第2話

「おう目を覚ましたか」

「…ここは?」

「カストルステーションの医務室だよ」


俺は付近を見渡し、生きてることを実感する。

今回ばかりは本当に死ぬかと思った…。

うちの部隊のまとめ役の男はよいしょと掛け声と共に椅子から立ち上がる。


「ちょっくら上役に報告してくるわ」

「わかりました」


俺は上体を起こそうとすると、激しい痛みが体を襲う。

あまりの痛みに起きることを断念し、手を少しだけ天井に掲げる。

くそみたいな研究所で改造されたこの体だが、強化人間だからこそ生き残れた。その点だけは感謝しないとな。まぁとりあえずこの怪我だし任務は当分免除だろ。ゆっくりするか。

そんな呑気なことを考えていた時期が俺にもありました。


そうだった。俺は強化人間で、この世界は宇宙を股にかける前世よりも発展した文明なのだ。医療技術だって優れている。俺の体は2日のうちの治癒し出頭を命じられた。


「イザール一等兵。入室します」

「許可する」


俺は部屋に入り、敬礼し足を肩幅に開き両手を後ろに回す。

部屋には俺とモニターで見ていた指揮官。そして見たことない帯剣をした男が立っていた。

帯剣しているし星騎士か?もしかして、あの時助けてくれた星騎士かもしれない。そう思うと感謝の言葉を言うべきだが、上官の手前勝手に口を開くことはできない。


「作戦経過の報告書を見させてもらった。貴官には戦略物資であるオリハルコン横領の疑いがかけられている」


どういうことだ?あの状況で生き残るために最善を尽くしたつもりなのだ。それがどうしてこうなった?

だが怒っても仕方ない。ちらりと帯剣した男を見るが彼は興味なさそうにしている。

俺の命は吹けば飛ぶようなものだから丁寧に対応しなければ…。


「申し訳ありません閣下。意図が理解できず説明していただいてもよろしいでしょうか?」

「そうだな…。貴官も驚いていることだろう説明するとしよう」


こほんと咳をつき、上官は手元の資料を持ち上げ説明を始める。


「まず。これだけは言っておこう私個人の意見としては貴官の状況は情状酌量の余地があると判断しているが、これは法律の問題なのだ。オリハルコンには星騎士以外の個人の私的利用を禁ずるとあるのだ。まぁオリハルコン自体、希少な金属だ。かつては、それを横領し私腹を肥やしていた者たちもいるほどだからこの法律自体は妥当といえる。だが、それが今回貴官の私的利用をしたのでは?というのが上のお考えでね」


そこでちらりと上官は横の星騎士を見やる。

なるほど。彼がその上からのお目付け役か。

まさかオリハルコンを使って戦闘していたのが良くなかったのか…でも、支給された装備ではあの局面は打開できなかった。オリハルコンを持ち帰れば多少のお目こぼしがあったのかもしれないが、最後の触手につかまれ叩きつけられた場面でバックパックや手元のオリハルコンソードはどっかに行ってしまった。


そこで初めて星騎士の男は口を開いた。


「本来オリハルコンの横領は大罪です。貴官には囚人惑星での採掘するという選択肢もありますが、騎士団の方からの提案があります。貴官には戦闘のセンスがあるようなので研究所で再教育を受けるという道もあります」


どっちも地獄じゃねーか!

研究所で再教育なんて地獄も地獄だ。どうする?なにか他に手はないのか?

ちらりと上官に目線をやると上官もあきらめたように頭を横に振る。

くそ!せっかく生き残ったのにどっちも嫌すぎる…。


「さぁ選択してください」

「ちょっと待ったーー!!」


バンと大きな音ともに開かれた扉から一人の女性が入ってくる。

金髪のポニーテールにエメラルドの瞳。すらりとした体型に腰には剣を下げている。

思わず全員が驚き、全員が女性を見つめる。

注目されているにも関わず女性は自慢げな顔をしていた。


「ふふん。言ってみたかったんだこのセリフ」

「…なんのようですか?彷徨う騎士アトリア」

「私が助けた少年が、どうもひどい目に遭いそうだったから引き取りに来たんだよ。いいよね?秩序の騎士シリウス君?」


秩序の騎士は苦虫を嚙み潰した顔をしている。

ひとしきり睨んだ後、諦めたように溜息をついた。


「…はぁ。上にはいいように言っておきます」

「おぉ?今日はずいぶんと物分かりがいいねシリウス君」


アトリアと呼ばれた騎士は飄々とした様子だ。

なんか俺の処遇なにも俺の意見聞かれずに決まろうとしてない?


「あなたには何言っても無駄でしょう。私も上の命令とは言え、彼の境遇には同情していますよ。あなたの名前を出せば上も強くは言えないでしょうしね」

「なるほどな~。君との誼だ。好きなだけ私の名前つかっちゃって!」

「えぇ。言われなくとも。さて用件が済んだようならお引き取りを。私は上に報告しなくてはならないので」

「つれないなぁ~まぁいいや。じゃあ行こうか」


俺はわけのわからないまま茫然としている。

そう言ってアトリアは俺の手を掴み部屋を出ていこうとする。


「あ。イザール君。少々お待ちを」


シリウスに呼び止められて俺は振り返る。なにやら彼の顔から憐みの感情すら感じられるのは気のせいだろうか?


