甘い匂いと暗い部屋

@shoo0224

甘い匂いと暗い部屋

 男はいつも。私に好きだと言ってくれる。


 暗い部屋に小さく灯る橙色の明かり。部屋の中では物音はほぼなく、外の学生たちなどの声が聞こえてくるくらいだ。

 女はぬくぬくと温かみのある布団にくるまっている。

 --何時だろうか。学生の声が聞こえるということは、朝なのだろうかそれとも夕方なのだろうか。……分からない。ただ一つ女にわかることは、布団の隙間から覗いて南側のカーテンから少しの光が漏れていること。

 「……朝か」

 たったそのカーテンから一寸の光が刺しているだけで朝だと思った女。

 しかし、女は朝だと実感しても布団からは出ようとはしない。なんなら、朝だと分かった上でもう一度布団を被り直した。


 そして布団の中で女は言う。


 「朝みたいだよ。おはよ。ダーリン」


 布団の中は暗い闇。しかし、目が慣れてくると見えてくるのだ。その顔が……。一度も自分に振り向いてくれなかった、見向きもしなかった男の顔が。

 男は女のその声に対して、息を荒立て体をうねらすことで精一杯だった。

 「そんな息を荒くして動かないでよ。興奮しちゃうじゃない。もしかしてそれが狙い?」

 女はそう男に語りかけたあと、布団の中で男の耳元に口をこう言った。


「何度でもいうけど、もうあなたは私のモノ。この部屋で私と2人きりで住み続けるの」

 女は男の合わさった両手首の紐を確認するように手を滑らせる。

「そろそろ紐、緩くなってきたね。手の方がってことは足の方の拘束もまた締め直さないとだね」

 そう言って女は男に笑みを浮かべる。

「でもね、こうするのもしょうがないの。私はあなたのことが大好きだから。誰にも取られたくないし、どこにも行ってほしくないから。ごめんなさい。でも……愛してる」

 女がそう言うと男は応えるかのように、荒い息を立てて、涙を浮かべできる限り体をうねらせる。

 逃げたいが逃げられないまるで、生きたまま締め上げられた動物のように。

 しかし、女はそんな男を見ても可愛いと思い、女から見れば甘く楽しい恋愛のひと時であった。


 数年後この部屋では男と女の死体が発見された。その時、処理に入った者に記者が話を聞くとこう語った。

--あの部屋はそう、扉を開けてようやく光が入るくらい暗い部屋だった。一歩部屋の中へ入ると凄く甘い匂いがしたのは強く覚えている。 しかし部屋自体は汚れてもいなく、ほぼ何もない--家具もその布団と掛け布団くらいだった。ただ玄関と部屋の中には甘い匂いの正体だと思われる枯れた百合の花が多くあった。

 死んだ男は手足を縛られ、口に猿ぐつわをされてる状態。隣で亡くなっていた女はその男を抱えている状態で発見。

 その女の枕元に何かが書かれた紙が置いてあったという。


「夢の中のあなたはいつも私に好きだと言ってくれたのに」


「あなたは私のモノ」


「愛してる」

 

 と綴られていた。


 

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