第33話 新たな日常~パパ?~

 色々あったシェリの問題も収束に向かい、俺はほっとした気持ちの中、今日もカフェテリアでアマナやシェリとのんびりとしたひと時を楽しんでいた。


「しかしクロウお兄さまは、恋魔法が解けても、シェリにデレデレした様子を見せる時がありますね。あれはどうしてでしょうか? 恋魔法さえ解ければ、このアマナの天下が訪れると、わたしは信じていたのですが」


 しかし、突然のアマナの発言で、そののんびりとしたひと時は、終わりを告げる。


「げほっ……ごほっ……いきなり何を言うんだアマナ。俺とシェリは友達だ。デレデレとなんて、していない……と思うけど……」


 俺は飲んでいた紅茶をむせさせながら、なんとかアマナに返事をする。

 だが――


「ほら、いかにも自信なさげです。アマナはこう見えて、クロウお兄さまの反応には詳しいのです。こういう時、お兄さまは必死になってシェリを意識しないように努めようとしています」


 正直言って、アマナの言う事は正しかった。


 俺は、恋魔法が解けてもなお、シェリの事を素敵な女の子だと感じる心が、抑えられずにいた。

 それはもしかしたら、今まで受けていた恋魔法の影響が残留しているのかもしれないが――


 そもそも、シェリ・アドゥルテルは、とんでもない美少女で、とてつもない優しさを秘めた、素晴らしい少女なのだ。


 であるからして、シェリに対して未だに恋心を引きずっている俺は、ある意味普通だと思うのだが……


「クロウさまっ! クロウさまは、わたくしの事が、す、好きなのでしょうか? わたくしの恋魔法が無くなっても、まだ好きなんて、そんな事はないですよね……?」


 シェリは、不安そうな表情で、俺に縋るようにして返答を迫ってくる。


 俺はどう答えたものか悩みながらも、シェリを傷つけない事を最優先に、こう返事をする。


「シェリの事はさ、とても大切な友達として、好きだよ。だから安心してくれ。俺とシェリは、ずっと、ずっと友達だ」


 そういうと、シェリはぱぁっと花が開くように笑顔を浮かべた。


「はい……はい……! わたくしも、クロウさまが本当に、本当に大好きです……!」


 それが恋愛感情だったらと思わなくもないが、まあそこはおいおいだろう。

 シェリの心を縛る未練は消えた。


 ゆっくりと時間をかけて、大きな氷山が解けていくように――


 シェリとの関係が変化していけばいいなと、希望的観測を持つに留めておく。


「むぅ……お兄さまは渡しませんよ……! わたしがクロウお兄さまの妹で、クロウお兄さまがわたしの兄なのは、前世からの確定事項なのです。シェリがちょっと可愛くて素敵な女の子だからって、簡単に妹の座を奪い取れると思ったら、大間違いなのですよ?」


 アマナは相変わらずどこかズレた事を言っている。

 まあ、アマナなりに場を和ませようとしての発言だと、前向きに捉えておこう。

 ――まさか本気で言ってないよな……?


「妹……ですか……それも素敵な関係だと思いますが……どちらかというと、わたくしはクロウさまと共に過ごしたあの魔法芸術の中の十年間のような……その、娘、とかの方が心惹かれるかもしれません……」


 シェリの言葉に、今度は俺が慌てる事になった。


「……娘、ですか? そういえば、お兄さまは魔法芸術の中で、シェリとどんな事をしていたのか、教えてくださっていませんね。娘、というのは、一体どういう事なのでしょうか? お兄さま、妹に隠し事をするものではありません。教えてください。さあ……!」


