夜命ドリーム
カカミナ
前編【夢に見た】完結済み
「ここは、どこ?」
目を開けるとそこは知らない場所だった。青々とした草原が地平線の彼方まで永遠に広がっていて、周りに建物どこらか木すら見当たらない。
「あのー! 誰かいませんか?」
周りを見回していると、1つの丸いテーブルとイスが置かれていて、そこに少女が座っているのが目に入った。長い白髪が風も無いのになびいていて、不思議な雰囲気を放っている。
「やあ、お眠りだね」
白髪の少女と目が会い話しかけてきた。
「もう夜になったのかな」
「ねぇ、ここはどこなの?私は病室で寝ていたのに」
「ここは夢の世界だよ」
少女はさっきまで持っていなかったティーカップに口を付けながら答えた。
「夢の世界?」
「まぁ、座りなよ」
そう言って促された先に椅子はない。
「えっと、椅子がないけど」
「よく見なよ、ちゃんとあるよ」
そう言って指さされた方を見ると、いつの間にか椅子が現れている。
「あれ?どうして……」
さっき見た時には絶対なかったのに。
おかしいと思いながらも椅子座り、驚く私をクスクスと笑っている少女と向き合った。
「それで、夢の世界って何なの?」
「君は今、眠って夢を見ている。眠っている時だけ訪れることが出来る世界、それが夢の世界だ」
「ここは夢の中なんだ........」
雲1つない快晴の空、何も無い無限に続く草原。
確かに現実では有り得ない光景だ。
「そして、夢の中では《想像》した事をなんでも出来る」
「どういうこと?」
「頭の中で思い浮かべた世界や物とかをなんでも作り出すことができる、ということ」
「なるほど」
「試しに、欲しい物を頭の中で何か思い浮かべてみてよ」
「思い浮かべる……」
そう言われて頭の中で想像する。
丸い形をしていて、真ん中に穴が空いていて、表面はチョコレートでコーティングされているドーナツを思い浮かべた。
「それが目の前にあると思ってみ」
目を閉じて想像している私に少女はアドバイスをしてくれる。
言われた通りに目の前にドーナツを想像する。
「出来たみたいだね」
聞こえてきた声にゆっくりと目を開けると、テーブルの上にドーナツが出現している。
「うわーすごい!」
「さすがだね、素晴らしいよ」
パチパチと手を叩いて少女は褒めてくれる。
「食べていい?」
「もちろん!」
中はふわっと、外はサクッとした食感をしていて、口の中に甘さが広がった。美味しい。
少女も空中からポンとドーナツを出して食べ始める。
美味しそうにドーナツを食べる少女を眺めていて、そういえば名前を聞いていなかったことに気がついた。
「そういえば、君の名前は?」
「……ない」
少女は呟く。
「そうなんだ、じゃあ私が考えてもいい?」
「いいの?」
「うん!ちょっと待って」
そういい、少女の名前を考える。夢の世界で出会って、眠ると会えるから――。
「ネムはどうかな?」
「ネム…………いいね気に入ったよ、ありがとう」
「どういたしまして!」
夢の中で出会ったネムと名ずけられた少女は、満足そうに微笑んだ。
それから「よし、それじゃあ」と言い、ぴょんとイスから立ち上がる。
「どこかへ行って遊ぼうか」
「どこへでもいいの?」
「うん!海でも森でも砂漠でも、もちろんお菓子の国や異世界にも行ける」
「じゃあ、まずは海に行ってみたい!」
生まれてから海に行ったことがなかったから、ずっと見てみたいと思っていた。
「よし、行こう!」
ネムは手を前に突き出し目を瞑る。
すると、海の絵が描かれた扉が出現する。
「さぁどうぞ」
「うん」
扉に促され、恐る恐るドアノブを捻る。
扉を開けると大きな海が広がっていて、水面に太陽が反射してキラキラ輝いている。
「どう?すごいでしょ!」
ネムは得意げにしている。
「すごいよ!」
「これから色々な所へ行って、たくさん遊ぼう!」
ネムは笑顔で呼びかけ、扉を通り砂浜に飛び出した。
「うん、これからよろしくね!」
海の方へ走って行ったネムを追いかけ、私も走る。
私はずっと一緒に遊ぶ友達が欲しかった。
それがまさか夢の中で叶うなんて、文字通り夢にも思わなかった。
だけど、私の命はもう長くない。
ネムは知っているのだろうか?
私の余命は、あと1ヶ月だという事を。
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