第8話 聖女を巡る争い

その昔…前国王がまだ王子だった頃

帝国領には聖女が居て崇められていた


聖女は塔の上で日々平和のために祈りを捧げていた


その話を伝え聞いた当時のファルデアン王国の王子アデルバイジャンは疑問を持っていた


聖女と言われているのに閉じ込められているのか?

何の為に?

彼女には自由は無いのか?


居ても立っても居られなくなったアデルバイジャンは聖女を救う為に秘密裏に帝国領ヘ侵入していくのだった


夜間に移動して徐々に聖女が居る塔へ近づいていく


闇に紛れる為に黒い服を着用したその姿は闇討ちに行くアサシンのようだった


護身用に短めの剣を持ち忍足で移動して人目につかないように慎重に進んで行った


やがて塔の入り口に辿り着くと見張りの兵士を手早く気絶させて鍵を入手した


足音を立てないように細心の注意を払って最上階へ向かう


ドアの前で中の様子を伺う


流石に夜中なので聖女は眠りについているようだ


そっとドアを開けてベッドに近づく


月明かりが窓から差し込むと聖女の顔を照らし出した


伸ばしっぱなしの髪は乱れている


それでも美しい顔立ちに見惚れていると聖女が目を覚ました


「きゃっ!貴方は誰?」


驚いて飛び起きようとする彼女を落ち着かせるように静かに語りかけた


「俺の名はアデルバイジャン…ファルデアン王国の王子だ…君をここから出してあげる…」


「え?私を?何故?」


「だって君は祈りを捧げる為にここに閉じ込められているじゃ無いか…そんなの理不尽だよ…」


聖女は戸惑いながらもアデルバイジャンの顔をジッと見つめてこう言った


「私はそれが当たり前だと思っていました…外に出るなんて考えた事も無かったわ…」


困り果てたアデルバイジャンはこう問いかけた


「でもこのまま死ぬまでここに居るの?」


「それが私の運命だと思っていましたから…」


「なら俺と一緒に新たな地へ行こう…しがらみから解放されて自由に!」


「そんな事許される訳が…」


剛を煮やしたアデルバイジャンは聖女を抱き抱えると部屋から出て塔を降り始めた


聖女は驚きながらも息を殺してジッとアデルバイジャンの顔を見つめた


端正な顔立ちの美青年


そんな人物が自分を外の世界へと誘ってくれるなんて夢のようだった


塔から離れた場所に馬が繋がれていた


「これに乗って俺の国へ行こう…ここまで来て帰るなんて言わないでくれよ?」


「わかりました…貴方に付いて行きます…」


「そう言えばまだ名前を聞いてなかったね?」


「私はテミオディーネと申します」


「じゃあテミオディーネ…ファルデアン王国へ行くよ!」


「はい!」


こうしてアデルバイジャンは聖女テミオディーネを帝国領から連れ去って来たのだった


その後帝国との争いは避けられなかった


そして後に王になったアデルバイジャンはテミオディーネを妻にしたのだった


そして2人の間には長男アルステミオと長女ディーナが産まれるのだった


2人の名前はテミオディーネから取ったものだったのだ



テミオディーネを連れ戻そうとする帝国と何度も戦いになった



そしてまだアルステミオ王子とディーナ姫が幼いある日事態は一変するのだった



争いを続けるファルデアン王国の兵と帝国の兵の元へ姿を現したテミオディーネはこう告げた


「私の出身地である帝国とファルデアン王国が争うのは私が居るからなのですね…それならば私が出来る事は一つだけ…」


そう言うとテミオディーネはナイフを取り出して自分の胸に突き刺した


「これで…争いの種…である私は…居なくなります…どうか…争いを…やめて…これが…私の…最後の…願い…です」


こうして自ら命を絶ったテミオディーネの願いは叶えられる事になるのだった



悲しい物語…それが真実であった




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ヴァルキリー防衛隊 みゅうた @tomrina

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