったところでしょうか…」

と、頬を真っ赤にして言ってきた。

「そ、そうとも言うかもな…!!」

私は照れ隠しに、風景を見ながらも、そう返答した。

きっと、今の私の顔は真っ赤になっているだろう。なぜなら、少し熱く感じるから。


「はい。大人2枚で。」

私と双葉さんは整理券を買った後、水族館の中に踏み入れた。と、同時にやはり吐き気が襲ってくる。

「うっ!!」

やはりか…双葉さんが誘ってきたことに喜びを感じ、すぐにOKしたけど、やっぱもうちょっと考えるべきだった…

実は私。なぜか水族館のあの独特な匂いを感じると、吐き気を催してしまう。そういう体質なのだ。

「ううっ!!!」

私は必死にお腹あたりで止めると、一歩先歩く双葉さんに、「大丈夫ですか?」と心配された。

私は、必死に我慢をし、少し間をおいた後、

「だ、大丈夫だ…問題ない…い、行こう…」

と双葉さんに言い、足を動かした。


そこからと言うもの、私は全くデートに夢中になれず、ずっとお腹の苦しさに悩まされていた。

うう…き、気持ち悪い…

「だ、大丈夫?五十嵐さん…顔色悪いよ?」

「え?」

私は暗くなったスマホの画面を見ると、そこには、顔が真っ青になり、今にも倒れそうな私の姿があった。

「う、うわ…ひ、酷いな…」

私は「厨二病」という設定をすっかり忘れ、「あそこに座ってて!水買ってくるから!」と言う双葉さんを見送った…

私は水族館の一番大きな空間と思われる場所の椅子に座った。

そして、私が気持ち悪さに苦しんでいると、すぐに色んな飲み物を持って、頭に大粒の汗を垂らしながら、走ってくる双葉さんの姿が見えた。

「は、はあ、はあ…こ、これ…念のため、色んなドリンク持ってきたよ!」

双葉さんは持っていたドリンクを全て、椅子の上に広げると、「ど、どれが良い?」と、息を切らしながら言ってきた。

私は無言で、小さいペットボトルに入ったなっちゃんみかん味を選ぶと、それを一気に飲み干した。

口の中で、オレンジジュースの味と匂いが広がると、私はすぐに、水族館のあの匂いの苦しみから解放される。

「は、はあ…」

「あ、顔色が良くなった!よかったぁ!」

と言うと双葉さんは息を吐いて床に、腰を付けた。

「あ、あの…双葉さん…」

私はなっちゃんを片手に椅子の余った隣の部分を優しく叩く。

その意味がどう言うことかわかったのか、双葉さんは明るい顔をして、「あ、ありがとう!」と言った。

「じ、実は私、水族館の匂いを嗅ぐと、どうも、気持ち悪くなるみたいで…な、なぜかそういう体質みたいで…」

「そ、そうなの!?ご、ごめんね。僕がこんな所に誘っちゃうなんて…」

私はその言葉を聞くと、すぐに周りを見渡した。

部屋は薄暗く、足元はよく見えない。でも、そんな暗闇にも、天井からの光と、そして、部屋の壁いっぱいに広がった大きな水槽の光はとても綺麗に見えた。

まるで映画館のスクリーンのように取り付けられた水槽の近くにはピアノが置いてあり、そして水槽の中には魚が悠々と泳いでいる。

こんな場所が、悪いはずない。

「ご、ごめん…今日、五十嵐さんの誕生日って言うから、サプライズで贈り物をしようと思ったんだけど…最悪な贈り物になっちゃったみたいだね…」

私はその言葉を聞くと、考えることもなく、

「さ、最悪な贈り物なんかじゃない!!!」と大声で言ってしまった…

そして、「あ」と言った後、この空間に私と双葉さん以外に誰もいない事を確認すると、少しホッと息を付いた。

「え?でも、水族館って、あんまり来たくなかったでしょ…?」

と、弱々しく双葉さんが言うと、私は「ぜんっぜん!!」と強気に返した。

「私は、誘ってくれただけで嬉しかったです…まともにネトゲしかしてなかったので、実はこうやって誰かに遊びに誘われるのとか、本当は初めてで…で、でも!!本当に嬉しくて!!それで、それで…!」

私が口籠っていると、双葉さんはホッと一息し、にっこりと笑う。

なぜだか、心臓の鼓動がどんどん早くなっていく…

「なら…よかったです。僕、実は、渡したいものがあって…本当は、ここにきてすぐに渡そうと思ったんですけど…」

そう言うと、肩にぶら下げていた鞄から小さな箱のようなものを出した。

「僕、実は料理が得意で…キャンディーを作ってみたんです。」

「キャンディー?なんで急に?」

「え?今日って…五十嵐さんの誕生日ですよね?」

え…あ、そういえば!!!

「だから、誕生日プレゼントです。受け取ってください。」

双葉さんは照れながら、ラブレターを渡すようにプレゼントを差し出してきた。

そして、私は双葉さんが下を向いているのを良いことに、蔓延の笑みを浮かべて、両手でプレゼントを包むようにして受け取った。

「ありがとうございます…今、食べても大丈夫ですか?」

「あ!い、いえ…こ、ここは飲食禁止なんで…」

私は笑いながらも、「そうですか…少し残念です…」と言った。

私はパンフレットを開くと、あることに気づいた。

「あ!もうちょっとで、イルカショーがあるみたいですよ!行ってみませんか?」

そうすると、双葉さんは、「え?大丈夫ですか?」と、まず私の事を心配してくれた。

「大丈夫です!行きましょう!」

と、私は双葉さんの手を握ると、今度は私がエスコートをしながらイルカショーへと向かった。


「あ!そういえば、五十嵐さん、やっぱり厨二病のフリしてたんですね。」

急な言葉が心に突きささり、返答ができなくなった私は、頬を赤らめてしまい、「あ…え、えっと…それ、匠には言わないでください…」とだけしか言えなかった。

「はい。わかりました。」

私はしばらく、握っていた手から手汗が出ないかの心配しかできなかった。








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