パンダヒーロー

やあ

パンダヒーロー

まず初めに、この物語はボカロPのハチ様の曲、「パンダヒーロー」を元にした小説です。先にそちらの曲を聴いた方が楽しめると思うので、おすすめします。また、この物語はフィクションです。それでは。




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プロローグ







煙が漂い、町は煌びやかに光り輝く。


「パッパッパラッパパパラパー」


男は、パイプを持ちながら3階建てのビルの非常階段を登り、屋上へあがる。


「この世界はあやふやにしすぎてる。何が黒で、何が白なのか。」


男は屋上の際に座り、足をプラプラと動かす。


「それは誰にも分からない、ただ、どっちになるかをハッキリさせるのが私たちの仕事だ。」


男がそう言うと、後ろからパンダの仮面をした男が二人、女が一人出てくる。


「さぁ皆の者!今宵もハッキリさせよう、白と黒を!」



ーーーーーーーーーーー

本編


10月7日、季節が変わり始め寒い日が時々訪れるこの頃。


「おい山城!お前またか!」


「はい、すみません……」


「コピーすらまともに出来ないのか?」


「はい、すみません……」


「はぁ、まぁお前がここに来て2ヶ月、ずっとこんな感じだからもう慣れたけど。」


「はい……」


僕の名前は山城新(やましろあらた)。渋谷にある警察署、「渋谷第1警察署」の警察官になって8ヶ月、あまりの使えなさに異動を繰り返し、「異動ギネス記録」なんてあだ名が付けられるほど。自分でもまずいとは理解している。現在、上司の上田さんにこっぴどく叱られ飽きられ、署内のフードコートにいる。


「はぁ……」


「どうした?そんなため息ついて。」


このマッシュの髪をした人は先輩の嵐山大樹(あらしやまたいき)先輩。署内でも若手で仕事が出来て、人当たりもいい。まさに良心を体現したかのような人だ。そんな先輩と僕は、趣味が映画鑑賞という点で息が合い、たまに一緒に遊びに行くほど仲が良くなった。


「それがですね……」


僕は自分の悩みを打ち明けた。先輩は自分の事のように悩んでくれた。


「新は多分、他人からの言葉が怖くて自信が無いんじゃないかな。」


「というと?」


「他人から自分の行ったことに対して、こうした方が良かったよとか、なんでこうしなかった?とか、そういうことを言われるのが怖いんじゃないかなって思う。」


「なるほど。」


「まぁそこまで気負う必要もないよ。まだ1年も経ってないんだし。」


「先輩って、なんで警察官になろうと思ったんですか?」


「人と関わること自体嫌いじゃないし、人助けすると、なんだか嬉しく思えてくるんだ。」


「ほぇー……」


この人は、僕とは見てる世界が違う。根本から見直さなきゃ。


「そういえば新、さっき上田さんが呼んでたぞ。」


「え、ほんとですか?」


「あぁ。」


「分かりました、ありがとうございます。」


僕は上田さんに会い、話を聞く。


「悪いな山城、異動だ。」


「えぇ、またですか?」


「そうだよ。」


「はぁ。」


「今回の異動先なんだけどな?」


「はい。」


「署内でもかなり曲者揃いの場所だから気をつけろ。」


「そんなぁ……ちなみにどこですか。」


「ま、来てみりゃわかる。」


上田さんと一緒にエレベーターに乗り、4階の隅にある部屋へと訪れる。


「ここは……」


「ここがお前の新しい配属先、「パンダヒーロー」だ。」


「……はぁ!?」


「公安事件秘密対策特務課」、通称パンダヒーロー。この特務課はここ、「渋谷第1警察署」で秘密裏に作られ、政府公認ではない。この特務課を知っているのは署内の者のみで、配属先に決まった者は絶対に外部に話すことを禁じている。外部に情報を漏らせば重い罪に問われる。

パンダヒーロー、近年世間を騒がせる謎の組織で、巷では救世主、神、闇の組織なんて言われている。自身らは世界の白と黒を判別するのが目的といい、活動している。現に彼らが担当した事件の殆どは、政治や公安が揉み消してきたものばかりで、全て解決しているのだとかなんとか。


「なんでそんなところに僕が……」


まずいのは周りからの目だ。ただでさえ目立つ部署なのに、僕なんかが入って浮き足立たないか?しかもメンバーの癖強いんだろ?


「まぁ頑張れ。ほら行ってこい。」


「はい……」


上田さんはエレベーターに乗り自分の階層へと降りる。


「スゥーーーー、フゥゥゥゥゥゥー。」


僕は深呼吸して、扉を開ける。


「失礼します!今日から配属となった山城新です!よろしくお願いします!……あれ?」


大声で叫んでみたはいいものの、人の気配がない。


「なんだろ……とりあえず散策。」


歩いてみると、BARのような雰囲気でカウンターもあり、ダーツ盤や注射器、謎の絵画にパイプさらにはホームベースがある。いやどゆこと?


