第2話誰かの形を纏って

迂闊だった。

ダンス練から帰ってきて教室に入った瞬間、携帯のアラームがなぜが鳴っていることに気づいたときには冷や汗が出た。

幸い、私が一番に戻ってきたこともあって誰にも聞かれることはなかった。危なかった。

あの時間のアラームを怪しむ人はそうそういないとは思うが、変な好奇心を持つ人間が居ないとは限らない。

もしそういう人間が居たとして、このアラームを聞かれたとして、それを尋ねられたら。

日頃から父にはアラームの確認を怠るなと言われていた。なのに、今までこんなことなかったのに、忘れてしまった。

たぶん、私がどう答えようとも、その答えが真実かを確かめるだろう。好奇心とは、そういうものだ。

そうなったら私は終わりだ。

いや、私だけじゃない。妹も、父も、終わる。

家族が終わるのだけは嫌だ。私にはもうあそこしかない。あそこが奪われたら、私は、私は-

「難しい顔して。どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ」

「じゃあ、いこうか」

今となってはその醜い耳元の囁きもなんとも思わない。慣れとは、怖いものだ。

彼はすでに興奮しているのか、手汗が滲んだ手で私の手首を掴みながら引っ張っていく。私は抵抗せず、なされるがままについて行った。

裏路地に入って二回曲がった先、私の"職場"が見えてきた。私は8歳のときから、こうして連れてこられては、

犯される。

もう私は壊れてるのだろう。彼は私の身ぐるみを剥いでいき、その度に見苦しい甘い言葉を吐いた。

私の服を全部脱がすと、胸の谷間に人差し指を当てて私のお腹を撫でていった。

たぶん、あまり経験してないんだろうな、と思う。

動きの一つ一つがぎこちなく、どこか緊張しているように見えた。

そして彼の指は私のものに触れたところで止まり、その指を入れた。

「ねぇ、気持ちいい?」

気持ちよくなんかない。お前たちは、『やられる側』の感情なんか、微塵も気にしないだろう。

「うん…」

私は目を逸らしながらそう呟いた。彼の目が煌めいた瞬間、堕ちた。そう私は確信した。

日中の彼の行動でどういうタイプが好みかはわかっている。7年間の経験は伊達じゃない。

彼は、静かで大人しい子を望んでいる。私はそれを見透かし、彼の望む誰かの形を纏い、演じた。

「僕も気持ちいいよ」

私は彼の勃った肉棒に触れ、前後に擦った。肉棒に入る力が強くなっていくのが分かる。

「ん…」

彼は私を押し倒した。そして私の膨らんだ乳房を掴み、乳首を擦る。

「あ、あぁ…」

私はそう甘えた声で喘いだ。そして、彼は私に四つん這いになるように言い、肉棒を挿した。

彼は私が演じているとも露知らず、ただ己の欲望に身を任せて私の体に腰を打ちつけている。

先程のぎこちなさが嘘のようだった。まさに、その姿、感情の爆発は、怪物と言える。

「はぁ…はぁ…っつ!」

彼の絶頂は最高点に達した。生暖かい液体が体の中に入ってくるのがわかる。

それでもなお彼は腰を動かすのを止めない。

犯されすぎてもはや絶頂の感覚も失った私が言うのもあれだが、よく動くなと思う。がたいも悪くないし、体力があるんだろうな。

そうなるとこっちがもたない危険がある。いくら感じないとはいえ、体力は消費する。体も動きはする。

彼は何度も絶頂を迎えた。その度に私の体内は汚され、体力も奪われていった。

もう一時間はやっている。なのに、一向に彼の興奮が止むことは無い。

時間が長ければ長いほど儲かるからいいのだが、そろそろ私も頭がぼーっとしてきた。

今までにも何回かセックスで気絶したことがある。元々あまり私は体が強くないので、力の強い体力のある男性に負ける。そうなっては儲けが減るので、できるだけそういう事態は避けるようにしている。

「あ゙ぁ、あ゙ぁ、あ゙ぁ!」

段々と視界がぼやけ、演じるのも難しくなってきた。汚い喘ぎ声を叫びながらその振動に身を任せる。

「はぁ、あ゙ぁ、はっ!」

それが彼の最後で最高の絶頂だった。正直助かったと思う。あれ以上セックスされ続けたら、いよいよ気絶するところだった。

「はぁ…はぁ…」

彼は私の中から萎えて縮んだ肉棒を抜き、財布から20万を出した。私はそれを受け取って、脱がされた服を着る。

「今日はありがとう。また頼むよ」

「私も、気持ちよかったです…」

私がそう呟くと彼は私の頬に口ずけをして去っていった。

私も帰ろうと思い、歌舞伎町一番街アーチへと向かう。

そして、何気なくアーチの周りに佇む人たちの姿に目をやると、そこにあった姿に思わず足が止まる。

あぁ、やっぱりそうよね。聞かれていないはずがない。

「どうして…」

思わずそう呟いてしまったからには、遅かった。

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好奇心の檻 蓮空 形人 @feltunseenyet

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