第4話
「すげ~…」
「ほら。行くよ」
俺たちは船旅を終えて惑星エウロパに来ていた。
なんだかんだ軍属の時は惑星まで降りずに宇宙港で過ごしていたため、久方ぶりの地上に少々テンションが上がっていた。
惑星エウロパは前線に近い位置にありながら農業が盛んであり前線の補給を支える重要な拠点と言える。そのため、軌道上には要塞やいくつもの艦隊が待機している。
俺は観光をほどほどに師匠に付いて行き、明らかに高級なホテルの門をくぐる。師匠は身分証を提示し、腕に巻き付けた端末でピピっと操作していた。
「はい。これサブのカードキーね」
「ありがとうございます師匠」
俺たちはそのまま部屋に向かい、荷物を下ろして一息つく。
「師匠今後の予定は?」
「いつも通り訓練もするんだけど、周期的にガイジュの大規模侵攻があると思うからそれのお手伝いかな。あっそうだ!」
師匠は何かを思い出したようだ。
「武器は私のサブがあるからいいんだけど鎧買わないとね!」
そんなこんなで星騎士御用達の鎧メーカーであるヴァルカン・インダストリーの惑星エウロパ支店を訪れていた。
「ようこそおいで下さいましたアトリア様。私エウロパ支店の店長をしておりますへパイストスと申します。なんなりとお申し付けください」
「今日は弟子の鎧を買おうと思ってね」
「なるほど。お弟子様のですね。かしこまりました。まず採寸から始めましょう」
店長の目が獲物を見つけた肉食獣のような感じがしたのは気のせいだろうか?
「さすがは騎士様ですね。若いのに鍛えられてるのがよくわかります」
俺は体をべたべたと触られながら採寸をされる。なんか他人にこう体をべたべたとされるとむずがゆいよな。
「ハァ…ハァ…素晴らしい肉体美」
なんか店長がハァハァしており、思わずゾッとした俺は店長の手を振り切った。
おい。残念そうにするな。
「このぐらいで採寸は十分でしょう?」
「えぇ…それでは商品の方にご案内します」
俺はそのまま展示品のスペースに案内されてショーケースに収められた鎧の数々を眺める。ちなみに師匠は鎧の点検や補修があるとかで席を外している。
様々な鎧が並ぶなかで目を引く鎧があった。
普通のはつや消しされた灰色のカラーが多いのだが、この鎧は黒光りしており男心をくすぐるデザインをしている。
「お気に召しましたか?」
「あぁ…いいですねこれ」
店長は眼鏡を掛けなおし、真剣な面持ちに変わる。
「お客様お目が高い。こちらの商品は2世代前のウィガールという商品なのですが、これはそれの近代化改修モデルです」
「へぇ。買い替えれば良いと思うんですが、近代化改修とかするんですね」
星騎士は金も持ってるし、買い替えるお金なんていくらでもあるように思えるが、どうやらそれは違うらしい。
「買い替えれば良いという話ではないんですよ。星騎士様は使い慣れた装備のほうが好まれる方が多いのです。ですが、やはり技術の進歩による格差は存在しますので、使い心地を損なわない程度に改修を加えたモデルがこちらとなります。頑丈ですし、ベテランの星騎士様たちからも人気の商品です。初期の設計から改修を前提としていたので最新モデルと比べても遜色ないと自負しております」
ヘンな店長だけど営業は抜群らしい。
「決まった?」
店長の営業トークを聞いてると、いつの間にか師匠が来ており、俺の横から鎧を眺める。
「ウィガールの近代化改修モデルか。これにする?」
「はい師匠」
「おっけー。じゃあ支払いはこれで」
「お買い上げありがとうございます」
師匠は支払いの手続きをパパっと済ませると、店を出た。
鎧は俺の採寸したサイズに合わせて調節するので後日届くことになるらしい。
届くのが楽しみだ。
「さて。用事も済んだし訓練いこうか」
まぁそんな気はしてました。
いつも通りの体力錬成も終え、模擬戦もつつがなくこなす。
軍隊のころも訓練をしていたが、連携訓練など兵隊としてのシチュエーションの訓練が多く、肉体的なトレーニングは少なかった。まぁ筋トレなんてしなくても一般兵士よりフィジカルが優れているから必要性もあまり感じなかったってのもあるが、ここ最近のトレーニングで筋肉がついてきてるのが分かる。
こういった筋トレのように効果を実感できるのもあれば、未だ成果を出していない訓練もある。超能力の訓練だ。
「う~ん」
俺はうなりながら両手に紙粘土を載せ、紙と水に分けようと努力するがうまいこといかない。
未だに分解と構築という2つの能力を分けて行使することが難しい。
師匠も基本能力は一人一つだから分けて使うなんてことは教えようがないらしく、俺一人でなんとかしないといけないようだ。
「なかなか思うようにいかないね」
「すいません師匠」
「いいよいいよ私も何かアドバイスできるわけでもないし、気長にやろう」
そういって師匠は近くの椅子に腰かけ雑誌を開く。
雑誌は鎧関係のカタログみたいなもので、獅子を彷彿とさせる鎧が表紙を飾っている。なんかデジャブを感じ、この違和感がなんだったのかと考える。
思い出したのは前世のころに見たロボットアニメだ。
久々に思い出した前世の記憶に懐かしさを覚える。
俺はふともう1つのことを思い出す。
そういや、そのアニメは右手と左手が別の能力になって、それを1つにすることで破壊力を生んでいた。
ならば。
逆のことをすれば、2つに分けれるのでは?
俺は、紙粘土を両手に取り超能力を駆使しながら紙粘土を引き裂くようにしてそれぞれ片手で持つ。
左手には乾燥した紙粘土の素材と水が。右手には剣の形に構築された紙粘土が。
「やった…やっとできた!」
1つを2つにすることで出来たが。あとは練習してこの感覚を掴んでいくだけだ。
「お!すごいじゃん!おめでとう。どうやったの?」
師匠は俺の頭を撫でながら質問する。前世のことはまだ言う勇気はないので、1つを2つにし、左手と右手に分けるように考えながらやったらうまくいった。ということを説明すると師匠も納得していた。
「なるほどねぇ。左手と右手で別々の能力か。確かに2つ持ちだからこそできることだね」
俺はできたことをすごい嬉しかったが、どっちかというと安堵した感じが強かった。正直、なかなか成果の出ない超能力の訓練で本当に2つもあるのか?と疑ったときもあった。
だからこそ、師匠の勘は正しかったことを証明できて安堵している。
だが、師匠は何気ない顔で。
「ふむ…じゃあ、なにができるか把握していこうか!」
そんな気はしてました。
まぁなにができるかを把握するのも自分自身のためにもなるんだが
俺はその後、師匠の好奇心を満たすためいろんな実験を行った。
消耗品は星巡る騎士となる。 @highvall
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