「怖、ほんとに人いるのか?」



「いるよ!」



「わぁ!」


「HAHAHA!君、面白い反応するね!」


「あ、あなたは?」


「私?私はパンダヒーローのリーダーを務める、黒田白瑛(くろだはくえい)だ。性別は男だよ。」


白い髪、こんな人いるんだ。


「あ、リンゴいる?好きなんだ。」


「いらないです……てか、なんでこんなガラクタがあるんですか?」


「ガラクタとは失礼だな、これはコレクションだよ、コレクション。」


「なんの?」


「ガラクタ。」


「ガラクタじゃないですか!なんなんですかほんとに。」


「まぁ落ち着きたまえ新君。」


「は、はぁ。」


「君には早速仕事がある。」


「な、なんですか。」


「あそこにあるガラクタ、全部端に退けるの手伝ってくれない?」てへっ


「……殴りますよ?」


「怖。」



ーーーーーーー



「いやー助かった。」


「腰イカれる……」


僕と白瑛さんはカウンターに座りコーヒーを飲む。


「にしても、新君は優しいんだね。」


「そうですか?」


「君はいやいや言いながら手伝ってくれたし、さっき私が重いもの持とうとしたら代わってくれたし。」


「そう、ですか?」


「ううん、全然。」


「あなた本当になんなんですか!?僕の喜び返してください!」


「まぁまぁ。」


ガチャ


「おつかれー。」


扉を開けたのは青い髪をした男の人だった。


「海志君!お疲れ様!」


「だれですか?あの人。」


「紹介しよう。パンダヒーロー内で武器の管理を担当している、蒼空海志(あおぞらかいと)君だ。」


「君が新人?初めまして、海志だ。」


「は、はじめまして。」


「海志君は武器のエキスパートで、武器の扱いはチーム1だ。」


「あれ、他のみんなは?」


「もう時期来るとは思うが……」


ガチャ


「お疲れ様でーす。」


「あーつかれたー。」


今度は黒髪の女性と、茶髪の少年が部屋に入ってきた。


「2人とも!遅いじゃないか!」


「今度はだれですか?」


「この女性は森野麗美(もりのれいみ)。主にメディアの対応や会計処理など、事務的なことを担当してくれている。そして隣は杉宮京介(すぎみやきょうすけ)。ハッキングなどのネットワーク関連のことは彼に任せている。」


「この子が新人?可愛いー。」


「新人にはとことん甘いよね麗美さん。」


「可愛いだなんてそんな……てか子供!?今いくつ?」


「……16。」


「16!?まだ子供じゃ


「フン!」


ボコッ!


「うっ!」


京介君に腹をなぐられKO。


「京介は子供って言われるのが嫌いなんだよな。」


「と、というか…うっ、16歳の少年が警察署内で働くって……うっ、大丈夫なんですか?」


「悶えながら質問どうも。まずはこうなるまでの経緯を話そう。5年前かな、サイバーテロを起こすと言っていた者 やつがいたんだけど、何故かその犯人の個人情報が突如SNS上に晒された。」


「その事件ってたしか、「サイバーテロ犯人暴露事件」でしたっけ?」


「そう。」


サイバーテロ犯人暴露事件。インターネット上で予告ツイートをしたのは有名なハッカー。公安ですらしっぽを捕まえることが出来なかったのが、匿名の誰かが、そのハッカーの個人情報を全て晒し、逮捕に成功したという事件。その時はまだ匿名の人物は発覚していなかった。


「現代の技術で元を辿ればあら不思議、彼がいたって分けさ。ちなみに、京介はその時保護施設にいてね、パソコンが使えるわずかな時間でそれを成し遂げる程の集中力と技術、それに警察が目をつけて引き取った。そのとき京介を引き取ったのは私だ。」


「あの事件って京介君のおかげなんですね。。」


「個人情報の晒しに関しては世間が騒がしくはなったけど、彼のおかげでテロが無くなったってこともあったし、結果オーライみたいな感じで何とかなったけどね。」


「へぇー。」


「さて皆の衆、新たなメンバーも加わったことだし、早速今回のターゲットについて話をしよう!」


白瑛さんはホワイトボードの前に行き、京介君、麗美さん、向かいに海志さん、僕の順で机に並ぶ。


「今回のターゲットはこいつだ。」


「この人って。」


「そう、みんなも聞いたことはある名だろう。未来を約束された若手イケメンなんていわれている裁判官、倉持実(くらもちみのる、)。今回はこいつだ。」


「にしてもなんでこいつが?」


京介君が尋ねる。


「噂によると、こいつはどうやら冤罪判決を繰り返し、その判決で落胆する者の顔を見るのが好きらしい。実際、その冤罪のせいで亡くなってしまった方もいる。」


「ひどい……」


麗美さんは軽蔑の眼差しで写真を見る。


「警察もなかなか言い出せないんだよなー。」


「どうしてですか?」


海志さんは尋ねる。


「父の倉持祐太郎(くらもちゆうたろう)は裁判官としての地位が最高で、裏社会でも名が知られている。そういうわけで、政府も裁判官の連中も言い出せない、言い出そうとしないんだよ。」


「なるほど。」


「そこで今回、我々が行うのは題して、「倉持が過去の行った裁判記録、世間に明かしてしまおう!」だ!」


「……え?」


「ん?」


「ちなみに方法は?」


「深夜に根城に侵入して確保。」


「それ、犯罪にもなりかねません?」


「なりかねるよ。」


「秘密裏に動いているとしても、法に背くのは許されることではないはずですよ!」


「だからこそ彼がいる。」


「?」


「我らパンダヒーローは基本的に、京介君がカメラなどをハッキングして証拠を残さない。だからバレないんだよ。」


「そんな……」


「私自身も嫌だよ。白黒させるのが仕事で、しかも有耶無耶にしてるこの世界が嫌いなのに、されて得をするだなんて。」


「ならどうして。」


「こうでもしなきゃ、正義なのに悪にされている人を助けられないだろう?」


「ッ!」


「たとえそれが法を無視したものだとしても、いかなる手を使うことを厭わず、我々は物事を白黒つける。それが黒だったとしても、白だったとしても、我々はつけなければいけない。それが仕事だから。」


