8話:消え口がそろう 最終話

「あなたに、あなたに花火を送ります。僕は紅音さんが好きです」


 ピカっ、鮮やかな赤色で去年の花火よりも一回り大きい、まるで一輪のバラのような花火だ。

「えっ」

 反応が遅れる。

 ドーン、花火の音と鼓動の音が一瞬重なる。星空さんが真っ直ぐにこちらを見ている。

「もう二度と紅音さんに不安な思いはさせません。だから僕の花火をうけとってくれませんか?」

 言葉が詰まる。答えなんて決まっているのに。

 嬉しさと驚きで声がかすれて涙がこぼれる。抑えられない、けど答えないと。

「はい。こんな私でよければ」

 自然と二人は近づき、体を預ける。体温を感じ、鼓動が同期する。

 やさしく抱き合う。

「座りますか」

「はい」

 星空さんとベンチに腰を掛け花火を見る。そっと手に触れてみる。星空さんは照れながら手を握ってくれた。しばらく二人は会話なく夜空を見上げる。会話などなくても通じ合えてる気がした。

 涼しい風が吹く。とても心地良い空間。周りの人の目はなく二人だけの空間。永遠に続いてほしい空間だ。

 でも永遠な空間なんてなく、花火大会のプログラムはあっという間に終了した。

「紅音さん、僕は去年の約束を守れましたか?」

「はい、とてもきれいな花火でした。あまりの美しさに見とれてしまいました。」

「はは、嬉しいです。この約束を守るために頑張ったかいがありました」

 星空さんはくしゃっと子供のように笑う。珍しい笑い方でドキッとしてしまう。

「そろそろ、戻りますか」

「はい」

 名残惜しいけど、まだ片付けの仕事が残っている。せめてもの抵抗で花火会場に戻る際も手をつないでいた。

「そういえば、今年の飲み会は参加するんですか?」

 そうだった。私も毎年恒例の飲み会に誘われていたんだった。

「星空さんは参加するんですか?」

「はい、山口さんにはお世話になってるし今年は参加しようと思います。それで、紅音さんも参加してくれると嬉しいです」

 えっ、そんな嬉しいこと言われたら参加するしかない!

「はい!参加させていただきます」


 会場に着いた。それぞれの仕事があるから一旦分かれる。

 簡易デスクをたたんだり、ゴミをまとめたり単純な仕事だけど今の私には何の苦ではない。今ならどんな仕事でもこなせる気がした。

 だいぶ仕事が片付いたころ、今年の飲み会の幹事でもある山口さんが来た。

「お疲れ様です、鈴木さん。今回の飲み会は参加する?」

「はい、参加させていただきます!」

「おっ、うれしいねぇ。ありがとう。今回は星空も参加するから賑やかになるね」

「はい、楽しみにしてます」

「じゃあ、また飲み会でー」

 やけにご機嫌な山口さんを後にして残りの仕事に取り掛かる。


 仕事も終わりで花火大会の関係者たちと居酒屋に向かう。私はアルバイトの人たちと、星空さんは玉鍵煙火店の人たちと歩く。どうやら屋台の人たちもきてるみたい。居酒屋の座席もそれぞれグループごとに席についた。自由に注文した、お酒やおつまみが届き後は乾杯をするだけだ。乾杯の音頭は幹事の山口さんがするみたいだ。

「本日は暑い中、お疲れ様でした。ここにいる全員のおかげで今年の川浪花火大会も大成功でした。今日は目一杯楽しんでください!ではグラスを持ってください。それでは乾杯の音頭を取らせていただきます。乾杯!」

 かんぱいー!

 それぞれが飲み食いを始める。星空さんは山口さんと親方さんに今日の花火を褒められていた。二人ともお酒が回っているせいかとても上機嫌だ。微笑ましい光景を見ていると、星空さんと目が合う。席は離れているけど、通じ合っている感じがした。


「それじゃあ、お疲れ様でしたー!」

「また来年もよろしくお願いします!」

 飲み会が終わる。すぐに帰宅する人や二次会に行く人がいて、それぞれが分かれていく。私と星空さんだけになった。

「じゃあ、帰りますか」

「はい」

 二人で歩き出す。

「楽しかったですね、飲み会」

「はい、久々に飲みました」

「星空さんって、結構お酒強いんですね」

「そうですか、いつも山口さんや親方としか飲まないから気づきませんでした」

「なるほど、確かにあの二人はまた別次元でしたね」

 二人は店を潰しかねないほどの大酒のみだった。二人は歩き続ける。

 時折、吹く夜風が心地いい。

「そうだ、星空さんに伝えてなかったことがあるんです。実は就職先が決まりましたー!」

「えっそうなんですか、おめでとうございます」

「ありがとうございます!出版社に就職です。やっぱり写真が好きだったのでいつかは雑誌の編集とかしたくて」

「よかったです。就職先が決まって」

「星空さんのおかげです。自分がやりたいことに向き合おうことができました。私、星空さんに出会えて本当に良かったです」

「いえいえ、それを言うなら僕の方こそ紅音さんに出会えておかげでめげずに花火を作りづづけることができました」

 二人で褒めあってなんだか恥ずかしくて照れ笑いをする。あぁ、本当に最高の気分だ。

 

 月明かりの下、二人は見つめあう。

 お互いに一歩ずつ近づく。

 その二人は唇で愛を確かめ合う。

 雲が月を隠し、二人だけの世界にする。

 幕を閉じる。

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あなたに花火を 桜家 創 @abc96

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