血の匂い

 また、クロからいつもの質問をされた。


『あんたは、なんで女性を狙うの』


 幾度となく質問され、幾度となく答えてきた。

 なのに、何度も何度も質問してくる。同じ質問を。

 最初は何でかわからなかったけど、最近やっとわかってきた。


 僕が質問に答える時、クロは僕が君の事しか考えていないと思っている。


 これは、裏を返せば僕は普段、クロの事を一切考えていないと思われているという事。


 心外だなぁ。

 僕は、いつでもクロの事しか考えていないのに。


 というか、女性にしか興味がないのに、男性であるクロと付き合っている時点で、その愛がどれだけのものか、わかってほしいなぁ。


 ――――あっ、質問されているのなら、僕も質問すればいいのか。


「僕が好みの女性を解剖した時、どうして必ず君に報告すると思う?」


 聞くと、クロはわからないみたいで何も答えない。

 耳元で囁くとびっくり、腰が砕けてしまったみたい。


 本当に、クロは可愛いなぁ。

 僕の事しか考えていないクロ、僕にすべてを委ねているクロ。

 僕の言葉一つ一つで感情的になるクロ、すべてがかわいい、すべてが愛おしい。


 僕しかもう、クロにはいない。

 そう刷り込ませて良かった。


 まぁ、フィルムがいるけど、あいつはクロの嫉妬心を煽るだけの道具。

 そういう事もないと、人間の心は動きにくいからね。


 クロの感情、すべてが見たい。

 プラスの感情も、マイナスの感情も。全て――……


 僕の言葉、声で腰が砕けてしまい、床に座り込んでしまったクロ。

 頬が赤く、眼には涙の膜が張っている。


 もう、可愛すぎる。

 泣くのを我慢しているのかな、何を思っているのかな。

 今、君は何を考え、何を感じているの?


 いや、わかってる。

 僕の事を考え、僕に感じている。


 ぞくぞくするね、そそられる、たまらない。


 思わずぎゅっと抱きしめてしまう。

 このままベッドに行きたいと言えば、一緒に行ってくれっ――――


「あ、あれ?」

「ん? どうしたの?」


 なんか、クロの匂い。


「…………クロ、今日怪我でもした?」

「え、なんで? してないけど…………」

「いや、なんか、血の匂いがする…………」


 僕の白衣について、もう取れない匂い。

 クロからは、僕が解剖に付き合わせた時しかその匂いはしないはず。


 今日は、これから解剖だから、おかしい。


「あ、あぁ、鼻、良いんだね」

「どういうこと?」

「多分、アマリアの血の匂いが移ったんだよ。白衣を借りて抱きしめて寝たりしてたし。それにほら、抱きしめてくれた時とか。血の匂いって、強いから」


 クロが自身の服の匂いを確認すると、フッと笑みを浮かべた。

 そして「やっぱり。アマリアの匂いだ」と、頬を染め、笑みを浮かべ僕に言う。


 な、何その顔。

 なんで、そんなに嬉しそうなの。

 ただの、血の匂いじゃん。逆に不快でしょ?


「血の匂いって、アマリアの匂いだよね」

「それは、臭いって事?」

「違うよ。アマリアから感じる血の匂いは、僕を安心させてくれる、安らぎをくれる。アマリアの血の匂い、もっと僕にちょうだい」


 ――――ゾクッ


 やばっ、口角が上がるのが止まらない。

 手で口を押えるけど、意味は無いだろうな。


 気持ちが昂る、心臓が波打ち、衝動が抑えられない。


「? アマリア?」


 首を傾げているクロ。

 可愛い、愛おしい。今すぐに抱きたい、今すぐ僕の匂いだけにしたい。


 …………血の匂い、か。

 なら、もっと、君を血の匂いでいっぱいにしてあげる。

 そうすれば、僕はもっと満たされる。


 君が僕の匂いになれば、それだけお互い、満たされる。


「ねぇ、クロ。今から、君を僕の匂いでいっぱいにしてあげる」


 もう、止められない。

 君を、僕の匂いでいっぱいにする。

 もう、他の人の匂いなんて、付けさせないからね――……


「それじゃ、いただきます」


 ――――ガリッ

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君の血の匂いは心地がいい 桜桃 @sakurannbo

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