エンディング


「無理よ……見たでしょ。君たちのゴーレムも壊れてしまうわ」


「いえ、僕たちのゴーレムなら出来ます」


「でも……ごめんね。このダンスは特別なの。普通と作り方が違うのよ」


「なら僕たちのゴーレムも同じです。普通と作り方が違いますから」


「ん。ウィルの言う通り。フツーじゃない」


「シホさん、僕たちを信じてください」


「……そこまで言われたら、断れないわね」


 シホさんは息を吐き、抱いていた真核の中からアニメを取り出した。

 四角い光の列が僕の前で渦を巻く。通常なら線状のアニメが光の塊になっている。

 なんて密度だ。育てるくんのアニメとはまるで比較にならない。


「あなたに託すわ」


「ありがとうございます」


 アニメを託された僕は、オジマさんにもう一度やらせてくれと訴えた。

 もう恥も何もあるもんか。


「オジマさん。もう一度チャンスをください」


「どうするつもりだね?」


「彼女がつくったアニメを最後までみんなに見せたいんです」


「だが、君も見ただろう。あれは――」


「僕のゴーレムなら大丈夫です」


「その自信があるなら……やってみたまえ」


「はい! アルマ!」


「ん。もう入れた」


「よし、再生するよ」


 時間がない。

 観客がいなくなる前に見せるんだ。


「ビアード、口上を。次は大丈夫だ」


「な、何を偉そうに……」


「評判に傷がついたままでいいのか? 挽回できるんだぞ」


 悔しそうな舌打ちをしたビアードは、いまいましげに僕を見た。

 しかし、すぐに顔色を笑顔に塗り替えると観衆に向き直った。


「おお、これぞ職人同士の友情、なんと感動的なことでしょう! 競争相手の失敗を喜ぶどころか、少年は自身のゴーレムを差し出した! うまくいきましたらどうぞ拍手のほどを!」


 観客の間からまばらな拍手が起きた。

 どうにか間がつながった。あとはゴーレム次第だ。


「アニメを再生!」

「ん。」


 指示を出すと、さっきと同じようにゴーレムが踊りだす。

 同じ踊りか。しかしそんな表情の観客の視線はゴーレムに釘付けとなった。


「おぉ……」「すげぇ!」「なんだありゃ!」


 理由は明らかだ。

 ゴーレムがステップを刻むたびに双丘がぽよんと揺れ、スカートがきわどい範囲までに舞い上がる。そうしてあらわになった太腿に食い込んだタイツ!


 これだぁ! こいつはキクぜぇ~!

 こので男もイチコロというものよ!!


「「ワァァァァァ!!!」」


 観客の声援がビートを刻む。それを聞いてか、ゴーレムのダンスも激しさを増す。

 それは当然、彼らの需要を満たすものとなる。

 豊かに揺れるオパーイとオシーリ! ンッンー! エクセレンツ!


