鍵閉め
高黄森哉
鍵閉め
駐車場は広大だ。どれくらい広大かというと、終わりの見えないくらいだ。縦はダムのような巨大な壁がそびえているから大したことはないのだけど、横は帯のように、壁にそって延々と続いている。
駐車場には等間隔で照明が立っている。だから、夜でも明るい。今日のような雨の日の夜は、降水に照明の光が反射して、雨粒がきらきら光って見える。それがなんとなく金属質だ。
私は、鍵開けを終わらせなければならない。それが一体、なんの鍵開けかはわからない。現に駐車場にはなにも停まっていない。だけど、空中を捻るふりをして、一つ一つを閉めていく。
仕事を始めて分かったことなのだが、世の中には無駄な、しかししなければならないこと、というものがある。これもそういう類で、形式だけでも達成しなければ、帰れないことになっている。
雨は冷たい。体は弱っていく。雨が降った日に、道路で轢かれる動物が多いのは、寒さで脳みそがかじかんでしまうからに違いない。震えながら、指先まで冷たい手を空中で捻る。
傘はさしてはならないことになっていた。傘をさすと、張り出したところで、車を傷つけてしまう危険があった。なにもない駐車場で、傘を差さず、雨に打たれねばならない。
普段は分担しているのだが、今日は誰も空いていない。だから、全て一人でしなければならない。正直、過多だ。ただ、戻ってもすることはない。することがないよりかは、終わらないほうがよっぽどいい。
不思議なことに、彼らは、私が仕事をやり切ったかどうか知っていた。監視カメラでもあるのかもしれない。それを宣告するとき、彼らはサディスティックな言葉で、批判する。
だんだんと意識が遠くなる。体中が冷たい。もう無理だ、と心が折れそうになる。この列だけやって帰ろう。もしここで気絶したら、助けは来るだろうか。来ないだろう。店内は忙しいのだから。
鍵閉め 高黄森哉 @kamikawa2001
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