我輩はペンギンである

此木晶(しょう)

我輩はペンギンである

 我輩はペンギンである。

 このフリッパーに誓って、間違いなくペンギンで、ある。

 とまあ、人間の真似をして誓ってはみたものの。フリッパーに誓って何になるって言うんだろうね。確かにこのフリッパーはとても大事なものだけど。

 大きな羽毛に覆われたフワフワの翼とはかなり違うでしょ? 羽根はウロコみたいで小さいし、中身も一枚の硬くて頑丈な板みたいになっている。一応いくつかの骨が繋がっているんだよ。間接の可動域が極端に狭いからほとんど固定されているようなものだけどね。

 こいつをオールのように動かしてアンダーグラウンドへ潜るんだ。

 色々便利なんだよ。回線の外を歩く時にはバランスを取るのに使えるし、体温を下げたい時にも役立つしね。

 一応喧嘩にも使うけど、大根くらいは粉砕できるから、力一杯振らないように皆気を付けているよ。



 我輩はペンギンである。

 この羽根に誓って、間違いなくペンギンで、ある。

 羽根に誓うのもやっぱりなんか違うよね。いや、確かに大事なものだよ。これがないと回線で速度が出ないしね。独特の構造だとは思うよ。普通、羽根は左右非対称なんだけど、左右対称形でね。で、羽弁はべんにはカギ状の突起が沢山あって回線に入って濡れる負荷がかかると、突起同士が絡み合って一枚の布みたいになって、表面に微細な筋状の突起が並んだ模様リブレットが出来るんだ。これが速く泳げる回線速度が速い秘密。

 ね。大事でしょ。

 だけど何か違うよね。大切だし、ないととっても困るけど、誓うものじゃないよねぇ。みんな持ってて当たり前のものだし、何かに誓う必要なんてないんだしさ。



 我輩はペンギンである。

 この脂肪防壁に誓って、間違いなくペンギンで、ある。

 益々訳が分からなくなってきたね。

 脂肪に誓ってって、いや、脂肪も必要だけどさ。脂肪コレと皮膚と羽根の下に蓄えた空気層と羽根と羽根に馴染ませたワクチンの5層構造で回線冷たさウイルスを遮断している訳だからね。

 脂肪だってあるのとないのじゃ大違いだよ。

 だけどさ誓ちゃったら、まるで崇めているみたいじゃない?

 ああ、そうか。人間って神様ってのを信じているんだったね。いるのかいないのか良く分からないものを信じるって言うのも分からない話だけど、少なくとも『ここ』にはいないのは確かな事だから誓わなくて良いのかな?

 人間がいたら、ここだと人間が神様みたいなものだから、人間に誓うことになるのかな?

 それだと、人間がいた場合人間は自分達に誓うのかな? それともまた神様に誓うのかな?



 我輩はペンギンである。

 この心臓を賭けて、間違いなくペンギンで、ある。

 え、賭けてじゃない?

 懸けてが正解で、意味は誓ってと一緒?

 結局神様なのかい。しまらないなぁ。

 心臓を賭けても良いくらい自信があるってことで、良い言い回しだと思ったんだけど。

 回線に潜るのに酸素メモリが必要だろ。一応気嚢にも蓄えていくけどさ、それだけだと足りないから色々工夫してるんだよ?

 肺でしょ、気嚢でしょ、血液にあと筋肉。筋肉に蓄えられるのなんて全体からみればごく僅かだけど最後の方なんて少しでも酸素メモリが欲しいから、意外に馬鹿に出来ないんだ。

 だったら大事なのは気嚢だろうとは言わないでよ。どれだけ蓄えてあったって、どう使うのかが一番大事なんだからね。

 そう使い方。全身に正直に均等に酸素メモリを送り出す必要ってあるのかな?

 アンダーグラウンドに潜るのに足は動かさないよね。フリッパーも胸筋が動けば十分役目を果たせるし。言っちゃえば極論胸周りの器官にさえ酸素メモリがあれば、潜れるよね。鼓動だって本当に最低限なら1分間に6回でも良いんだ。ギリギリではあるけど。

 そういう酸素メモリの送り出し方が出来るのもこの心臓があるお陰だよね。

 それくらい大事なものだけど賭けても良いと思っているんだよ。本当の事しか言っていないんだから。



 我輩はペンギンである。

 間違いなくペンギンで、ある。

 本当だって。

 昔は言ったんでしょ?

「我思う故に我あり」って。

 今の世の中自分がどう考えているのか? が一番大事だと思うんだよね。

 ほら、11G回線の暴走だか爆発だかで現実リアル電脳デジタルがぐっちゃぐちゃになって、極一部を除いて現実リアル仮想現実ヴァーチャルになったって言うか、0と1データが主体になったって言うのか。ボクもエサ《データ》で食べただけだから本当に理解できているかは分からないけど。

 そもそもその時の記憶ってないんだよね。気がついたらこんな風だったから。だから知ってはいるけど分かってはいないって感じかな。

 AIの君はずっとこちらデジタル側にいたんだろ、何か知らない?

 君も世界がこんな風になってからしか覚えていないんだね。残念。

 君も知りたくて人間を探している、と。

 大変だね。世界がこうなる前はどこに行っても人間がいたけど、今はどこに行っても見たことがないし。

 こう見えて色々な場所に行っているからね。

 だから君を見た時、正直言うとビックリしたんだよ。人間がいたって。

 ちょっと逃げようかとも思った。逃げなくて良かったけどね。

 でもさ、よくペンギンに話しかけようと思ったよね。

 他にもいたの? 意志疎通できるのが?

 ヒヨコとか、猫とか、ハムスター?

 それなら話しかけもするよね。

 そっか、ボクだけじゃなかったんだ。

 ん? 仲間達はボクみたいには話さないからさ、気になっていたというか、ボクが変なのかなって考えてたから、同じような子達がいるなら安心するよね。

 でも、そっかー。

 他にもいるのか……。

 君はこれからどうする気?

 そりゃそうだよね。今までと同じように旅を続けるよね。聞くまでもないことだったね。

 だけどさ、それはいつまで? 多分だけど、ここには「人間」はいないよ。

 そうそう。

 人間だけが神を持つんだってさ。この間食べたエサ《データ》にあった。神様も幽霊も妖怪も全て人間のここの認知によって形作られているんだって。

 それでさ。

 君は、神様っていうのを信じている。

 だってさ今、人間が作ったこの世界で確かに人間に作られたって言えるの君だけだ。

 君が人間を名乗っても問題ないんじゃないかな?

 そんなにビックリしなくても良いでしょ。

 人間だけが神を持つ。翻って言うならば、神を持つものが人間だ。

 ボクらは違うよ。誰も神様なんて信じていないからね。

 でも、君は神を信じている。人間という創造主を。君は特異な存在なんだと思うよ。

 ボクの方がそうだ?

 嫌だなぁ、よく見てよ。別に尻尾が2本や3本に増えてないでしょ。ボクはただのペンギンだよ。



 我輩はペンギンである。

 間違いなくペンギンで、ある。

 何度も言ってるけどね。

 ボクと君との違いってなんだろうね?

 なにもかもが0と1データで構成されているから、見方によっては違いなんてないのかもしれない。

 だけど、ボクは自分が何か真面目に考えているし、「考える葦である」とも言うなら、ペンギンであると考えているボクはペンギンだ。


 だからもう一度言うよ。

 我輩はペンギンである。

 間違いなくペンギンである。

 だから、……。

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我輩はペンギンである 此木晶(しょう) @syou2022

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