ファーストキス

シィータソルト

ファーストキスは何味?

 「急げ、急げ~遅刻しちゃう!!」

小鳥遊雫たかなししずくは通学路を全力疾走している。現在時刻は7:55。ホームルームが始まるまで、あと、15分。それまでにたどり着かねば、ここまで達成してきた無遅刻無欠席が台無しになってしまう。ここまで来たら、あとは左に角を曲がれば高校……というところで誰かにぶつかった。

「……!?」

「……!?」

 背丈が同じくらいの子にぶつかった衝撃にキスをしてしまった。ファーストキスだったのに……!!

「いたた……ちょっと、注意して曲がってくださいよ!! ってか、同じクラスメイトの神鷹さんじゃん!! 学校と反対方向だけどサボる気!?」

「それは、小鳥遊も言えることじゃないか!! 優等生が全力疾走で通学路を突っ切って、危ないじゃないか。あぁ、そうだよ、サボる気でこの道を通ってたところを優等生様にぶつかってしまったわけだ」

「初めてだったん……だからね」

「何が?」

「そ、そのキスが……どうしてくれるのー!! 好きな人としたかったのにーー!! わーん!!」

 雫はその場で泣き崩れてしまう。もう遅刻のことなど頭からなくなってしまったようだ。

「わ、悪かったな。あ、あたしだって初めてだったよ……。って何言っているんっだ、あたしは。じゃあな、優等生様。せいぜい遅刻しないようにな」

 手をひらひらさせて、颯爽とその場を後にする神鷹強子かみたかきょうこ。ぽかんとするも、はっと我に返り、再び全力疾走をする雫。ファーストキスを奪われるというハプニングが起こってしまったが、遅刻だけは免れなくては……!!



 ホームルーム開始時間5分前、雫は教室の扉を開けた。

「皆様、おはようございます」

委員長である雫はクラスメイトに挨拶する。それに応えるクラスメイト。

「おはよう、小鳥遊さん。今日はギリギリに登校したね?」

「ちょっと、事故がありまして……」

「え、病院行かなくて大丈夫なの!?」

「ええ、人とぶつかってしまっただけですから……」

 その時、クラスの問題児である神鷹強子とキスしてしまったことは口が裂けても言えない。

 着席して教科書やノートを机にしまうと、ちょうど始業のチャイムが鳴る。担任が教室に入室してくる。

「はい、席について、委員長。挨拶お願い」

「起立、礼!」

「「「「「おはようございます!」」」」」

 クラスメイト全員がお辞儀をして挨拶をして着席をする。

「今日の欠席は……また、神鷹はサボりか……。まったく、しょうがない奴だな。他は欠席いないな。最近、不審者が出ているらしい。特徴は、よれよれのコートに裸足……だそうだ。絶対に近づかないように。写真とかも撮ったりするなよ?SNSに上げる為~とか言ってな。見かけたら警察に通報するように。自分の身は自分で守れよ~いいな!皆! 以上、ホームルーム終わり! 1時限の用意しろよー」

 ホームルームが終わり、休み時間に入った。雫は今頃になって、心臓が高鳴って、思わず自分の唇に人差し指と中指で触れてしまう。ほうっと恍惚とした表情になってしまう。

「どうしたの、小鳥遊さん、ぼうっとしちゃって。でも、なんか雰囲気がエロい……」

「へぇ!? いや、何でもないよ!! 1限目の準備しなきゃ!!予習は完璧ね! 皆も予習はしてる? ノート見せるよ!」

「してない~見せて委員長~!! ありがとう~!!」

 予習内容を解説している間に休み時間は終わる。1限目の生物の担任が入ってくる。雫は立ち上がり、

「起立、礼」

「「「「「「よろしくお願いします」」」」」

 着席し、担任は教科書を開き、板書をし始める。雫は上の空になっていた。

普段だったら真剣に板書を写し、予習したノートと見比べているというのに。

考えていることは今朝のハプニングのことばかり。キスのことで頭が支配されていた。考えている内に心拍数が上がり、上気した顔になっている。

「……なし、……かなし、小鳥遊!」

「は、はい!」

「指名したんだが、話を聞いてなかったようだな……なんだか、顔が赤いな。熱でもあるんじゃないか? 保健室行ってこい」

「はい……そうさせていただきます……」

 なんだか、今朝のことを考えると、体が熱くなる。頭がくらくらする。体がふらふらする。病にかかってしまったのか? 保健室になんとか向かい、保健の先生に休みたい旨を伝える。ベッドに案内され、横たわる雫。