「ッ……」


言葉が詰まった。違法だと分かっていても、信念をもって活動し、人を助ける。否定したいのに、何故か意思が湧かない。


「新君、君の正義感は今の日本社会に必要不可欠だ。だが、それは表舞台の話。我々が働いているのは裏の舞台、闇の世界で生きるにはこうするしかいない。そこを分かってくれ。」


「……」


湧かなかったのは多分、人を助けたいという気持ちは同じだったから。同じ思いがあったからだと思う。


「……」


「ひとまず作戦を話すとしようか。」


仕切り直しという形で白瑛さんは話し出す。


「麗美は実の過去について探ってくれ。京介はカメラのハッキング、及び私たちの侵入ルートを探してくれ。それと、過去の裁判データを洗いざらい調べてくれ。海志は今回使用する武器の手入れ、及び狙撃場所の下見を頼む。」


「僕は……?」


「君は麗美君と一緒に行動してくれ。決行は3日後の10月10日。それぞれ活動開始!」


「はーい。」


3人はそれぞれ自分の仕事に向かう。僕は白瑛さんに言われた通り、麗美さんについて行く。


「よ、よろしくお願いします!」


「よろしくね新君。」


先程の眼差しとは違って、彼女はニコリと笑う。


「これからどちらに?」


「そうね、まずは知り合いから話を聞いてみようかしら。でもそれは明日から。明日の8時、ここに集合して、そのあと行動開始。今日はゆっくりしてていいわ。」


僕は警察署からでて家に帰る。寝る前に洗濯やお風呂など必要なことを済ませ、ベッドに横たわる。


「……なんかモヤモヤするな。」


何故か、あの作戦を言われてからずっと心がモヤモヤする。変な部署に飛ばされたから?やり方が気に食わないから?


「……わからない。でも、いずれ分かるか。」


僕は眠りについた。




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1日目




「久しぶりじゃない麗美さん!」


「お久しぶり、莉音。」


麗美さんは歌舞伎町にあるキャバクラ店へ入り、知り合いと話していた。店の名前は「マリアージュ」。


「麗美さん、この方が?」


「新君、紹介するわ。ここの売れっ子、小林莉音(こばやしりお)よ。」


「はじめまして。新さんでいいのかしら?」


「はい、今回はよろしくお願いします。莉音さん。」


自己紹介を終えた僕らは、関係者以外たち入れ禁止の楽屋に入り、話を進める。


「莉音、最近のお客さんに、政府とか裁判官みたいな立場の人が来た?」


「どうして急に……あ、仕事でですか。」


「莉音さんって、僕たちの仕事のことを知っているんですか?」


「まあ一応そうですね。私が情報屋みたいなものですし。」


「そうなんですか?」


僕が問いに、麗美さんが解を言う。


「えぇ、この店は歌舞伎町一の店で、政府のお偉いさん方がよく遊びに来るのよ。だから、定期的にお酒で情報を聞き出すのをお願いしているの。」


「なるほど。」


莉音さんは楽屋にあったホワイトボードの前に立ち、ペンを持つ。


「それでは本題に入ります。聞いたところによると、どうやら倉持実の母親は、冤罪で自殺という過去があったらしいです。」


「どういうこと?」


麗美さんは莉音さんに尋ねる。


「1年ほど前、倉持の母親である、倉持百華(くらもちもか)に交通事故が起きてしまったのですが、事故の相手は警察署長の息子であり、しかも大手企業の社長。裁判官は立場をふまえ、百華に有罪判決。そして、百華は罪悪感、怒り、それらから逃れようと獄中で自殺。」


