ミステリ短歌
鮎村 咲希
ミステリ短歌
ノックスかブランドあたり名乗ったら十角館に乗り込むならば
背表紙が折れた姑獲鳥の夏 朝の教室挟んだままのページ
読むほどに謎が深まる書類にはドグラ・マグラが取り憑いている
倍音の意味ははっきりしないけど黒死館に何度も出てきた
猫の尾はまだらの紐だ添い寝した者をもれなく目覚めなくする
絶対に黒に染めたりしないこと白髪組合規則その一
被害者になりたいのなら壁紙を黄色く塗って夜を待つこと
散歩者の居場所が屋根裏でなくて路地裏ならば謎は生まれず
山荘に集まるときはよく見てね天気予報が嵐じゃないか
木は森に隠せというが四本になった木はもう森にはあらず
アイウエオ殺人がもし起こってもワタナベさんは生き残るはず
数分でGの悲劇は幕切れて殺虫剤の痕跡拭う
ホームズでなくともわかる髪くずのついたその顔サロン帰りと
針と糸使いこれから始めます密室作りじゃなく裁縫
一人二役トリックじゃさばけない仕事副業子育て介護
アリバイを語る口元見られてるまずいゆうべのトマトソースだ
悪いけどナイフ一本買ってきてあまり凶器っぽくないやつを
最初からただの友達だったよね君が仕掛けた叙述トリック
そして誰もいなくなった公園のジャングルジムは血の匂いして
この歌は虚無への供物あたたかい虚空にこだまするだけの歌
ミステリ短歌 鮎村 咲希 @Ayu-nyanko
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