家族を失って絶望してる俺をからかってくるのはオカシイよねっ!?

切ないカレーパン

第1話 失って始めて

お母さんが死んだ。


立ち上っていく白い煙の向こう側で、大介は笑顔のお母さんの写真を見つめていた。

認めたくなかった結果が、これが現実なんだと認めざるを得なくて…

聞き慣れない御経と微かにすすり泣く声が耳を通り抜けていく。


「ねぇ…あの子、なんで泣いてないのかしら?」

「そうよね…自分の母親が亡くなって涙一つ流さないなんて薄情よね」


そんな心ない言葉が大介に突き刺さる。

彼だって分かっているのだ。

彼だって悲しいのだ。


ただ、これが現実だって信じられなくて、理解したくなくて、まるで世界を、全部を拒絶しているような目をしている。


「…さい。うるさい…。何でそんな酷いことが言えるのっ…?」


夏海が大介の親戚の叔母さんたちに鋭い目を向けながら拳を握りしめる。


そうだ。

誰よりも悲しいのは彼のはずだ。

それでも、涙一つ流せないのは、亡くなった現実を受け止めきれなくて、悲しいっていう気持ちすら抱けずにいるからだろう。


「……ははっ…これ現実なんだな。本当に母さんは死んだんだ…っ…」


乾いた声が御経によって掻き消える。


大介のお母さんが亡くなったのは、先月のクリスマス。

原因は過労と元々体が弱かった事が原因で、最近ニュースでも取り上げられている新型コロナウイルスによって肺炎を患い、そのまま帰らぬ人になった。


二人はとても仲良しで、クリスマスはいつも二人で過ごしているそうだ。

母子家庭だから、決して裕福ではなかった。

だけど、変わらずに毎年豪華なケーキを食べているのは、夏海の家がケーキ屋さんだから、お店の手伝いの代わりに毎年ケーキを大介に渡している。


「ねぇ…あの子誰が引き取るの?…私は嫌よ?ただでさえ一人息子でも大変だもの」

「アタシも無理そうね…お金に余裕がなくて」


人によって汚い大人の言葉に聞こえるだろう。

だけど、決して間違ってはいない。

ひと一人を育てるのも大変で、学校に通わせるだけでも何百万とかかる時代だ。

自分の子供ではないなら尚更、引き取りたいと思う大人は少ないだろう。


そうして、葬式は終わり、参列していた人たちは帰っていく。

誰一人、大介に声を掛ける者はおらず、ただ、申し訳無さそうな目線だけを送って帰っていくのだ。


そんな中に一人だけ、まだ、座り込んでいる大介の背後で仁王立ちで夏海は立っていた。


「ねぇ、終わったよ…」


「そうだな…」

大介は振り向くこともなく返事をする。

そんな今にも消えそうな後ろ姿を見て、居ても立っても居られなかったのか、夏海は大介を後ろから抱きしめた。

ただ、何処にも行って欲しくない、そんな気持ちで。


「いきなりなんだよ…夏姉」


「アンタ…これからどうするの?」


「どうするんだろうな?…俺の居場所はもう何処にもない…何処にもない無いんだよっ…」


先程までは涙ひとつ溢さかなった大介の瞳からポロポロと流れ出た涙が地面を濡らす。

葬式が終わってやっと現実だと理解して、大介の心が悲しみと後悔で軋みを上げた。


「夏姉、もういだろう?一人にしてくれ…」


「…………嫌だ」


なおも強く大介を抱きしめる。


「絶対嫌だ……アンタ、どっかにふらっと消えちゃいそうだもん」


「はぁ?……そうかもな。もう、頑張る意味なんて無いんだから…消えたって誰も悲しまないだろ?」


本心かそれとも、やけになっているのか大介から信じられないが言葉が溢れる。


「夏姉だって本当は俺の事、別に何とも思ってないんだろ?」


その言葉を聞いて、夏海は抱きしめるのをやめて、大介の前に移動して両手で胸ぐらを掴んだ。


「バカじゃないのっ!?本気で言ってるんなら殴るからねっ!アタシが大介の事を何とも思ってない訳無いじゃないっ!」


今にも泣きそうな夏海の顔を目の前で見せられて、大介は目線を離せなかった。


「アンタとは血は繋がって無いけど、"家族"だって思ってる!口うるさい弟だって思ってる…。だからっ、そんな事二度と言うなっ!」


「夏姉、ごめん…」


夏海はそっと胸ぐらから手を離した。


「そうだよ、まったく…」


「でも、本当にどうすれば良いかわからないんだ」


それはそうだろう。

彼はまだ中学三年生で、卒業式も迎えていない子供だ。

もし、自分が同じ状況だったら、簡単に乗り越えられるだろうか?

大切な、たった一人の家族を無くして、親戚達は誰も大介を気にかけない。

普通なら諦めて自殺するか、悪人になって悪事に手を染めることだろう。


だけど、そんな状況で一人でも側で寄り添ってくれる存在がいたなら、どれだけ救われることだろう。

共に悲しんでくれて、彼の言葉を受け止めてくれるそんな存在がいるなら。


「家に来なさいよ…パパだって大介の事息子のように思ってるって言ってた」


「大地さんが?」


「そうよ。だから、家に来なさい」


彼女の優しさが、思いが、愛が、大介の心に染みていく。

確かに、大介のお母さんは亡くなった。

だけど、決して一人ではない。


それを理解して、大介はまた涙を流した。

先程までの絶望からくる悲しみの涙ではない。

暖かく、愛に溢れた優しい思いが彼の一つの救いになったのだから。


それを見て今度は大介を優しく抱きしめた。


「…っ、ありがとうッ。…夏姉」


夏海は背中を擦りながら、静かに大介が泣き止むまで抱きしめ続けた。


「ふふっ…大介ってば、こんなに泣き虫だっけ?」


「………ぅるさい」


***************


初めて、作品を執筆し始めました。

今年から社会人になったので、更新の頻度は遅いかもしれませんが週一ペースで出せたら良いなーって思います笑


読んでくれた方に感謝です!

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