 そうなのだ。俺はシェリとの魔法芸術での日々について、アマナやエッセには話していなかった。

 それは、要らぬ誤解を招くと考えた事と、シェリのプライベートな所に踏み込んだ話になってしまうからだが――


「あら、わたくしとクロウさまの素晴らしい日々について、クロウさまはアマナに話していなかったのですね……それではわたくしが話しましょう。前世での苦しみを追体験したわたくしは、クロウさまの導きで、2歳くらいの幼い女の子として、魔法芸術の中で転生いたしました。そのわたくしを、クロウさまは、自分がパパだよ、と大切に、大切に育ててくださったのです。わたくしは、いっぱい、いっぱいクロウさまに甘えさせていただきました。とても、とても幸せな時間でした……」


 残念ながら、シェリの方から話されてしまうと、俺から止める事は出来ない。


 俺は恐る恐るアマナの方を見ると――


「ふぇ……ふぇええ……お兄さまが、お兄さまが、パパになっちゃってたなんて……お兄さまはわたしのお兄さまなのに……シェリのパパでいる事の方が大事なんです……しかも、それが後ろめたいから、わたしには秘密にして……ふぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ……!」


 案の定、アマナは泣きだしてしまっていた。


 ここはカフェテリアで、大変に目立つ光景となってしまっている。


 俺はアマナを泣き止ませるため、必死に言葉を尽くす。


「アマナ……落ち着け……! シェリの言葉は事実だが、お前の事が大事じゃないわけじゃない……そんなわけないだろう……! 俺はお前の事が大好きなんだよ……! 何度も言っているだろう……!」


「ひっく……うぇ……じゃあ、わたし、これからもクロウお兄さまの、妹でいていいですか……?」


「ああ。いいよ。俺はお前の兄じゃないなんていじわるな事、もう言わないようにするから……!」


 そう言うと、とたんにアマナは泣くのを止めて、満面の笑みになる。


「やったぁ! ありがとうございます、お兄さま! その言葉、忘れないですよ?」


 アマナに嵌められた。そう気づいた時にはもう遅かった。


「しかし、わたしが妹で、シェリが娘ですか……という事は、わたしとシェリは、親子という事になりますね?」


「な・ん・で、俺とお前がいつの間にか結婚してるんだ! あほか!」


 俺はぴしゃりと、アマナの頭をはたく。


「あうぅ……いひゃいです……でも、なんか幸せの味も感じました……うへへ……」


 アマナは相変わらず意味不明な方向に進んでいたので、俺は今度はシェリに向き直る。


「クロウさまがお父さんで、アマナさんがお母さん……素敵かもしれませんね……お家に帰ったら、アマナさんが美味しいご飯を作ってくれていて、クロウさまはわたしをよしよしと頭を撫でてくれて、3人で一緒にお風呂に入って……ああ、素敵……! 素敵すぎます……!」


 ……シェリもまた、どこかにトリップしてしまっていた。


 そんなこんなで、俺たち三人の関係は、前途多難だが――


 きちんと幸せになる方向に向かっている気がして――


 俺は少し満足気に、この惨澹たる有様を味わっているのだった。





 これにて、シェリの未練を晴らすまでの物語は、いったん終わりを迎える事になる。


 俺は、努力の末勝ち取ったこの結果を、ふっと微笑んで見つめているのだった。


 きっと神様も、どこかで笑っている事だろう――

 

 そんな事を想いながら――




 




 ==================


 あとがきです。


 これにて、本作の第一章は完となります。


 主に魔法芸術によるシェリのトラウマの治癒に焦点を当てた章となりましたが、みなさまの感想はいかがでしたでしょうか?


 応援コメントや☆☆☆レビューなどで、みなさまの感想等を文章にして教えてくださると、とても嬉しいです。


 また、気に入っていただけた方には、ぜひ応援の意味を込めて☆☆☆のところをポチポチと押していっていただければと思います。


 正直に言えば、現在他作品の方が人気が出ている状況ですので、このままですと本作の続きの執筆は後回しになりそうです。


 ですが、熱い思いの篭もった感想などをいただけると、その順番が変わる事もあるかもしれません。


 なにとぞ、応援よろしくお願いいたします。

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元最強の魔法兵が、前世で病みまくった少女達の心を『魔法芸術』で救います 火水赤鳳 @himizutoruku

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