17 バッドエンド?
「……ククッ……あぁ、耐えた、耐え切ったぞ……ッ」
星剣の攻撃によりボロボロとなった体で、聖都の通りを引きずるようにして進む。
全身を焼かれた。血は止まらない。地面を赤く染めながら、それでも足を前へ動かす。
戦闘の最中、あれだけ身体を
いや、痛みだけじゃない。
今の俺には地を踏み締めている感覚も、剣を握っている感覚もない。
体は重く、感覚は鈍く。
まさに満身創痍。
聖都襲撃開始時は、こんな状態になるだなんて思ってもみなかった。
「……星剣と精霊を、こんなすぐに手に入れるなんて予想出来るわけない、だろう……ッ」
思い返せば、カレンの水晶結界から予想外は始まっていた。
星剣や精霊が現時点で集まる事も予想外。
ただの人間である俺に対して、星剣の解放を使ってくる事も予想外。
――俺という異物を排除する為に、世界が敵に回っているようにすら思える。
「だが……、俺は生きている……ッ」
邪剣による抵抗のお陰か、ラスタが手に入れたばかりの武器を完全に扱えていなかったのか、星剣の切り札を耐えられた。
笑えてくる。
今のラスタ・エトワールが、俺を倒し得る可能性は一切なかったはずなのに。
――ただ、ラスタと戦いたかった。
――敵として、立ち塞がりたかった。
――アイツという“光”に、俺という“闇”を知って欲しかった。
「……その上で、“ラスタ・エトワール”なら手を伸ばすと思った……」
――それで、結果はどうなった?
聖都襲撃は“ラスタ・エトワール”と“ルクス・テラー”の初
再現しようとした
目的の神器は見つからず。
俺は死にかけながら逃げている。
何もかもが想定の範囲を超えていく。これまで維持しようとしてきたレールが致命的なまでに
でも――
「――良かった」
“ラスタ・エトワール”は万人に愛される主人公――ではない。
老若男女が好む愛くるしい見た目をしているわけでもない。
どんな相手でも倒せるブッ壊れの強さを持っているわけでもない。
――ただ、
その立ち振る舞いに、その言葉に、その
決して届かないと分かっていても、天に輝く星の光のように惹きつけられる。
「俺という理不尽に立ち向かい、正面から乗り越えたお前こそ、“ラスタ・エトワール”に違いない……お前は必ず、全てを照らし、全てを導く“光”になる」
――だから、俺の憧れが間違いであるはずがない。
ラスタはまだ、ようやく歩き始めた存在。
これからの戦いで成長して、彼は“ラスタ・エトワール”となる資格を得る。
その果てにラスタ・エトワールは誰もが認める“光”になれる。
「そうすれば、俺の憧れも、俺が歩んできた道も、お前なら理解できるはずだ……。
――なにせ、俺は
体を動かし、道を進む。
こんなところで倒れるものかと、気力で意識を繋ぎ止める。
聖都襲撃作戦は失敗だ。
神器が保管されているとされる大聖堂は全壊し、肝心の神器も行方不明。
幹部である俺もこの有り様。
「帰ろう……何も予想通りに行かなかったが、最高だった……生きているのなら次がある。また話せる機会なんて、いくらでも作れる。ラスタ・エトワール、お前が“光”になれるのだと分かっただけで十分すぎる……ッ」
どんな逆境でも
どんな時でも輝く“光”。
ご都合主義があるから?
運命に愛されてるから?
