第五十二章 再会

禾本のぎもと 和樹かずき

「あらあら、もう倒れてしまったのですか?」

「グフッ! はぁ・・・はぁ・・・」


 ——つ、強すぎる・・・・・・これが氷獄のエムリの力か・・・!




「私の相手はあなたですね?」

「あんたは・・・」


 つい数分前、俺は予定通り幹部と戦うことになった。てっきり男かと思ったんだが・・・

 背中を覆ってしまうほどの白く長い髪。そして青い瞳をした女性幹部がそこに立っていた。


「私は氷獄のエムリ。デストロイ・サンダーの一人よ」

「まさか女性幹部とはな・・・」

「女だからって甘く見ないでちょうだい。これでも私はほかの3人よりはるかに強いわ」


 そう言いながら彼女、エムリは手のひらに魔力を込めていた。氷獄というからには氷系の魔法を使ってくるはずだ。そうなれば火属性である俺の魔法と相性がいい。油断しなければ勝てるはずだ!


「そうか・・・なら、行くぞ!!」

「来なさい!」


 俺は瞬時に魔力を込めて炎を生み出した。対してエムリは予想通り氷魔法を用意している。


「くらえ!! 火炎三連砲(トリニティ・ロアー)!!」

「凍えなさい! 地獄氷山ヘルアイス!!」


 俺の火炎魔法とエムリの氷結魔法。対極の魔法が同時にぶつかる。よし、これで押し負けることがなければ・・・!


 だが俺の火炎魔法は対抗するどころか一方的に押し込まれてしまった。


「ぐあああああああああ!!」


 そのまま耐え切れずに俺はやられてしまった。俺の火炎魔法による痛みとエムリの氷結魔法の痛み。その同時を浴びせられてしまった。





 そして現在に至る。



「はぁ・・・はぁ・・・」


 まだ魔法を一回ぶつけ合っただけだ。だがそれでも俺はこの一発で力の差を見せつけられてしまった。


 ——いや、まだだ。俺はここで奴を食い止めなくては・・・ 勝たなくていいんだ・・・ ここで食い止めれねえと恵美えみに合わせる顔がねぇ!


「ほう、まだ立つか」


 俺は力を振り絞り立ち上がった。ふらつく体に鞭を叩きながら。


「まだだ・・・ 本番は・・・これからだ・・・!」

「おもしろいわ。ならいくらでも返り討ちにしてあげる!!」




黒速くろはや 次射じい

「貴様・・・!」

「フフフ、君が私に向かってくることは想定していたさ。黒速次射」


 仮面の男は胸ぐらをつかんでいたわしの手をあっさりと振り払って、そのまま地面に着地した。それを追うようにわしも着地する。


 辺りを見回す。ここはおそらくわしが老衰の解除方法を探していた時に籠っていた森の中だ。


 とりあえず仮面の男を引き離すことしか考えていなかったので人がいないのかどうか確認していなかった。しかし、ここならそうそう人が紛れ込んでくることもないだろう。


「ようし、ここで思う存分戦えるわい」

「フフフ、確か前回戦ったのは数か月前だったかな?」

「まぁそんなとこじゃな」


 少し対話をしながらわしは戦闘準備を整える。まず襲雷しゅうらいでスピードを上げる。そして黒雷こくらいを拳に纏い、黒裂弾獣破こくれつだんじゅうはを放つ準備をする。


 すると仮面の男はわしに向かってゆっくり歩み寄り始めた。


 わしは油断せずに構えを解かない。奴はそのまま一歩、また一歩と足を止めない。そしてあと数歩でわしの目の前に着くあたりのところで仮面の男は足を止めた。


「おらぁ!!」


 仮面の男がわしの半径3mに入った瞬間、わしは奴の仮面に向かって拳を振るった。そしてわしの拳は見事奴の顔にクリーンヒットし、奴の仮面を壊した。


 わしは仮面の壊れた音を聞き、一度ステップバックして距離を取る。そしてその顔を見た。これだけの魔力と統率力を持っておったからな。ずっと仮面をしていたのでどういう顔なのか見ておきたかったのだ。


「!?」


 だがその顔を見てわしは驚愕した。赤い髪に、凛々しい顔つき、そしてまっすぐな瞳。


「こうなるのでしたら先に第3の目を解放しておくべきでした・・・」


 わしらの学校の校長が立っていた。




「バレてしまっては仕方ありませんね・・・」

「校長・・・・・・なぜお主が・・・!?」


 わしは今までにないほど驚いている。なにせ一ミリも予想していなかったからだ。しかしそうなるとわしは一つわからないことがある。


「素顔が分かったついでじゃ。質問させてくれ」

「なんだ?」

「お主の目的はなんじゃ?」


 わしは校長の目的がよくわからない。わしを学校から消したかったのならわしが家出した際にわざわざ猶予を与えはせんじゃろう。自分の手で殺すため? だとしたらその理由がわからん。わしと校長に接点という接点がないからじゃ。


「目的? そんなの決まってるじゃないか」


 すると校長は今までの敬語口調を崩した。


「あなたに復讐するためですよ、吉本」

「!!!」


 その名前を聞いたときにわしはハッとした。吉本、それはわしの前世の時の苗字じゃ。わしは奴のことをよく見た。わずかながら面影がある。


「お主・・・・・・まさか、舛元せんもと 嚥疑斗のぎとか!!」

「やっと思い出してくれたか、吉本」


 わしは驚いた。まさかわしと同じように転生してきた者が、しかもわしの知り合いとは夢にも思わなかった。


「なぜわしに復讐を?」

「とぼけるな。君が俺の人生を壊したんだ。私は君から彼女を奪われた後、人生に絶望した。抜け殻のような生活をしていたよ。ご飯はすべてカップ麺。どんな仕事をしても1週間でクビ。実家からも勘当されてしまってね。ホームレスになりながらも俺はお前に復讐しようとした。だが結局その夢は果たせずそのまま死んだ。そして目が覚めるとこの世界に来ていたから驚いたよ」


 少し語弊があるので補足すると前世、奴はわしの妻のことが好きでな。わしと三角関係だったんじゃが最終的にはわしが正攻法で彼女を射止めた。その後、奴のことは聞いていなかったがまさかそんな生活をしていたとはな・・・


「私がこの世界に来たのは24年前だ。その時にはお前が来ることは確信していた。だからここまで準備していたんだ。前世の知識を活かして飛び級進学を繰り返した。そしてそのまま最年少で校長にまで上り詰めた。そして校長になって1年ほど経ってから知ったよ。君がこの世界にやってきたことを・・・」


 すさまじい執念である。元々奴はわしと同じくらい勉強ができた。そしてその知識も相当なものだった。前世の知識があれば奴なら最年少で校長になれたのも納得だ。


 だがわしにはもう一つ気になることがあった。


「こないだ戦った時に炎魔法から氷魔法に変わっていたのは転生者の特性か?」


 普通、属性は途中で変えることはできない。だが転生者の特性で2種類属性を持っていたのなら話は別だ。実際わしも雷と老衰の2属性だったからじゃ。


 だがわしは一度奴の体を調べ、転生者の証がなかったことは確認済みじゃ。いったいどうゆうことじゃ?


「フフフ、今から教えてやるよ。お前の知らないことをすべて」


 そして舛元は語り出した。この世界の本当の真実を。

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ジジイと次射と異世界転生 テレシー @teresi-

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