「つまり、倉持実の目的は、上層部の反逆ではなく、母に行ったことを他の人に行い、八つ当たりをすると言ったところですか。」


僕は自分なりに解釈をして2人に伝える。


「そうなるわね。まったく、過去に母親が死んだからその怒りを市民に向けるって、まるで子供ね。」


麗美さんはタバコを一服しながらそう呟く。


「ちなみにこの後の予定は?」


莉音さんは麗美さんに問いかける。


「そうね、その情報は結構大きいし、やることなくなったかも?」


「いきなりの大収穫ですね。」


「お役に立てたようで何よりです。」


「ありがとう莉音、助かったわ。」


「いえ、麗美さんの為とあらば私は全力で努力しますよ。」


「そう、ありがと。それじゃまた今度ね。」


「はい、また。」


莉音さんと別れ、麗美さんは車を回し、40回建てのビルの最上階のレストランに行き、テラスで食事をすることに。


「僕なんかがこんなところきていいんですかね……?」


「あなたもパンダヒーローの一員なんだから、いいのよこれぐらい。しかも後輩なら、先輩のご厚意は受け取りなさい。」


「は、はい。」


姉御肌なんだな、麗美さんは。


「いい景色よね。」


「はい。とても。」


「最近仕事で向かった場所の景色は最悪よ。煙がすごくて耐えられない。」


「色んなところで活動してるんですか?」


「基本的にはターゲットとなる人物がいる場所に移動するわよ。1番すごくてアメリカに行ったわ。」


「あ、アメリカ……」


「まぁそこまで遠出しないけどね。ここ東京が1番闇に溢れてる。」


「そういえば、京介君と白瑛さんとの出会いは分かりましたけど、海志さんと麗美さんの場合って?」


「パンダヒーローが正式に活動を始めたのは去年。それより前から私は白瑛とは知り合いでね。同じ警察署で活動してたし。」


「え、麗美さんって警察官だったんですか!?」


「そうよ。といっても犯人を逮捕するような役割じゃなくて後方支援。医者でよく白瑛のことを治療してたわ。」


「お、お医者様でしたか。」


「活動を始める時に誘ったのは私だけだった。だから初期メンバーは白瑛と私だけ。」


「そうだったんですか。」


「海志の場合、元々軍に所属しててね。銀行強盗を迅速に対処した所を白瑛が見てて、その冷静さと判断力から誘われたってところかしら。涼介は保護したタイミングからずっと裏方をしてもらってたわ。海志の場合は活動開始から2ヶ月後に入ったわ。」


「涼介君は裏方で何を?」


「その時はまだ事務所も何も無かったから、物の購入や活動前の金銭管理をPCで整理してもらってたわ。」


「へぇー。」


「さ、早く食べましょ。」


「はい。」


夕日を見つめながら食べる食事が、こんなにも優雅で、幸福感あるものだとは思わなかった。


「……新君。」


「はい?」


「あなた、今回の案件参加するか悩んでるでしょ。」


「……え?」


「分かるのよなんとなく。白瑛と助けたいって思う気持ちは同じでも、法を破ることに対して割り切れていない。」


「……」


麗美さんに言われて、何となくモヤモヤしていたものがわかった。


「どうしたの?」


「いえ、図星なだけです。皆さんの考えややっていること、十分理解しているつもりです。でも、やっぱりできる気がしないんです。人を騙すってことが。」


「なら、明日の夜また話し合いがあるから打ち明けてみれば?」


「わかりました。」


食事を済ませた後、僕と麗美さんは時間になるまで各々自分の時間を過ごした。





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2日目



「ふぁぁあ。」


時刻は午前6時、いつも通りに起きれて満足。


シャー


カーテンを空け陽の光を部屋中に渡らせる。


プルルル、プルルル


「誰からだ?」


机に置いていた電話が鳴り出したため、対応する。


「もしもし。」


『おはよう新君。』


「白瑛さん?こんな朝からどうして?」


『昨日で麗美くんがある程度仕事を終えた言っていてね、君は今日、事務所で京介くんと海志君と一緒に行動してくれ。僕と麗美君は、もう少し作戦開始場所と彼の経歴について調べてみる。』


「わかりました。では。」


ピロン


いつ連絡先交換したっけ?そう思いながら食パンを頬張り、ニュースを見る。すると、僕らのターゲットである倉持実がテレビに出ていた。


「倉持さん、裁判官としての仕事はいかがですか?」


「そうですね、やはり検察側や弁護側の発言や証拠、本人の発言など、様々なものを照らし合わせ判断しなければならないのが裁判官なので、すこし疲れます。ですが、国民のために、裁判官としての責務を果たすため、私は今日も法に従い被告人に判決を下します。」


綺麗事、それは並べれば並べるだけ希望を持たせてくれる魔法の言葉。人はそれに魅了されていて、物事の本質を見抜けていない。美しい仮面だけしか見ていないから、どす黒い内面を見ることが出来ない。


「その仮面を剥がすために、白瑛さん達は働いてるんだよな。」


そう思いつつ、僕は服を着て警察署へと向かった。





ーーーーーーーーーー




「おはようございます。」


「おはよう新。」


「……」


海志さんは返事をしてくれたが、京介君は返してくれなかった。昨日のことはまだ引きづってるのかな?


「き、京介君?」


「何すか?」


「おはよう……」


「……おはようございます。で、なんすか?」


「あ、ごめん。その、さっきおはようって言った時返してくれなかったから。」


「そうだったんすか。すみません、集中してたんで。」


根は優しいのか、冷たい声だが話してくれる。


「今は何をしてるの?」


「明日の夜侵入する場所の位置情報、館内の情報、侵入経路を解析してます。」


「これを1人で?すごいなー。」


「俺にはこれしかないから。白瑛さんのためにも頑張らなきゃいけない。」


「京介君は白瑛さんのことどう思ってるの?」


「恩人っすね。あの人のおかげで俺は自由を得られた。」


「施設に入る前は何を?」


「親から虐待を受けてました。」


「え?」


「母親は父親のギャンブル中毒に苛立ち、それを俺に向けることで発散してた。ピークに達したのか、俺は施設の前に捨てられた。施設内ではこの跡が目立って周りは俺から離れていった。」


そういい、彼は自分の首元をスッと見せる。するとそこには、殴った跡なのか、タバコをつけられた跡なのか、様々な跡が痛々しく首元に付けられていた。


「ッ!?……」


言葉を失った。これが今の日本社会なのか?


