私は一つだけ、友情と愛情の違いを知っている

西影

今年もクリスマスは君といる

 恋と愛の違いを私は聞いたことがある。それは、想う人の違いだ。恋は『自分』を想っていて、愛は『相手』を想っている。


 帰りが遅ければ浮気を心配するのが恋、相手の身を心配するのが愛なんだとか。


 「独りよがりな恋」とはよく言ったものだ。恋の状態では自分が可愛いだけで、自己中心的にしか考えられない。


 じゃあ、友情と愛情の違いは……?


 同性と親しければ友情で、異性と親しければ愛情?


 ……なんか違う気がする。それだと異性の友情が成り立たないし、同性の愛情を全否定してしまう。


 だったらキスをしたら、身体を許したら愛情で、それ以外は友情?


 これも、腑に落ちない。身体だけの関係なんて世の中にたくさんあるだろうし、それら全てに愛情があるとは考えづらい。


 だったら二つの違いは何か。私はその二つの感情を分けられるほどの知識を持ち合わせていない。


 でも一つだけ、私は友情と愛情の違いを知っている。


 それは──関係の脆さだ。


 ◇◇◇


翔子しょうこって彼氏作んないの?」

「……そんな質問に答えるために残ったわけじゃないんだけど」


 放課後、テスト勉強のために私と諒太りょうたは教室に残っていた。


 残っていた……のだが、二人きりになったらすぐ脱線。その態度の変化に、思わずため息が零れる。


諒太りょうたこそどうなの? この前、隣のクラスの子から告白されてたじゃない」

「気持ちは嬉しかったけど、断らせてもらったよ」

「期末テストが終わったら実質高校最後のクリスマスよ? 三年になったら受験で忙しいし、今回ぐらい彼女でも作って一緒に過ごせばいいのに」

「残念だけど、去年からずっと片想い中なんだ。それに、特別な日こそ隣には好きな人が立ってほしいし」

「諦めが悪いわね」


 本当に諦めが悪い。諒太りょうたは一度、告白に失敗している。ちょうど去年のクリスマス、デートの際に告白し、こっぴどく振られたのだ。


「あなたとは友達のままがいい」と。


「一度告白が失敗しただけさ。こんなんじゃ諦めないよ」

「諦めない……か。せっかくモテるのに、彼女のいない寂しい冬休みを過ごすことになるよ?」

「その時は翔子が遊んでくれるだろ?」

「まぁ、だからね」

「よっしゃ」


 暗闇から光の華が咲いたように、パッと笑顔を浮かべる涼太りょうた


 その笑顔を見ると胸が締め付けられるように痛くなる……。


「ほら。こんな話は置いといて勉強始めるよ。平均以下の点数なら遊んであげないから」

「やべ、そりゃあ頑張らないと」


 諒太りょうたがテキストに視線を落としたのを見届けて、私も問題集を解き始める。一緒に勉強して、遊んで、くだらないことで笑って。こんな関係が私は好きだ。


 例え、この先の進路が違って別々の道を辿っても、たまには会いたいと思う。大人になったら一緒にお酒を飲んで話したいし、長く付き合っていきたい。絶対に手放したくない関係。


 だから──私は諒太とは


 恋人という関係は友達の上位互換だとよく聞くが、その関係は非常に脆い。その期間はどれだけ仲良くしていても、別れた後は互いに干渉しづらくなる。


 これまで何人もそんな友達を見てきた。恋人だったことが嘘みたいに悪口を言い、険悪な仲になってきた人たちを。


 それが、高校生の恋愛。


 それが、恋人という関係。


 私はそんなリスクを負いたくなかった。


 それだけの理由で、私は去年のクリスマス、諒太りょうたを振った。


 声は震えたし、胸も痛んだ。


 卑怯だと思う。薄情だとも思う。


 手が届きそうで届かない。そのもどかしさ、辛さを私は知っている。


 けれど、諒太りょうたとの関係を断つことに比べたら安いものだ。


「なぁ」

「……何?」


 またしても声をかけられるが、問題を解き続ける。話すたびに手を止めていればキリがない。


「俺、諦めないから」


 不意打ちの言葉にペンを止めてしまった。視線を向けるが、諒太りょうたは私ではなくテキストを眺めている。


「……後悔しても知らないよ」


 ぶっきらぼうに言葉を返す。


 こんな関係ではあるが、そろそろ一年が経過しようとしていた。時の流れは恐ろしいと思いつつ、頬杖をついて窓の外に目をやる。


 ――熱くなってきた頬を彼に見せないために。

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