第25話
ダンジョンを攻略した僕たちは宝物庫に足を踏み入れた。
そこで豹変したミティシアは昂ぶったからという理由で僕を襲うと宣言。僕は殺されまいと頭を回しているところだ。
しかし行き詰まる。
こういう時いつも先回りしてするのがミティシアという女。あちらから言葉を投げかけてきた。
「わたしはティムのことが好きよ。だから今すぐ欲しいの。ならあなたの望みはなに?」
「僕は自分の気持ちがあやふやだ。そうやって人に好きと伝えられる自信がない。…………だから仲間や友達を求めるのだと思う。求めている間は嫌いな自分から目を背けられるから」
「死を前にわたしにすべてを出すのが怖い? わたしはあなたにすべてをさらけ出せるわ。一月にも満たない仲だけど、ティムとは仲良くなれたと思ったわ。それより先に行きたくないの?」
声が震えてる? なぜ?
彼女も人だ。普通の恋がしたいと言ったミティシアという女性は常識からズレた存在だが、決して理解できない存在ではなかった。
「最後に1つ聞きたい。僕たちがお互いに好きになって幸せになって、そのあとその気持ちが続かなかったらどうなるんだ?」
「そうね。そのときは来るでしょうね。じゃあ一度ケンカでもしてみましょ。子供みたいに泣きわめいて嫌な所を言い合うの。面白そうでしょ?」
「意外だな。もっとあっさりとした人だと思ってたよ」
「あなたは特にそういうのが必要だわ。だってめんどくさいことを避けてきたんじゃない? わたしもそうよ?」
「面倒ごとを避けてきたか……」
たしかにそうだ。
僕はミティシアに向き合う。なにも纏っていない彼女はきれいだ。
だけど僕は怖さも欲情も置いて、彼女という人と向き合うことができていた。
「これから君を知りたい。魅力的で僕の知らない部分を教えてくれる君を」
「うれしいわ。でも教えるだけじゃダメよ。わたしの好きな所を教えてくれないと」
「目の前で褒めるのは恥ずかしいな。でもその場で言うよ」
2人で寝床に倒れ込み、溶けるように語り合った。
蕩けて蕩けて溶け合った。
上質までとはいえないベットのシーツ。それでも戯れる時間はまるで穏やかな海の中のよう。
疲れ果て、まどろむ意識は心地よく、暇を見つけては指を絡ませ、髪をいじり、いたずらをし合う。
そんな爛れた遊びを飽きずに繰り返した。
痺れた脳の麻痺が緩んだ頃、僕はふと現実を思い出す。
これからのことだ。
「ミティシアに情が湧いた。飽きられるのは嫌だ」
「……素直ね」
呆れるような声で頭を撫でられ、続きを口にする。
「でもまだまだ情が薄い。一緒にいるだけじゃ足りない、前にも進まないと」
「いいわね。じゃあ何をするの?」
「小さな村を作りたい」
「……また突飛ね」
「そうだね。僕が探しに行くか、あちらから来るのを待つかを考えたんだ。村の長になったら、色々な人と関わるようになる。それこそめんどくさいことは山ほど出てくるだろう。僕が下に就くなら今までと変わらないけど、長になれば逃げることはできない」
「嫌なら逃げちゃったら?」
「だから村なんだ。僕は関わった人には少しだけど情が湧く。弱くてもいい人だったら面倒を見たり、守ってやりたい。そしていつかは信用できる人ができると期待してる」
「ホントにわたしに褒められると思ってる?」
「めんどくさいことを避けて、挑戦しない自分が嫌いなんだ。自分が嫌いなままなら、そのうち君に飽きられると思う」
「ふーん。じゃあ見ててあげる」
「今の表情かわいいな」
「ホント? ふふっ」
しばらくはバカップルでいよう。
幸せの後は挑戦のはじまりだ。
まずは良い領主を見つけることから始めよう。なんたってダンジョン攻略者。僕が選ぶ側なのだから。
終わり
あとがき
6月7・8日でここで終わるかどうか考えました。
ドワーフ、エルフとイメージがしやすいキャラクターとの絡みは楽しかったです。
楽しい、今回の創作はこの言葉に尽きます。
子供のように気の向くままに書き進め、設定は緩くスタートしました。
課題だった主人公の一人語りはおもしろい発見がありました。その結果、セリフを減らして地の文を多めで読みやすくするという手法を取り入れることができました。
日々読んでいる小説で気づいたことを試しています。
新しく試したいことができたこと、とPVを伸ばしたいという欲望が大きくなり、ここで終わろうという決断になりました。
最近のモチベーションは高く、しばらくはシンプルなストーリーを心掛けようと思うので次作投稿はかなり早いと思います。
追いかけて応援してくれている、まさぽんたさん、ジロギンさん、@matchanさんは特にありがたかったです。
感謝をお伝えします。
効率化ばかり考えてないで友達を作りなさい――僕はファンタジー世界を楽しめないかもしれない みそカツぱん @takumaro123
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