「そんな身寄りの無い俺を助けてくれたのが白瑛さんだった。あんな視線も、暴力も、受けることの無い自由、これを手にすることが出来たのは、紛れもなくあの人のおかげだ。」


「お前本当に好きだよなー。」


「海志さんからかわないでくださいよ。」


二人は笑顔で話す。その笑顔で胸がチクリと痛む。これから彼の期待を裏切るようなことをするのだから。





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「さて、諸君。再度確認と行こう。麗美は京介と一緒に。京介はハッキングや道案内。海志は万一の場合の狙撃場所に待機。私と新君が潜入でいいかな?」


「了解。」


「それはそうと、新君が話あるって。」


麗美さんの一言により、ほかの3人の視線が僕にむく。


「どうしたんだい、新君。」


「……今回の事件、対処しなきゃ行けないのは分かります。皆さんの気持ちも重々理解した上でいいます。僕は……今回の作戦には参加できません。」


「ッ!なんで!!」


「京介、静かに。」


怒りを露わにする京介君を白瑛さんは止める。



「続けて。」


「……人を救うという点では僕も同じです。ただ、僕はやっぱり法を破って行うということに罪悪感があるんです。だから、僕は、今回の作戦には」


「わかった。」


白瑛さんは言い終える前にそういった。


「……え?」


「君はまだここに来て1日しか経っていない。そりゃまだ慣れないよね。すまない。私が君のことを思ってやれていなかった。」


「ッ……」


「明日は我々で何とかする。今日はもう帰りたまえ。」


「……はい。」


僕は扉を閉め、家に向かう。足取りが少し重いのを感じた。罪悪感からだろうか。きっと白瑛さんの期待を裏切るようなことをしてしまったからだろう。


「……はぁ。」


ため息を吐いて、僕は眠りについた。





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「いいの?」


「何が?」


海志は新が帰った後、白瑛に話す。


「新だよ。あいつあんな感じだったから。」


「どうだろうね。彼が来て間もないからなんとも言えないけど、あれは参加できない目をしてたような気もする。」


「よく分からんな、人の心は。」


「……まったく、同感だよ。」


二人はウィスキーを片手に、夜景を見た。


「この景色がいつまでも続くように。」


「あぁ。」


カキン


グラスは高い音を鳴らし、揺れる液体は美しい夜景を歪ませた。





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3日目



「……朝か。」


現在時刻午前8時、いつも通り起きれなくて少し落ち込む。今日は1日ゆっくりしていいと言われたし、カフェでも行こうかな。


(「ッ!なんで!!」)


京介くんの言葉が、今も脳内で再生される。


「……」


コーヒーを作りながら思う。自分は正してことをしているのか?僕がしているのは、本当に社会のためなのか?


「わからない……」


そんなグレーな感情を、ブラックコーヒーは塗りつぶしてはくれなかった。コーヒーを飲み終え、カフェでご飯を食べることにした僕は着替え早速家を出た。


「ここだここ……ってあれ、嵐山先輩?」


「あれ、新!奇遇だな。」


「ですね。」


「ここ座る?」


「ぜひ。」


僕は先輩の隣に座り、モーニングセットを頼んだ。


「どう?新しい部署は?」


「それが、なかなか馴染めないんですよね。」


「なんかあったら言えよ?」


「……ならひとついいですか?」


「おう。」


「もし……もしですよ?もし、自分の仕事が、法を破って世界を正す仕事だとしたら、先輩はしますか?」


「どうした?小説でも読んだか?」


「真面目に聞いてください。」


「ごめんごめん。うーーん、そうだなぁ……」


先輩はいつも、他人事ではなく自分のことのように考える。


「……するかもな。」


「え!?」


「そんなに驚くか?」


「いやだって、先輩は人を助けるのが好きなんすよね?人を助ける、守るためにある法律を無視するとは思えなかったので、しかも正義感も強いのに。」


「でも自分のせいで世界に危機が迫るのなら、そこで正義感を発揮しなくてどうするよ?」


「ッ!?」


「たしかに、法律を無視するということは、国に背いていることにもなる。けど、自己を犠牲にして誰かが助かるなら、それもいいと思うけどな。」


「……なるほど。ありがとうございます。」


「どういたしまして。ほら、早く食えよ。」


「はい。」


なんとなく、自分の考えが、頭の中で整理できた気がする。





ーーーーーーーーーー





時刻は午後20時、夜の東京は、華やかに光を発している。今日は決行日。あの人たちには言わずに行くのは怒られそうだけど、連絡先交換してなかった……ひとまず、目的にの場所まで歩いていく。


「つづいてのニュースです。昨夜、練馬区内で爆発事故が発生していm


ザーザー、ザーザー


テレビ屋もビルで流されていたニュースも砂嵐にジャックされ、謎の映像が流れ始める。


「Ladies&Gentleman!ご機嫌麗しゅう、パンダヒーローだ!本日も、世界が白か黒なのかハッキリさせようと思う、犯人は逮捕後公開。それでは。」


プツン


その映像は、瞬く間にSNSに拡散され、見事にトレンド1位に。彼らは決行日の20時に必ず予告をするが犯人の名は名乗らない。名乗れば警戒されるからだ。


「僕も行くか。会議出てたから場所はわかる。」


朝、先輩に言われて分かったことがある。僕は罪悪感からやりたくなかったんじゃなくて、正義感がないからとかじゃなくて、ただ単に、怖いと思っているからだ。自分が死ぬのが、自分が傷つくのは恐れて、他人が傷つくのも恐れて。でも、そんなことしていたら、守れるものも守れない。


