第4話 キャラ濃いな、おい
———人間、どれだけ辛くてもいつかは慣れるもの……。
「———んなわけねぇだろ馬鹿が!!」
俺はベッドに寝転んだまま、力任せに枕をぶん投げる。
誰がいつかは慣れる、だ!
もう1ヶ月やってるけど全く慣れないんですけど!?
言った奴出てこい、俺のドロップキックで顔面を陥没させてやる。
あ、シャンデリアにぶち当たっ……あぶねぇ。
一瞬落ちてくるかもとヒヤッとしたが……少し揺れるだけで済んだことにホッと安堵のため息を吐く。
しかし直ぐに怒りが再燃した。
「クソッ……結局まだ1回も石避けられてないし……神童仕事しろや」
何が神童だ。
この1か月で更に信用無くなったわ。
因みに、この1か月で———。
『ステータス:体力【G+】魔力【H-】運動能力【G+】動体視力【F+】要領【A】
別枠:運【80(固定)】魅力【85】』
から、
『ステータス:体力【F-】魔力【F+】運動能力【G+】動体視力【E+】要領【A】
別枠:運【80(固定)】魅力【85】』
に変わった。
確かに、確かにこれだけ見れば順調に成長している様に感じるだろう。
だが、だがだ。
「舐めんな」
俺の様々な思いは、結局この一言に集結される。
巫山戯んな、死ぬわ。
運動能力なんか上がってすらねえじゃねぇか。
おい成長期、何サボってやがんだ??
おい神童、良い加減引っ叩くぞ。
はぁぁぁぁ……と俺は渾身のため息を吐き、スマホを閉じる。
一応この1か月間、毎日サボらず全部やって動画に残してスレ民達と何気ない愚痴のやり取りが続いている。
勿論ランニングは4時間、石避けは全弾命中だが。
しかし、それも今日で変わる。
いや、俺が変えるのだ。
なんたって今日は———両親と俺の姉妹が帰って来る日だからである。
「———レイン様、お着替え……」
「シュバルツ、楽しかったよ」
「え?」
俺は、ドアをノックして入ってきたシュヴァルツに爽やかな笑みを浮かべる。
この鬼畜ジジイと修行するのもこれで最後だと思えば、俺はどんなことだって我慢できる。
あぁ、なんて素晴らしい日だ。
今からでもワクワクするぜ。
———なんて思ってた時もありました。
実に馬鹿馬鹿しい考えだった。
過去の能天気を体現したかのような
「……レイン、俺はお前が家族が苦手だった気持ちがよく分かったぞ」
痛いくらいね。
場所は代わってリビングルーム的な場所。
俺は、そこで家族に囲まれながら死んだ顔でそう呟いた。
何故俺がそんな事になっているのか。
それは———シュバルツ同様、ウチの家族、多分余計な声が聞こえない都合の良いフィルターが付いてると思われるからだ。
シュヴァルツのことを言っても、俺が修行を始めたことばかりで全く取り合ってくれない。
どおりでシュバルツが次期当主である俺にあんな鬼畜の所業が出来るんだと、俺は理解した。
この上にしてあの下あり、ってか?
はははははは…………あー最悪。
そんなことを考える俺をぎゅーーーっと愛おしそうに抱き締めるのは、銀髪碧眼の我が母親———レイシア・フォートレスだ。
我が母親を一言で例えるなら———。
「レインちゃ〜〜ん! 遂にレインちゃんも次期当主としての自覚が出てきたのね! ママ、感動で胸が壊れそう」
「そこは『感動で胸が熱くなる』やね、母様。それと、お願いだから馬鹿なんだからそんな頭良く見えるような言葉言わないで?? 俺、気が狂いそう」
「まぁ!? レインちゃんが反抗期よ!!」
「反抗期じゃない。至極当然な意見だよ」
———馬鹿、だ。
ウチの母親、とんでもなく馬鹿なのだ。
勉強が出来ない、字は書けても言葉を大して知らない、PONが多いという三大馬鹿っぷりが揃っている恐ろしい人である。
黙ってればクール系美人なのにな。
俺を愛してくれてるし。
本当に勿体な———いッ!?
俺は突然耳に息を吹きかけられ、ビクッと身体を震わせる。
そして耳を両手で塞ぎながら、犯人———親父譲りの金髪黒眼の美少女である姉さんに向けて抗議した。
「……姉さん、毎回毎回俺にイタズラするのやめてって言ってるよね?」
「そんなの聞———」
「———聞いてないとは言わせないよ? これで124回目だよ?」
「全部数えてるのキモー」
「き、キモくないわけないもん……あれ?」
キモくないわけないもん……つまり自分でキモいって言ってるやん。
何言ってんの俺。
「ホントにどうしたの、レイン? なんか変じゃない?」
「いや……何でもない」
姉さんはママと違って馬鹿じゃない……寧ろ結構頭が回る方なので、家族の中だと1番気を付けなければならない相手だ。
しかも14歳という思春期で1番生意気な時期なので特に要注意しておこう。
俺は美女と美少女に囲まれると言う家族でなかったら天国な状況の中———最後の望みである親父の帰りを待った。
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