――違う。
「強い意思なき者に、幸運は訪れない……“光”なき者を、世界は愛さない……」
――そう。だから、
「やあ、君はいつも遅い到着だね」
開けた場所に出た。
辺りには
――通りを進みながら、ずっと考えていた。
「ハッ……ヒーローは遅れてやってくるのがお約束だからな」
――聖堂での戦い。あれだけの規模の戦闘をしながら、どうして王国の騎士や教団の信者が誰もやって来ないのか。
「ハハハ、面白いことを言うじゃないか。君はヒーローじゃなくて、生粋のヴィランだろう?」
――これまで何度も嗅いできた死の匂い。
――頭部のない、鎧をまとった死体があった。
――黒いローブの隙間から、赤をこぼす死体があった。
――そこにあったのは、王国騎士や教団信者の死体の山。
「その様子だと、ちゃんと彼らは役目を果たしてくれたみたいだね。……二人は強かったかい?」
多くの死を築き上げた広間の中央で、聖槍を
「クク……あぁ、見ての通りだ」
もう一度周囲を見渡して気づく。
瓦礫の山に混じって、俺がよく知っているヤツらがいた。
その金色の獅子の特徴を、真っ赤に染めて倒れ込むレグ。
体が上下に別れて、その中身を溢れ落としているリンリー。
「――そこを退け、フレイ」
「退くわけないだろう。ここは聖都。聖神様のお膝元。多くの騎士が神の下に帰った。分かるだろう? これだけ暴れたんだ、誰一人として帰す気は無い。城塞都市みたく逃げれるとは思わないことだ。
――今の僕は、誰にも
笑いながら、されど真剣に。
この広間の惨状を生み出したであろう犯人は告げてくる。
聖槍の担い手、『聖騎士』アダムス・フレイは自他共に認める聖王国最強。
しかし、レグとリンリー、二人の教団幹部を相手にしたのだ。
今のフレイは万全な状態ではないのだろう。
彼の体や、鎧にできた傷がソレを物語っている。
――それでも、剣を握っている感覚もあやふやな俺が勝てる相手ではない。
「クク……ッ」
星の剣を相手にした後に、『聖騎士』を相手にするなんて、ゲームだったら炎上間違いなしのクソイベだ。
この男は、強すぎる。王国陣営で、一人だけ頭ひとつ抜けている。
――今日は、最高で最悪な一日だな……ッ。
「ならば、押し通るまでだ」
「君の運命は、ここが行き止まりだよ」
――終われない。こんな所で、俺の夢は終わらせない。
ようやく、主人公と出会えたのだ。
これから考えなければならない事はたくさんあるのだ。
星剣が手に入ったのなら“魔の森”はどうする? 王都防衛戦は?
――まだ、物語は始まったばかり。
「
――俺はまだ、“光”を掴んでいない。“光”に掴まれてない。
「【――起きろ。邪剣ウロボロスッ!】」
「【――輝け。聖槍ブリューナク】」
――俺はお前を越えて、
邪剣と聖槍がぶつかって、“闇”と“光”が辺りを満たし――
*――*――*
「――やぁッ! せいッ!」
意識が覚醒する。
「(……んぁ、ここは――)」
目に飛び込んできたのは、広がる青空と流れゆく白い雲。
柔らかい草が体を包み込み、風は頬を優しく撫でる。
そして、植物と土の香りが鼻をくすぐってくる。
「(草原? いや、俺は何を……?)」
――記憶が飛んでいる。
「(幻術? 催眠?)」
――肌にあたる風も、草葉の匂いも本物だ。
「(ラスタ……? 違う。フレイか。フレイと遭遇して、それで――)」
――それで、どうなった?
「あの後、俺は……」
「ん? おお、気分はどうじゃ、我が眷属よ。ふっ、おぬしもだいぶ寝坊助じゃな」
聞き馴染んだ声がした。
声のした方に顔を向け、俺は驚く。
「なんじゃ、我を見て固まりよって。もしや、我に見惚れたか? ふむ、それも仕方あるまい。なにせ、我は数多の神を破滅させてきた魔性の女神――――」
紫色の髪、側頭部から生える2本の角。
腕を組み、その慎ましい胸を強調しようと無駄な努力をしている我らが主神――邪神ちゃんがコチラを見て笑っていた。
だが、俺が驚いたのは彼女じゃない。
――俺の目を奪ったのは、彼女の奥にいる子供。
「フッ……! セイ、ヤッ! ソリャッ!」
遊んでいるのか、威勢よく木の剣を振り回している男子。
「……あぁ、我よりもソッチの方が気になるのじゃな?」
くすんだ灰色の髪。見た目相応の、キラキラとした輝きを備えた瞳。
どこか、見覚えのある特徴を持っている少年。
「――ふっ……めざすは世界最強。俺と“ラスタ”の二人で、世界を救ってやる!」
彼は手に持っている木剣を掲げて叫んだ。
「ふふ、おぬしにも可愛らしい時代があったようで安心したぞ」
少年はよく分からない剣の演舞を再開し。
邪神ちゃんはその姿をニヤニヤと眺め。
俺は――
「(そうか。これは夢か)」
――草原に寝転び、再び目を
これは、“光”に惑わされた男の物語。
ウェルカムトゥ
後に光堕ちする悪役に転生したら、気付けば邪神教団の最高幹部になってました。〜教団の最高戦力?邪神様の忠実なる使徒?主人公陣営に合流する前に強くなろうとしただけですが??〜 七篠樫宮 @kashimiya_maverick
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