「フゥー」


ペシッ


両頬を叩き、覚悟を決める。


「行くぞ。」


僕はターゲットがいる場所へと向かった。





ーーーーーーーーーー




「来たはいいけど……怖すぎるよ!」


僕は街中にある高層ビルに赴いた。確か、52階で倉持実が裏社会の連中と会う約束をしていたはず。


「目立ちすぎて逆にありえないと錯覚させることが目的が。それにしても、僕一人で来ちゃったよ泣」


4人に話した方がいいのは分かってるけど、連絡先交換するの忘れてた。持ってるのは警官が所持を許される6発装填式のリボルバーと警察手帳、それとスマホ。


「覚悟を決めたんだから、やらなくちゃいけないだろ!」


僕はビルに入ってすぐ左側にある非常階段に向かう。


「警備員は……いなさそうだ。でも52階!?着いた頃には足消えてるよ……」


僕は無心になりながら52階をめざした。




ーーーーーーーーーー





ピー、ピー、


パンダヒーローの正装を身につけた私は目的のビルよりさらに高いビルの屋上にいる。


パンダヒーローの正装(ロシア帽を被りターコイズの長袖の服とゴーグル、武器は鉄パイプ1本と拳銃。)


ゴーグルを目につける。このゴーグルは特殊で、付けると目的地や自身の呼吸、体温、心拍などが分かる。


「こちら白瑛、状況は?」


『声ははっきり聞こえる、通信状況問題なし。私と京介は大丈夫。海志は?』


『俺もいける。』


「それなら作戦実行だ。」


『白瑛さん、パラシュートを利用して目的のビルの屋上に飛び移って。』


「了解!」


助走距離を確保し、そのまま走る。風が耳を、鼻を、肩を、全てを突き抜ける。そして右足で思い切り地面を蹴りあげ跳ぶ。すぐさまパラシュートを開き調節しながら着地。


「着いたよ。」


『そしたらそこにあるダクトを利用して一気に52階へと行ってください。』


「了解。」


私は屋上にあったダクトを経由し、ターゲットのいる部屋へと向かう。


『白瑛さん、そろそろです。』


「了解。」


『そこのダクトで52階の様子が見れるはずです。』


「確かに見れた。敵は……5人かな?倉持実と祐太郎、と裏社会の男が3人。」


『……ん?ちょっと待ってください。』


カチャカチャカチャカチャ


キーボードを叩く音が聞こえる。


『白瑛さん!52階には、生体反応が白瑛さん含め7人とされています!』


「なに?」


『白瑛さんが見てる部屋のドア、すぐそこに誰かいる!スマホを所持してるからネットを辿れば、えっと……はぁ!?』


「どうした?誰がいた?」


『……山城新です。』


「新君!?……フハハ。」


『何笑ってんですか!?』


「いやすまない。それにしても、そう出るか山城新!」


焦る気持ちもあるが、それよりも、この状況がとても面白い。


「問題ない。作戦を続けよう。」


『わかりました。』





ーーーーーーー




「フゥー、フゥー。」


暗い暗い廊下で呼吸を整えようとするが焦る気持ちも無理は無い。なぜならターゲットがすぐそこにいるからだ。


「ーーーーー?」


声が聞こえる、扉を耳を当て目をつぶり神経を集中させる。


「それにしても、倉持さんはすごいですね。」


「いやいやとんでもない。君たちのおかげでここまで来れたんだよ?」


「またご冗談を。」


「ハッハッハッハッ!」


大声で笑う祐太郎、一体裏社会のやつらと何を話しているんだ?


「僕らがここまでやってこられたのは倉持さんのおかげですよ。お2人が僕らに依頼をし、頼まれた人物を僕らが見つけ、そして冤罪へと持ち込む。依頼された僕らはそのお金で楽しく暮らし、お2人は冤罪にした人物の顔を見て愉悦を感じる。さらには、冤罪について嗅ぎ回ってくる連中も我々が対処し、その報酬に金が貰える。お互い良いことづくしですな。」


「ホントだよ。いやー、今日も滑稽だったな実。」


「はい、本当に。愛する家族と離れ離れになる時の顔はたまりません。」


「お前も俺に似てきたな!ハッハッハッハッ!」


「……」


グッ


拳を握りしめ怒りを抑える。今自分一人で突撃しても意味が無い。返り討ちに会うだけだ。ここは、録音だけして嵐山さんや上田さんに届けよう。そうしy


「しかも今回は聞いて驚くなよ?無期懲役で2ヶ月後には死刑だとよ!笑っちまうよな!」


「ッ!!」


怒りが収まらなかった。怒りが心に渦を作り、うちから溢れ出るこの感情を、殺意というのだろうかはわからない。けど、それに近い感情が、今僕の胸に秘めている。


バン!


「!?」


扉を勢いよく蹴りあげた僕は、ポケットに入れて置いたリボルバーを取りだし、5人に向ける。彼らは困惑した様子だった。


「動くな!動いたら撃つぞ!」


「貴様何者だ!」


「山城新、警察官だ。」


「山城……!、聞いたことがあるよ。そこの警察署に知り合いがいてね。君、どうやら「異動ギネス記録」なんて言われてるらしいじゃないか。」


「あぁ、そうだ。」


「惨めだなぁ。恥ずかしくないのかい?自分の次実力に。」


「うるさい!喋るな!」


「それに1人で5人も見られるのかい?」


「何を言って……うわ!?」


後ろから取り押さえられ、実はポケットから実銃を取り出す。


「警察官なら見過ごせばよかったのに。僕らのこと知らないの?」


「まぁそう言うな実。しかし、こいつには教養が足りなかったようだ。」


「黙って聞いてりゃ僕の愚痴ばっかり言いやがって!」


「実際そうだろ。なぁ?「異動ギネス記録」くん。」


「ッ……」


「落ちこぼれで、どん底にいるような君は、どこで生きようと何も出来ないよ。」


「…………だ。」


「あ?」


「 下を向くのはうんざりだ!」


僕は言葉にする。先程の怒りとは違う感情を言葉に。


「下を向いてる暇があったら前を向く!それが落ちこぼれの僕にできる最大限の努力であり、その努力が僕の存在を証明するものだ!あんた達は下のものを見下すことでしか存在証明ができない、ただの落ちこぼれだ!」