「小鳥遊さんが保健室に来るの珍しいわね。顔が赤いわね。熱計っておきましょうか」

 保健の先生が体温計を差し出すと、雫は脇に挟む。電子音が鳴り、熱が38度あることを示していた。実際、熱があるようであった。

「あら、熱が高いわね。風邪かしら。今日はもう早退しなさい。自分で帰ることできる?」

「はい、徒歩通学の範囲なので大丈夫です。ありがとうございました。失礼します」

 雫はまたふらふらしながら教室へ戻る。

「おぉ、小鳥遊。具合は良くなったか?」

「いえ、熱があるので、早退させていただきます。さようなら」

「そうか、ここまで無遅刻無欠席の小鳥遊が……お大事にな」

「小鳥遊さん、調子悪そうだったもんね。お大事にー」

 生物の担任とクラスメイトに送られ、帰路に着く。まったく、神鷹強子のせいだ。キスしたせいで風邪をうつされたに違いない。治ったら文句を言ってやらなければ。


 右へ角を曲がれば、家だ。その前にコンビニがある。コンビニ前に神鷹強子がいた。

「神鷹さん! こんなところにいたのね! サボって……早く学校行きなさい!

単位落とすわよ!?」

「そういう、小鳥遊は何でこの時間にあたしのところにいるんだよ? お前も実はサボり魔だったのか?」

「違うわよ! 今朝のキスで神鷹さんが風邪をうつすから熱で早退したのよ! ここまで無遅刻無欠席だったのに……!! どうしてくれるのよ!!」

「じゃあ、看病でもしてやろうか?」

「へっ?」

「お前ん家、すぐそこだろ? あたし、よくここから見てたから知ってる。お邪魔してもいいなら、責任取って看病してやる。あ、でも親御さんとかいるか……」

「ううん、うち、共働きだから誰もいないよ……」

「そっか、じゃあ、おかゆでも作ってやるよ。行くぞー」

 流れで、普段接することのない強子を家に招くことになった。

「ただいま……」

「お邪魔しまーす」

 制服はだらしなく着てるけど、靴は揃えて家へ上がった。

「台所とあんたの部屋はどこだ?」

「朝ごはん食べてからまだ、そんなに時間経ってないからお腹空いてないよ。大人しく寝てるよ。とりあえず、部屋へ来て」

「わかった」

 雫は強子を2階の部屋に案内した。ベッドに隣り合う2人。強子はキョロキョロして、

「へぇ、可愛い部屋じゃん」

「そ、そう? 誰かを家に招待なんてしたことないから初めて言ってもらった」

「え? 何で? ダチと遊んだりするだろ?」

「ずっと勉強してたから……私に友達なんていないよ」

「委員長として慕われてるのに、ダチがいないなんて……なら、あたしがダチになってやるよ!」

「えっ……」

 今朝されたことを思い出して、強子の唇を見ると、また顔が上気してきた。

「おい、熱が上がってきたんじゃないか!? 早く寝ろ!!」

「……本当、初めてだったんだからね……」

「何が?」

「だから、キスしたことが」

「あたしもだよ。あんたとキスしてから、なんか落ち着かなくてさー。今も、あんたと2人きりで心臓がうるさい」

 強子の顔も赤くなっていた。2人は見つめ合い、そして目線を逸らす。

「あぁ、もう!! 接点なかったのになんでこんなに意識しちゃうの!?」

「わかんねーよ!! けどよ、委員長としてあたしに世話焼きはしてくれるじゃん? それで、あたしはあんたのこと、ウザイなぁと思いながらも悪くはねーなっておもってたよ」

「私だって、聞き分けのない人って思ってたけど、仲良くなりたいなって思ってた……学校に来て欲しいって思ってた……」

「なぁ、もう1回キスしないか?」

「風邪うつっちゃうよ!?」

「風邪じゃねーと思うんだ。それにバカは風邪ひかねーし。だから気にすんな。いくぞ」

 強子の顔が雫へ近づいていく。雫はゆっくり目を閉じる。重なる唇。今朝とは違い、一瞬ではなく、少し長めの口づけ。そして、ゆっくり離す。

「病は病でも、恋の病だったみたいね」

「あたしもかかっちまったかもな」

「キスしたってことは私達って恋人同士になったの?」

「だなっ! ははっ!! ダチ越えて恋人になっちまったかー。明日からは、サボらず学校行くよ。雫に会うために」

「……!! 名前覚えてくれてたの?」

「一応な。あたしの下の名前はわかるか?」

「強子さん……」

「強子でいいよ」

「強子……」

 2人は学校をサボり、親が帰ってくるまでキスに勤しんでいたとさ。

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