さよならまたね


 香澄さんのマンションを出て、一人で海浜公園に向かった。

 奴の墓の前で、俺はまた話しかけてしまう。

 幸せだったかなんて質問は、もうしないことにした。


 呟く。


「お前より大事なものは、もう、見つけられないかもしれない」


 諦めでも呪いでも、ましてや傷でもなく。


 あなたが、幸せでありますように。幸せでありますように。幸福のなか安寧に包まれて、笑えますように。


 そんな感情の行き場はそう見つけられるものではない。ひとときでもあったなら十分で、もしまた見つけられたなら、それは奇跡に近いだろう。


 それでもまた、来るかもしれない。

 この感情が愛になる日が。


「行ってくる」


 答えはない。

 手を伸ばしても触れられない。思い出しては遠ざかっていく。

 それでも。


「またな」


 一方的にそれだけ言って、踵を返した。


 答えは、ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君が死にたかった日に、僕は君を買うことにした 後日譚 成東志樹 @naly_to_shiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