「ッ!テメェ!」


「やっちまえ!」


「グッ!」


胸ぐらを掴まれたその時、


ガゴン!


上のダクトから何者かが降りてくる。


「その通りだ新君!」


「は、白瑛さん!?」


華麗な着地をしたのち、白瑛さんは僕の前に立つ。


「まったく、新人は世話が焼けるね。」


「すみません。でもどうして?」


「何を言っているんだい?私は最初からここを利用して来る予定だったんだよ?」


「……あ。」


そういえばそうだった。


「とにかく無事で何よりだ。さぁ、反撃と行こうか。」


「く、くそ!なんなんだこいつら!」


「撃て撃て!」


裏社会の3人は銃を構える。しかし


「君たち、動きが成ってないよ。」


バシ!ボゴ!


「グハッ!」


ドサッ


背中に背負っていた鉄パイプですぐさまなぎ倒す。


「オラァ!」


「白瑛さん!」


背後から迫る男の存在に気づかせようと声を出す

すると……


パリン!


「グハッ!」


窓ガラスが割れると同時に男は倒れる。


「ありがとう海志君。相変わらず気絶させる威力の球は助かるよ。」


『お構いなく。』


「さてと……」


「と、父さん!」


「み、実!」


「クズのくせに親子の絆はあるんですね。」


「な、なんなんだお前らは!」


「その答えは今に分かりますから、では、おやすみなさい。」


ベシッ


首に一撃入れ、2人を気絶させる。


「新君、そこの3人をロビーの人に通報入れてもらって。」


「は、はい。」


僕は通報を入れ人を呼ぶ。


「次は何を?」


「エンドロールだよ。舞台には必要不可欠だろ?」




ーーーーーーーー



白瑛さんと一緒に向かったのは先程白瑛さんがいたビルの屋上。ヘリポートの真ん中にカメラと椅子を配置し、縄で5人を5つある椅子とそれぞれ結ぶ。


「あーあー、よし。では新君。始めてくれ。」


「は、はい。」


「京介、頼んだ。」


『了解。』


ポチッ


京介くんにより、町中のテレビは僕が起動させたカメラの画面へと移る。


「皆様ご機嫌麗しゅう、先程捕まえてきましたのでご紹介します、若手弁護士倉持実様とその父、祐太郎様です!」


パチパチパチパチ


「ん……ここは……」


「と、父さん、ここ何処だよ!」


白瑛さんの拍手により、2人は目覚める。


「目が覚めましたか?」


「お、お前はなんなんだ!」


「私はパンダヒーロー、世界の白と黒をハッキリさせることを仕事としております。」


「パンダヒーロー……聞いたことがある!」


「あの倉持様に認知されているとは、私も有名になったものですね。」


「何が目的なんだ、私たちは何も……」


「なら、このメッセージに書かれている内容を見て、何もしていないといえますか?」


そういうと、白瑛さんは倉持祐太郎が裏社会の人と話しているトーク履歴を見せる。


「そ、それは……」


「今回のターゲットは大壁遙(おおかべはるま)。彼は最近結婚し、幸せな家庭を築いていると噂があるため、ターゲットにするなら最適。我々が事件を起こすので、その後の対処は任せます……これは、私の仲間と共にあなたについて調べていたものです。」


「クッ……あぁそうだよ、全部やったよ!俺たちがな!」


倉持親子はどうせ殺されるならと言わんばかりに全てを白状する。


「何が悪い、僕の母さんは冤罪で死んだ、父さんは僕の怒りをくんで裁判を手配してくれた。冤罪を起こす以外に、この怒りをどこに向けろって言うんだよ!」


「お前たちにはわからないだろうな!自分の大切な人が、理不尽に死ぬ苦しみは!」




「分かるよ。」




白瑛さんは悲しげな表情で2人に告げる。


「新君、少しカメラを止めて。」


「は、はい。」


「……少し話そうか。実は私の愛した彼女も、今はこの世に居ない。」


「う、嘘をつくな!」


祐太郎は白瑛さんにそう言う。


「嘘じゃないよ。」


「しょ、証拠がないだろ!」


実も父親をまねし言う。


「これを見れば分かるかな?」


白瑛さんは自分の服を少しあげると、腹部の右側に刺されたような傷があるのが見られた。


「これは、僕と彼女がドライブをしていた時に、居眠り運転に事故を起こされ、車の部品が腹に突き刺さった時の傷だ。もう治ったがね。その事故を起こした相手はドライブレコーダーによると事故を起こして直ぐに車から降りてにげたらしい。そして、彼女は死んだ。」


