第24話
「まずいわね。逃げることも考えて戦うわよ」
何がそこまでミティシアを警戒させるのか僕には分からない。しかしダンジョン完全攻略目前の最終守護者であることには変わりがない。警戒度合いを更に引き上げる。
まずはいつもの先制攻撃。飛ばすものを魔力で強化しての射撃。
このダンジョンでは普通の石ころの強化弾1発で、沈む守護者は10階層までだった。1発にとにかく全力で強化を施し、一撃を重くする。
飛ばすのは道中で手に入れた鉱石を『錬金魔法』でライフル弾の形にしたもの。対守護者用の特別製。
そんな僕の渾身の一撃は守護者の鎧に軽い音を響かせてあっさりと弾け飛んだ。
「なっ!!?」
「やっぱりね。とにかく動揺せずに逃げて!」
ミティシアが初めて大きな声で指示を飛ばす。そのおかげで動揺が吹き飛び、突進を避けることができた。
鎧は剣を振り回し、僕を追い回す。しかし魔法での攻撃はしてこない。
おそらく動きの悪い僕から仕留めようとの算段なのだろう。
接近こそ許すが、危なげなく避けている。僕の動きはそんなところだろう。
反撃をする余裕はない。避けれているのはサーチでの観測のおかげだ。
ミティシアの攻撃もほとんど効いていない。さっき弾かれた攻撃といい、この鎧は魔力抵抗がものすごい高いのか?
ならば手段を変えるとしよう。
ミティシアに僕の送ったアイコンタクトが伝わったようだ。彼女は攻撃の手を止めた。
僕はできるだけ狭い範囲で攻撃を避け、彼女からの合図を待つ。
「準備ができたっ! 中央を横切り壁まで飛んで!」
「了解!」
彼女は僕が魔法で足場を作れることは知っている。守護者が僕を追いかけて想像どおりのことが起こった。
「…………!!?」
「畳みかけるわよっ!」
「ああ」
落とし穴、古典的だが有効な手段だ。
魔法で表面を残し、ダンジョンの床を掘った。穴の深さは約10mダンジョンの床の硬さを考えるならば、この辺りが妥当だろう。
僕たちは守護者を更に穴深く沈めようと試みる。
守護者の身体能力は高い。高いレベルの強化魔法を使った僕に迫るほどだ。
10mの高さなんてあってないようなものだが、それは足場があってのもの。
守護者から少し離れた地面は魔法が効きやすい。魔法で消し去ってやれば踏み込もうとした足場は簡単に削れる。
それに加えて本当に守護者を埋めることも並行して進める。ある程度穴が深くなったら水を投入する。泥沼化した穴で重い鎧は沈み、鎧の隙間に泥が侵入する。
どうやら中身は生物が入っているらしい。幽霊のような魔法生物が魔法をほとんど遮断するような鎧の中に入っているという奇妙な状況は起こらなかったようだ。しばらくすると鎧は動きを止めた。
更にミティシアは空間魔法で避けておいた土砂を流し込む。
守護者を倒すと先の道に繋がる扉が解除される。それがダンジョンのルールだ。
「うわぁ」
「ふふっ」
大量の金と宝石、それと宝剣とおぼしき剣が一振り。平らな広い台座に所狭しと鎮座していた。
ミティシアは財宝よりも僕の嬉しそうな顔を楽しんでいた。
財宝をしばらく眺めるのを楽しんだのち、魔法で仕舞う。その台座なんだが――
「とてもいいベットがあるわね」
「台座でしょ?」
ミティシアは台座に近づくとそこにおもむろに寝床を整え始めた。
まさかこんなところで寝るの!?
彼女は更に驚くべきことに脱ぎだした。僕はとっさに目を逸らす。
ベリっズルっ、という全身を覆う美容パックを剥ぐ想像を掻き立てる音が聞こえる。
僕は咎めるための声を上げようとするが声が出ない。つい音に集中してしまう。
ふぅという吐息、そのあとに体を洗い流しているのだろう、水の音。
心臓の音が大きくなる。
「脱いで」
「僕を殺す気か……?」
「さっきは危なかったわ、だから昂ぶっちゃった」
ゴクリっ、とネバついた唾が喉を通り過ぎた。
「で、できれば死なない方法はないのか?」
「ティムが耐えるしかないわ。逃がさないもの。ふふっ、優しくされるのが好きなのよね。ママのように」
なんとかこの状況を切り抜けるには彼女が言うように僕が耐えなければならない。
つまり強くなること、しかしちょっとしたきっかけで僕の心の在り方が変わるのかもしれない。
頭を働かせろ、服をゆっくりと脱いで時間を繋げ。
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