第3話

師匠に拾われ訓練を初めて2週間近く立った。

訓練ルームにて金属のぶつかる甲高い音が響く。

弾かれた剣は空高く飛びカランと音を立て地面に転がる。俺は疲労から地面に座り込む。


「師匠…いくらなんでも強すぎでしょ」


俺は超能力禁止の純粋なフィジカルと剣術のみで修練している。師匠曰く、超能力に頼り切った星騎士は大成しないとのことだ。


「まぁね。これでも剣術だけならトップ10に入る自負はあるよ」

「師匠より強い騎士がまだいるのか…」


まぁ研究所で訓練を受けていないから足元に及ばないのは納得できるが、あまりの技量の差に追いつけるか不安になってくる。

そんな俺を他所に、師匠は唇に人差し指を当て考え込む。


「私より剣術のみで強いっていうと、明確なのは秩序の騎士シリウスと運命の騎士アヴィオールかな」

「秩序の騎士シリウスって…この前会ったあの人ですか?」

「そうだよ~シリウス君はねぇ超能力が制限を掛ける系だからね。私は解除できるから相性いいけど並の星騎士なら超能力封じられて何もできずに負けるね。多くのガイジュの人型個体も討伐してるし」


あの人そんなすごい星騎士だったのか…。

超能力を封じ込めるからこそ俺の処遇を決める場に彼がいたということか。

師匠が引き取ってくれたのに未だ彼らに並ぶビジョンが見えてこない。


「イザール君はまだまだだけど伸びしろはあるし、これからだよ!」


師匠なりの慰めがありがたい。

やっと掴んだチャンスなんだ。落ち込むより前を向くしかない。


「ありがとうございます師匠」

「うんうん。さてもう1試合いこうか」


俺は模擬剣を拾って立ち上がる。

改めて師匠を正面から見据える。身体能力はお互い強化されてるし差はないが、圧倒的な経験や技術から来る差が依然として立ちはだかる。

立ってるだけで勝てないと分かるレベルだ。思わず冷や汗が流れる。


「どうしたの?かかっておいで」

「…胸を借ります師匠」


俺は剣を握りしめ、ぐっと踏み出す。

俺は瞬く間に、距離を詰め上段から振り下ろすが師匠は難なく模擬剣を上に掲げ受け止める。俺はそのまま力を込め、押し込もうとするが師匠はふっと力を抜くと剣は流されるように横に逸れる。

俺の剣は師匠の横を通り過ぎ、師匠は手首を回し俺の上体目掛けて剣を振るう。


防御は間に合わない。

即座に判断した俺は上体を大きく逸らすことで、剣を躱し俺は両手に力を入れ下から切り上げる。

師匠はそれを受けることはなく、後ろにステップを踏むことで避ける。


俺はすぐさま体勢を立て直し、地面を蹴り突きを放つ。

師匠は俺の突きを防ぐでもなく、上体を逸らし剣を握ってない手で地面を着く。

バク転の要領で師匠の足が俺の顎を蹴り上げた。


・・・


「あ。起きた?」

「…すいません師匠。また気絶しちゃったみたいです」


いや、まじで強すぎるだろ。

なんだよ至近距離の突きを回避しつつバク転みたいな感じで蹴りって…。人間の動きじゃないだろ。強化人間だからこそできる芸当だ。

俺はヒリヒリと痛む顎をさすっていると、手が伸ばされる。


「ちょっと用事があるから訓練切り上げて行こうか」

「はい師匠」


俺は手を取り起き上がる。

訓練の汗を洗い流し普段着に着替え、戻るとすでに師匠が待っていた。

ちなみに師匠は俺との訓練で汗1つ流していない。


「お待たせしました師匠」

「いいよいいよ。さぁ行こうか」


俺は師匠に連れられ、気づいたら宇宙港にいた。


「ちょっと用事…って聞いたんですが」

「あれ?言ってなかったけ?訓練も兼ねて別の星系に行こうと思ってね」


聞いてないんですけど…。

なんか2週間ぐらい訓練を通して、なんとなく師匠の人となりが分かってきた。

この人は自由すぎる。

まぁその自由奔放さで助かった身としては苦労する面もあったが感謝しかない。


結局出航までVIP用のロビーで過ごし、出航することになった。星騎士は軍の艦隊に同行することもできるがこうやって民間の船を使うこともできる。その際、VIP待遇を受けられるのは星騎士の特権だ。