「え……」


思わず、そう声を呟く。


「不運だった、私の方だけエアバックが作動していて、彼女の方は作動せず、頭を打っていた。警察の鑑定によれば、事故の際、車の当たる場所が彼女よりだったため、ぶつかった際エアバッグの機能が故障した可能性があると言われた。犯人に関しては逮捕され、彼も今はこの世に居ない。死刑だ。」


「……」


かける言葉も、呟く言葉も出てこない。


「あなたが言う大切な人が死ぬ苦しみは分かってるつもりだ、目の前で息絶える様は地獄だった。」


「ッ……だ、だからなんだってんだよ!」


「正しく生きよ、それが、死者から生者に与えられる課題であり呪いだ。一生付きまとい、離れることは無いだろう。しかし、そうしなくては、彼らは僕らのことをひたすら恨むだろう。彼らが死者として生活、安らかに成仏できるためには、我々は正しく生きるしかない。あなたの奥さん、あなたのお母様は、あなた方の行動を望んでいると思いますか?」


「「ッ!」」


「今1度考えるべきです。どう生きるべきか、どうすれば正しくあれるか。」


白瑛さんはそう告げると、こちらに近づく。


「さてと、新君、カメラを再度頼むよ。」


「はい。」


僕はカメラのボタンをもう一度押す。


「少しトラブルがあったがなんの問題もない。彼ら二人は自分の人生を悔いている途中だ。これからのパンダヒーローの活動、応援を頼むよ。それじゃ。」


白瑛さんはカメラを停止し、倉持親子の方を見る。


「君たちが気絶している間に、警察をここへ呼んだ。君たちは捕まり、厳しい罰を受けるだろう。もしかしたら死ぬかもしれない。でも、捕まってる間も後悔は可能だ。君たちのこれからに、私は少し期待するよ。」


「なんで、なんであんたはそんなに優しいんだよ。俺たち、とんでもないクズだぞ?」


「相手がどうであれ、平等に接するのが私のポリシーなのでね。」


ウーンウーンピーポーピーポー


「おや、どうやら来たようだ。ではこれで。新君、お手を。」


「お手?」


白瑛さんが差し出す手を握る。


バサァ!


「え?」


「さぁ、空の旅へと行こうか!」


「えぇ!!!!???」


パラグライダーを開いた白瑛と共に僕は警察署へと戻った。



ーーーーーーーー



「お疲れ様ー!」


警察署に戻った僕と白瑛さんは、京介君と麗美さん、海志さんと合流し、部署内で打ち上げをすることに。


「みんな、これを見てくれ。」


ピッ


白瑛さんはテレビをつけると、流れるニュース番組で倉持親子と裏社会の3人が撮り上げられていた。


「先程、謎の組織パンダヒーローにより、倉持親子の闇が暴かれました。この件を気に政府は、裁判官や政治家の再選出や、冤罪となった人達の事件の見直しや再審を行うとのこと。」


「みんなのおかげで出来たことだ。いやー、一件落着」


「疲れたわね。」


「やっぱ海志さんの狙撃は凄いね。」


「そうか?」


4人が話すのを見て僕は思った。こんなにも仲間思いで優しい人たちに何も言わずに行動するのは信用していないと伝えるのと同じなのでは無いのかと。


「新君もお疲れ様。」


「……ません。」


「ん?」


「すみません!!」


「!?」


4人は僕の方を見る。


「今回の事件、なんとかなったのはいいものの、一歩間違えれば、皆さんの計画を破綻するかもしれなかった。本当にすみませんでした!」


「新君。」


「はい。」


「私は君に感銘を受けているんだよ。」


「え?」


「君は今まで酷いことを言われてきたのかもしれない。私が想像することの無い辛いことだ。でも、君は諦めず、下を向いている暇があれば前をむき、努力が結果と結ばれることを信じてひたむきに行動していた、それを今日、あの場で知ることが出来たよ。」


(下を向いている暇があったら前を向く!)


あの時の……


「実は君がここに来るとこが決まってから、君の先輩である嵐山君から、君について聞いていてね。君は、自身がした行動に対して何かをいわれるのに恐れてしまい上手く行動が出来ないと。」


「……はい。」


「でも、今日で成長出来たんじゃないのかい?」


「!?」


「僕たちに言わなかったのは、連絡先を交換していなかったってのもあるかもしれない、でも、そこで引き下がらず、自分の力で道を切り開こうとする君は、もう前の君とは違うよ。」


「……僕は、成長しているんですかね。」


「うん、間違いなく。」


白瑛さんはニコリと笑い、僕の方を見る。


「……スン、ありがとう、ございます!」


涙があふれる。人に認められ、自分の成長を気づいてもらい、それを褒められるのが、こんなにも嬉しいことだとは思わなかった。


「さぁ、まだまだ夜は長いぞ、みんな!騒ぐぞ!!」


「おー!!」


この日のことを、僕は一生忘れない。


ーーーーーーーーーーーーー



エピローグ





所属してから1ヶ月が経った。仕事には慣れ、前より自信を持って動けるようになった。



「おーい新君、早く行かなきゃ間に合わないよ。」



「はーい。」



自信を持つ、これができるようになったのは、みんなのおかげだ。みんなのおかげで僕は強くなれた。




「さぁ皆の者、」




月光は、僕ら5人を街に照らす。




「今宵もハッキリさせよう、」




これは、何をするにもダメな僕と、癖の強い仲間たちが、様々な事件の真実を暴く物語だ。




「白と黒を!」








Fin





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