 やがてゴーレムのダンスはフィナーレを迎えた。


 キレのある動きでスカートを揺らしながら、ステージの階段を登る。

 すると観客の男たちは皆、ステージの下にひれ伏していた。

 ローアングルを攻めるためだ。


 しかし男たちの熱視線は堅固な鉄のカーテンに阻まれる。

 もうダメか。そう思われたその時だった。

 ゴーレムが振り返り、一瞬だけ彼らの網膜に純白が焼き付いた。


「ワァァァァァァ!!!!」


★★★


「ふぅ。まさか3回も踊ることになるとは……」


「色々言いたいことはあるけど、踊り切るどころか、3回も耐えるなんて……ウィル君はいったいどうやってあのゴーレムをつくったの?」


「うむ。通常では考えられない可動性と耐久性だ。私も気になる」


「あぁ、それはですね――」


 俺はオジマさんとシホさんにゴーレムの仕組みを説明した。第二の骨でねじれを相殺するというアイデアはオジマさんも初耳だったらしく、とても驚かれた。


「驚いた。君は頭が柔らかいな」


「さすが未来の巨匠ね。敵わなかったかー……」


「いえ、僕にも気になってることがあります。シホさんがつくったダンスです」


「「ダンス?」」


「シホさんはダンスをどうやってつくったんですか? 数分に及ぶダンスの作業はものすごい物量になるはず。ゴーレムを作りながらどうやったんですか?」


「ああ、手作業じゃ無理だったから、ちょっと頭をひねってみたの」


「どういうことですか?」


「これはね――ゴーレムのアニメって人形を使うじゃない?」


「はい。ゴーレムの関節と対応した記録用の人形を使いますね」


「その人形を分解して、中の記録用の小さな魔法をお守りにして、自分の体につけたの。それで自分で踊って記録したのよ」


「ほう――なんとおもしろい!」


「え……」


 そ、その方法があったかぁ~。

 それならもっと楽にアニメを……。いや待てよ?


(ねぇアルマ、これって……)


(ん。『モーションキャプチャー』だね)


(だよね……)


 モーションキャプチャーは、人や動物などの動きを計測し、その動きをデジタルデータとして記録する技術だ。


 古くはカメラを使用していたが、2010年頃からセンサーが搭載されたスーツを使って動作を直接記録するようになった。


 シホさんがやっていたのは、それとまったく同じ。

 彼女は直感だけでモーションキャプチャーを再現したのだ。


「すげぇ……」


「私から見たらそっちもだけどね」


「で、勝負はけっきょく、どーなったの?」


「それはもう、アルマちゃんとウィル君の勝利でしょ」


「うむ。私も異論はない」


「ま、まて! アニメはシホのものだぞ!」


「諦めなさいビアード。うちのゴーレムは崩壊しちゃったのよ」


「むむむ……」


「そういえば、手紙にはこっちが勝利したときの事が書いてなかったな~?」


「ギクッ」


「――それなら私から提案がある。」


「オジマさん?」


「ウィル君、アルマ君。君たちが望むなら……魔機大学は君たちを歓迎する」


「えっ!?」


「よかったじゃない! 魔機大学なんて誰でも入れるものじゃないわよ!」


「でも、学費お高いんじゃ……」


「その通りだ。しかし――」


「なるほど。勝利の報酬としてその学費をビアードに払わせろ、と。」


「うむ!」


「何をたわけたことを! うちは大損害だ、逆さにしても何も出んわ!」


「じゃ、このゴーレムあげるっていったらどうします?」


「えっ」


「ウィル、このゴーレムあげちゃうの?」


「アルマ、僕らがこのゴーレムを持ってても、できるのはせいぜい農作業くらい。でも、ビアードならぜったいお金稼ぎの方法を思いつく」


「あ、そっか」


「なら、ビアードにあげて、死ぬ気で働いてもらったほうが良くない?」


「クソガキ、何気にヒデェなオイ!?」


「じゃあいらない?」


「……いらんとは言っていない。クソッ! 言いなりになるのは気に食わんが……」


「お金かせぐ。ただし、まっとーな手段で」


「わかっとるわい! クソッ!」


「交渉成立だね」


「ふむ、話は決まったようだな。魔機大学で君が活躍するのが楽しみだ」


「僕もどんな人に会えるのか、それが楽しみです」


「はは、残念ながら、君ほどの傑物はそういないと思うがな」


「いえ、そんなことはありません。絶対に――」


「?」


 技術は競争の歴史だ。

 無数の競争のあとに残った血のシミ。それが技術だ。


 この異世界の人たちは、まだその歴史が浅いだけだ。


 創意も気力も才能も、俺やアルマに決して劣っていない。

 いやむしろ、驚かされることのほうが多かった。


 シホさんを見る限り、デッサンなんかの基礎技術はとっくにできている。

 単に試行と失敗の数が足りてないだけだ。


 この世界の人々が驚異的なゴーレムを作る時はそう遠くない。

 ……楽しみだ。

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ガラテア・コンプレックス 転生した3Dデザイナーは異世界ゴーレムを「盛り」続ける! ねくろん@カクヨム @nechron_kkym

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