「大変だと思いますが。君に星の加護と武運を祈っています」

「…ありがとうございます。シリウス騎士様」


俺は一応窮地を脱したようだ…。まさかこれから地獄が待ってたりしないよな?



・・・・・・・



俺は部屋を出て、まず騎士アトリアにお礼を述べる。


「あの時助けていただいた騎士様ですよね?命の恩人でありながらお礼が遅れてすいません改めて、命を救っていただきありがとうございます」

「ん?いいよいいよ~。たまたま通りかかっただけだし、君に興味があったからさ」


確かに。本来星騎士が投入される作戦ではなかったのにアトリアは来た。そしてなにより研究所を卒業できなかった俺に興味を持つ?

頭に?マークを浮かべている俺を他所にアトリアはついておいでと俺を引っ張る。


10分もして着いたのは研究所で飽きるほど見た真っ白の訓練ルームだ。

アトリアは、はいと俺にオリハルコンの塊を渡す。


「これで能力使ってみて」


俺さっきこれで酷い目に遭いそうになったんですけど…。

死んだ魚の目をしている俺を他所にアトリアは興味深そうに見つめる。

どっちにしろ。俺にたぶん拒否権はないんだろうな。

俺と大人しく「変形」の能力を行使し、ロングソードを形成する。


「ほぉ~やはりおもしろいな君」

「まぁ…珍しいのかもしれませんが、変形なんてあんまり戦闘じゃ役に立ちませんよ」


鉱夫としての適性はあったが、戦闘においてはただの時間稼ぎや階段を作る便利な能力程度でしかなかった。こんな能力がなぜ興味を引いたのだろうか?

俺が疑問に思っているとアトリアも不思議そうな顔をしている。


「ん?君の能力はたぶん変形じゃないよ?」

「…どういうことですか?」

「まぁこれは感覚的な話にはなるんだけど、私の本能というか勘で分かったんだけど君の超能力は2つある。2つが作用した結果として変形という事象が残っただけだね。超能力は基本1つなのに2つ持ちは初めて見るな~」


やばい頭の理解が追い付かない。マイナスとマイナスをかけ合わせた結果プラスになったみたいな?いや、よくわからん頭が混乱している。


「う~ん。たぶん気づかないうちに変形って名付けたからひとつみたいになったのかな?」

「超能力に名付けなんて初めて聞いたんですけど…」

「難しい話は私もよくわかんないんだけど、自分の超能力がどういうものかを理解しイメージすることが重要なんだよね。イメージを補完するために定義づけというか名前を付けるんだよ」

「なるほど…アトリア騎士様の超能力はなんなのですか?」

「言いにくいでしょアトリア騎士様って。君の身元を引き受けたわけだし…そうだなお姉ちゃんか師匠どっちがいい?」


そう提案してくるアトリアは面白そうに微笑んでいる。「師匠で…」と言うとつまんなさそーな顔をしていた。


「そうそう私の能力ね『自由』って名付けしてる」


なんか言ってること違うくないですか?さっきイメージを補完するためって言ってたのに、なんか自由ってめっちゃふわふわしてない?

俺の困惑した表情を見て、師匠は得意げな顔をしている。


「ふっふっふ。みんな私の能力を聞くと同じ顔をするんだよね。でも私の場合、こういうほうが合ってるんだよ。例えばほら」


そう言って師匠は目を瞑ると、その体が宙を浮いた。

別にこの訓練ルームが無重力化になったわけではないし俺の足は地についてる。

これは有名な念動力の類か?


「重力という縛りから『自由』になった。他にはこういうこともできる」


師匠は帯剣していた剣を抜き、宙に投げる。

宙を漂う剣は落下することなく漂い、師匠が人差し指を振るとそれに合わせて剣も自由自在に宙を舞う。

その幻想的な光景に俺は目を奪われていた。

(すげー!ファンネルだ!)


「師匠すごいです」

「そうでしょそうでしょ」

「結局俺の能力はなんなんでしょう…」


そういうと、そうだったそうだったと言い師匠は剣を鞘に戻し地面に降りてきた。


「あんまりこういうのは自分で気づいて名付けることが大事だったりするんだけど、君の場合はちょっと手解きしたほうがいいね。私も感覚的に捉えてるからなんとなくなんだけど…たぶん『分解』と『構築』ってとこかな?」

「『分解』と『構築』」


それが俺の能力なのか。


「初めて見るよ2つ持ちなうえに相反するような能力だし。魂が2個あるのかな?って感じだね~。まぁこれから私が鍛えていくし個別で『分解』と『構築』を扱えるようになっていこうね」


魂が2個か…もしかして前世の関係なのだろうか?詳しいことは分からないが、今は自分が進む道がやっと見えたのだ。今はこの道を邁進するしかない。


「はい師匠。精進いたします」


俺は覚悟を持って、真剣に答える。

それを見て師匠も満足げに頷く。


「よし。じゃあとりあえずこの訓練ルーム4時間ダッシュしようか。その後各種筋トレを100セットぐらい」


え?普通に超能力の訓練するんだと思いますやん。


「星騎士は超能力の前に体が一番!さぁいこう」


厳しい体力訓練をやり終えた俺は二度目の気絶をしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る