【短歌】二十首連作「失われた恋」

葉方萌生

「失われた恋」の歌

もう梅雨も明けてるよって言ったのに土砂降りの朝雨の日デート



原作を読んで面白かったから誘った映画の途中で寝てた



学校で噂になって縮こまるわたしの右手を握って帰る



きっかけは何だったのか分からない喧嘩をしても戻れない朝



夏の日の夜明けのメール嘘だって叫びたいのに力が出ない



十年後結婚しよって言ったきみ無邪気に笑うわたしが憎い



「さよなら」と手をふるきみに重ねたの「また会えたね」と笑うあなたを



買い替えたスマートフォンに移せないたった二年の恋文メール



傷ついた思い出なのにどうしても思い出すのはサイダーの夏



母からのお知らせローカルニュース記事花火大会今年で終わる



大輪の夜空に咲いた花火より火の粉浴びつつじゃれた思い出



五年経ち結婚したよあなたとの約束やぶり別の誰かと



エレベーター前に乗ってた人のかな懐かしい人と同じ香りは



記憶には匂いがいちばん残るってあなたが告げた余計な一言



もう二度と会えないからと都合よく夢に出てきて謝らないで



積年の想い枯れたら繋がったSNSできみから「いいね」



どちらかが悪いだなんてもうやめて青すぎた日のふたりの果実



きみと見た未来は遠い霧の中愛されることを知れただけで晴れ



好きだって叫ぶ心を受け止める人に会えたの幸せでした



ありがとう伝えられる日来ないから短歌を詠んだ十年越しに



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