ちなみにドリンクを貰ったが、この世界に生まれ来てから一番おいしかった。研究所や軍隊ではどうしても栄養さえあればいいだろという味気ないものばかりだったから、久方ぶりのちゃんとした飲み物に思わず涙が出そうになった。


VIP待遇を堪能する時間は長くなく、出航し船の中からカストロステーションを眺める。軍隊のころはあちこち行っていたから長く滞在したのは初めてのことだった。思い出は…ないな。訓練でへとへとになった思いでしかない。


そういや訓練もなしで師匠と過ごすのはあまりない経験だ。寝るときはもちろん別だし、ご飯はゼリーみたいなレーションを流し込むだけですぐ終わるから会話とかはあまりなかった。この際に聞けることは聞いておきたい。


「あの…師匠」

「ん?」


師匠との関係が終わるかもと不安がよぎるが、どうしても聞いておきたいことがあった。


「なぜ。俺を引き取ってくれたんですか?超能力に興味があるって言っても、それだけじゃ理由として弱い気がして」

「あぁ~理由は2つあるんだけど…ひとつは君の瞳に惹かれたことかな?」

「もうひとつは?」


そう聞くと師匠はなんか恥ずかしそうに頭を搔く。


「その…私には弟がいたんだけど…似てたからほっとけなかったんだ」


え?そんな理由?そんな理由というと失礼な気がするが、もっとなんか才能を感じるとかそういう理由じゃないのか。聞き返そうにも弟がいたって過去形で言われると聞き返せない。


「なるほど…ありがとうございます師匠」


理由が分かって少し安心した。

まぁ折角の訓練オフだし、師匠と会話を広げてみよう。


「そういや。師匠は運命の騎士レグルスと対決したことがあるんですか?」


師匠が自分より明確に剣術で上なのは秩序の騎士シリウスと運命の騎士レグルスと言っていた。つまり運命の騎士レグルスと対決したことがあるということだろう。

ちなみに運命の騎士レグルスは誰もが知る有名な星騎士だ。

かのテルミヌスの奇跡と呼ばれる初めて星騎士が実戦投入された戦い。その戦いの勝利の立役者だ。非公式ながら星騎士ランキングという雑誌で不動の一位を守り抜いている。


「レグルス君ね。彼は能力が常時発動型だから厳密に超能力抜きってのは難しいんだけど、機会があって対決したんだけどシンプルに剣の技量で負けちゃった」

「師匠よりも技量で上なんですね」

「悔しいけどその通りだね」


師匠よりも上って…どんな化け物なんだ。


「ちなみに運命の騎士レグルスの超能力はなんなんですか?」


なんとなく気になったので質問してみる。星騎士ランキング本には○○の騎士という二つ名と名前などが載っているが、超能力がなんなんのかは載っている人と載ってない人は結構バラバラで運命の騎士レグルスは後者だ。


「そのまま運命っていう能力なんだけど、これがまた強くてね~。なんというか。例えば間一髪のところで援軍が間に合ったり、吹き飛ばされた先に落とした剣を見つけたりと。瀕死でも息を吹き返したり死ぬ定めではないっていうのかな?」


なにそれ主人公補正ってやつやん。それで師匠を剣術で上回るって、この世界が漫画とか作品の中なら絶対主人公やん。


「でもレグルス君ね。めっちゃ強いけどめっちゃいいやつだから、会ってみたら稽古つけてもらうといいよ」

「師匠がいれば俺には十分ですよ」


実際、主人公っぽいやつに近づくと主人公は死ななくても周りが巻き込まれそうで怖いんだよな。そう思っての発現だったが、師匠を見るとにんまりしている。


「ふふ。嬉しいこというやつめ」


師匠はその華奢な手で俺の頭をなで繰り回す。

俺が16歳で師匠が20代前半だと思うから、そんな離れてはないと思うし前世も含めれば俺の方が年上のはずなので気恥ずかしい。

まぁでも師匠の好きなようにさせるのも弟子の務め。

少しばかり心地よさを感じながら師匠のなすがままにされるのだった。

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