後編【長い夢へ】完結済み
それからネムと夢の中で色々な場所に行った。
毎晩、全く違う色をした世界をネムが作り出して、そこで旅をする。
夢の中なら空だって飛べた。
夢の中ならなんの不自由もなく生きられた。
だけど、夢は覚めるもの、今日も夜が終わり朝が来る。
「そろそろ朝だから起きる時間だね」
私はネムにそう告げる。
ネムは「そうだね」と、悲しそうに言う。
「それじゃあまた夜に」
ネムに別れを言い手を振る。
「ばいばい」
ネムも手を振り返してくれる。
体に一瞬の浮遊感を感じて、夢から覚めた。
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朝日が差し込む病室で私は目を開ける。
口には酸素マスクを付け、お腹に刺さる太い管がベッドの横にある機械と繋がっている。
見飽きた天井を見ながらネムの事を考える。
私が夢から覚める時、ネムはいつも悲しそうだ。楽しい時間が終わってしまうのが嫌なのだろう。
私だってずっと夢の世界にいたい。夢の中ならこんな狭くて冷たい世界に囚われなくていい。
この部屋ではそんなことばかり考えてしまう。
でも、ネムのおかげでただ死を待つ時間が変わって行った。
前まではこの辛く苦しい時間が早く終わればいいとさえ思っていた。
けど、ネムと出会ってからは、少しでも長く生きたいと思うようになった。今は毎日が楽しい、夜になるのが待ち遠しい。
余命と言われた1ヶ月はもう過ぎていて、私はいつ死んでもおかしくない状況なのに、こんな日々がずっと続けばと叶わぬ願いをしている。
「あっ、そういえば」
今日はお母さんが来る日だ。母は私と会う時は笑って見せているが、私の病気が悪化するにつれて、どんどんやつれてきている。
私がお母さんを苦しめている。
私なんて生まれて来なければ…………。
「ぅ……」
突然息苦しくなるり、息を吸うのが辛くなった。
段々と意識が薄れていき、私はそのまま気を失った。
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目を開けるとそこは夢の世界だった。
さっきまですごく苦しかったのに夢の中に入ると嘘みたいに何ともなくなった。
「よかった、まだ生きてる」
「ネム……」
「君はあと数十分で生きることが出来なくなる」
ネムは真剣な顔で私を見て言う。
「……そっか」
いつかそうなると分かっていた事だから、驚きはない。
「ねぇ、もう眠ろう」
ネムは真っ直ぐ目を見て訴える。
「ここに居れば最後まで苦しまなくて済むよ、だからこのまま夢の中に居よう」
ネムの訴えは私を心配しての事だということは、今にも大粒の涙が溢れそうな目を見れば分かる。でも、
「それは出来ない。まだやり残したことがあるの」
「どうして、夢から覚めようとするの! 目を覚ましたたら君は苦しむことになるそれなのにどうして!」
ネムの目から涙が溢れる。
「お母さんが来てるの、だから最後に会って、話がしたい」
何となくお母さんの声が聞こえる気がする。
たくさん迷惑かけたから。病気の私をひとりで育ててくれて大変だったと思うから、最後にちゃんと会って言いたい。「迷惑かけて、ごめんなさい」と。
「じゃあ止められないね……」
「だから、少しの間だけお別れだね」
「少しの間?」
俯いていたネムが顔を上げて聞く。
「私は、死は終わることの無い長い夢を見ること、だと思ってる。だから夢は終わらない、また会える」
「会えるかな……」
「会えるよ!だって、『夢の中では《想像》した事をなんでも出来る』でしょ?」
「そうだね」
ネムは微笑む。
「じゃあ、行くの?」
「うん、行ってくる」
目の前に扉が出現する。これを通ると夢から覚める。
「あっそうだ、ネム!また友達になろう!」
ネムに向かって大きく手を振る。
「またねー!」
手を振り返してくれたのを見届けて夢から覚める。
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「かなえ!」
霞む視界にお母さんが映る。私の左手を両手で握り、呼びかけていたお母さんと目が合う。
「かなえ、聞こえる?」
「ぁ……」
上手く声が出ない。
「ごめんね」
突然謝られた、謝るのは私の方なのに。
「こんな体に産んでごめ…………、違うこんな事を言いたかった訳じゃない」
お母さんは首を振って言葉を飲み込み、私を見て言う。
「生まれてきてくれて、ありがとう。短い間だったけど、あなたと会えて幸せだった」
この言葉を聞いて、私の未練のようなものがスっとななった。
私は生まれて来て良かった、自分は不幸じゃないと思えた。
だから答えないと。
「ぁりがとぅ」
最後の力を振り絞って弱々しく言う。
そして、その瞬間命の灯火は消え、人生最後の眠りに就いた。
最後に見るのは、永遠に続く長い夢。
夜命ドリーム カカミナ @kakakaka3
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