異世界転生したアラフォー男がイロモノ魔法少女になった

にしき斎

魔法少女の旅立ち、その前の波乱

第1話 まじかるちぇんじ

 その日、世界は滅んだ。

 隕石ドバドバ、地割れバリバリ、洪水ダバダバ、とにかくすごかった。

 当然自分(アラフォー中年男)も巻き添えになって死んだ。

 走馬灯でなんか大切なことを思い出しかけたが、忘れた。


 あの世? に行った。

 一面に白い雲見たいのが広がっている世界だった。

 そこに世界管理職員と称するイケメンが現れた。

 イケメン管理職員が異世界転生を薦めてきた。

 その最中なんか蚊に刺された。

 叩いたら既に吸われていた。むかつく。

 イケメン管理職員と交渉して、異世界転生した。

 行った先は、よくわからないどこかの森の中の泉の前。

 泉を覗いたらタコおじさんが出てきた。

 タコおじさんは去っていった。

 システム、スキル等のチェックをする。

 そこに唯ひとつだけあったスキルを使用する。←いまここ



 最初にたどり着いた場所。

 そこは、おだやかな世界だった。


 森の中、その少し開けたところに泉があった。

 小鳥のさえずりが聞こえ、暖かな木漏れ日が周囲に降り注いでいる。

 空気はさわやかで、心地よいそよ風が肌をなでる。

 季節は、初夏にそろそろ届きそうな頃という感じだろうか。


 いま、その泉のほとりに自分はいた。

 目の前にはシステムウインドウが浮いている。

 例えるなら、14インチくらいの薄型モニター(有機ELみたいな感じ)が目の前に浮かんでいるという感じだろうか。

 その画面には、ひとつのスキル名が表示されていた。

 そのスキルを確認した際に抱いた幾つかの懸念を気にしつつも、そのスキルを使用する。


「 ま じ カ る ★ ち ぇ ー ん じ ! ! ! ! ! 」


 叫んだ。

 やけくそだった。

『できるだけ大きな声で、魂を震わせるほどにシャウトッ!!!』

 スキルの説明文にはそう書いてあったからでもある。

 やけくそに叫んだのは、ここに至るまで存在した幾つもの懸念を振り払う意味の方が強かったのだ。


 そんな複雑な心情を抱いている自分を他所に、その叫びに呼応してなのか、周囲に光の粒子が沸きあがる。

 光の粒子は虹色となって自身の周囲に渦巻くように包み込み、きらびやかに駆け巡っていく。

 徐々に光量は増していき、眩しいくらいに溢れ奔流と化した。

 その光の奔流がやがて繭となって自身を包みこむ。


 しばらくして、光が収束しはじめる。

 すると、その光の繭も粒子に還り、やがて消えていった。


 身体の感覚が妙だった。

(うっ、まぶしいっ!!)

 しかし、一度に大量の光を浴びたためか、確かめようにも目が開けていられない。

 だが、眩しさにくらんだだけなので、しばらくすれば元に戻るだろう。

 とりあえず、目を閉じたまま視力回復を待つことにした。

 どうせだからと、ちょっと考察してみる。


 まず、中年の身体は、あちこちにガタが来ていて、痛かったり調子悪かったりしていた。

 それが無くなっているようで、しかも身体が軽くなったような気がする。

 まるで、若かった時のような感覚で、歳を重ねるごとに重怠くなっていった身体が嘘のようだ。

 それに、こころなしか思考もすっきりクリアになった気がする。

 ただ、重心がちょっと低いのか、少しフラつくような感覚があった。。


(ん、もう大丈夫かな?)。

 そっと目を開く。

 視力が回復していて、眼前には先ほどまで見ていた森の中の景色が広がっていた。

 早速、自身の身体に感じていた違和感を確かめるべく、おそるおそる泉を覗き込んだ。


 そこに、アラフォー中年の姿のかつての自分はいなかった。

 10代半ばくらいの少女がいた。

 ロングの黒髪をポニーテールにしている美少女だった。

「これが、自分なのか…。」

 呆然として呟いた。

 身体に感じていた妙な感覚の正体はこれであったのだ。

 40代の中年の男が、見た目10代半ばくらいの少女になっていた。

 身体の重怠さが消えたと感じたのは若くなったからだろう。

 重心が低くなったのは女性化したからだろう。


 実を言うと、女性化(TS)については覚悟していた。

『魔法少女に変身するスキル』

 スキルの説明文に、こう書いてあったからだ。


 とはいえ、中年男性が10代少女に変身するというのは複雑な気分である。

 気恥ずかしさもあるし、認めたくはないが嬉しさみたいなものもあった。

 若返って身体の不調が改善されたことに対してだろう。

 決して、「若いねーちゃんの身体触り放題だぜ、ぐへへ」的なものではないと思いたい。


 泉に映る自分を見しばらく眺めていると、なにかが記憶の片隅に引っかかった。

(あれ、どこかで会ったこと会ったことがある?)

 この少女の顔に見覚えがあるような気がした。

(………。)

 しかし、どうにも思い出せそうで思い出せない。

 しばらく自身の記憶を探り続けていたが、結局何も思い出せなかった。


 泉に映る自分を再び見やる。

 きりりとした顔立ち、和風サムライガールといった雰囲気であろうか。

 首から下、胸のあたり、微ではなく、巨でもないが、その膨らみは確かにあった。

(無い…。)

 無かったのは、男の時に下半身にあったはずの物である。直接触って確認したがやはり無くなっていた。魔法少女は少なくとも男の娘ではなかったようである。

(まあ、スキルを解除すれば、元の男の姿に戻るか…。)

 解除して、若さを失い多少不自由な身体に戻るのは残念な気もするが、このままの状態でいるのは決して健全とは言えないだろう。

 このスキルにより、今後も繰り返し使用して変身することになるだろう自身を思い浮かべる。

 性転換を繰り返せば慣れが来るのが必定である。

 すっかり慣れ切って魔法少女を満喫する元中年である自分の姿を頭に思い浮かべかけたが、すぐに頭を振ってその想像を振り払った。


 もう一度自分の姿を映し見る。

 あまり直視したくなかった、もうひとつの現実が目に入ってきた。

 それは、纏っていた奇妙な服装にあった。

 その服装とは、『蚊のコスプレ衣装』と表現すればいいのだろうか。そういった代物であった。

 可愛いアニメ風魔法少女コスプレならまだマシだったのだが、どちらかというとリアル蚊に近かった。

 灰色っぽい半透明な2枚羽が背中にあり、服は藪蚊を思わせるような黒と白の縞々模様。

 腕カバーもニーソもご丁寧に白黒縞々である。

 履いているスカートも、そして恐る恐る覗いたその下のものも…。

(しましま。)

 なのであった。


『縞パン』

 いわゆる『縞模様のパンツ』である。

 その視覚的魅力や日本の文化的背景も伴って、『萌え』という要素を引き立てる重要なファクターになっている代物である。

 かくゆう自身、『縞パン』と聞くと、心がどこかときめくことは否定できなかった。

 しかしである。

(全然萌えない。)

 中年男 ―今は少女の容貌をしているが― の自身が履いてしまっていることもひとつの要因あろう。

 そして、ベースが藪蚊ということもあってであろうか、全然ときめきのようなものは感じなかった。

 むしろ『萎え』である。

 ただ、中年の男が少女に変身し、女性用の衣服や下着を身に着けているという事実は存在している。

 それに対する気恥ずかしさや罪悪感(決して興奮等していないぞ)が、多少なりとも軽減されたといえるかもしれなかった。


 さて、奇抜な衣装にはもうひとつオマケがついていた。

 気が付くと手に握られていた棒状の物である。

 魔法少女的に言うなら、いわゆるマジカルステッキというものに該当するだろうか。

 羽が生えており、その羽も一般的によくある天使的なものでなく、蚊的な2枚羽である。

 先端は針のようにとがっており、蚊の口針を模している。

 杖頭は、どこか眠たそうな半眼のまんまるお目目がふたつついているが、お世辞にも可愛いとは言えない代物であった。


 それらの装備品一式が、美少女とかきりりとかいう雰囲気を全て台無しにしていた。


 あらためてシステムウインドウに表記されているスキル名を見る。

 そもそも、最初に感じた幾つかの懸念の大元、それはスキル名自体にあったのだ。


『 ま じ 蚊 る ★ ち ぇ ん じ 』


 イロモノ魔法少女、まじ蚊る★まりもの伝説が今ここに始まる。



 かもしれない。

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