第二話「他者紹介」
異能。
それは、世界にいるただ26(単位はややこしいので無視。稀にだが人間以外にもある時があるからな)だけが使える能力のことだ。そいつらには名前――というかコードネームみたいなもんがつけられてる。うち22にはタロットカードの大アルカナの名前が、【愚者】、【魔術師】、と言った具合につけられていて、残りの4にはアルファベット一文字が順々に当てられる。今いるのは【A】、【J】、【Q】、【K】の4人(全員一応人間と聞いている。バケモンみたいな奴らだけど)だ。
序列も何もなく、本人に自覚がないことも多いことから、特に横同士で繋がりはない。実際、俺が知っているのはそのほとんどが【隠者】の紹介によるもので、それ以外で知っているのは二人だけだ。
そんで、もうお察しの通りではあるけれどもその二人とは、天野劔と水無月牡丹だ。もっとも、劔はそれに無自覚だが。本当にどうしてこうも固まってんだろうな。俺の方が聞きてえよ。
ついでに、ほんとのほんとについでに、二人と俺の異能についても触っておこう。
まずは、牡丹についてから。水無月牡丹は、【戦車】の異能にとり憑かれた女だ。正直、この点に関してだけは、あの女に同情しないでもない。
彼女の異能は、その異端で異質で特異な力は、本来彼女のものではない。では誰のかというのをあいつは頑なに何言おうとしないから、俺は誰のものなのかは知らないけど。なので、彼女の異能について話そうと思う。
あいつの異能は言うなれば「抵抗の増幅」で、どんなものでも(例えば空気抵抗のような物理的なものから、心理的抵抗や軍全体の抵抗力といった概念的なものまで。本当になんでもござれだ)抵抗するものなら増幅可能だ。本人曰く、そもそも抵抗しないもの、つまり抵抗0のものには無力らしい。そうはいっても、大概のものには有力で、有り体に言ってかなり強い。
ここまで聞いただけならば、大半の人間が、すげぇ、俺も欲しい、って感じだろう。俺だって劔をへとへとにさせる為に何度この能力を欲したことか。しかしそんなオイシイ話はこの世にはなく、この能力には重大な欠陥がある。
まず、本人の制御がほとんど効かない。そして、本人の意思で強めることもできるが、それはあくまで「強化」や「増幅」であるということで、基本的に周囲のものに勝手に働きかけるらしい。
だから、こいつの周りにいるだけで、こいつの決めた抵抗する力は勝手に増幅される。例えばこいつが「空気抵抗」を対象としたのなら、周りの物体の落下は遅くなり、動くのに使うエネルギーが増大するから疲れやすくなる。
「正直、対象物が1つという制限がなかったら、君も彼女もすでに死んでいるだろうよ」とは【隠者】の言。
では、あの女の忌まわしき異能のことは一旦さておき、もう一人の俺の幼馴染について話そう。
天野劔。彼女は先天的な【愚者】の異能力者で、その能力は、「任意の対象が持つ、物や人への好感度がわかる」こと。聞いた時は驚いたぜ。なんじゃそりゃ、そんなんが何んなるんだよ、ふざけんな。そんな文句が出るくらいには、彼女の異能は複雑で難解で、そして凄まじく末恐ろしい。
より正確に言うなら、「任意の対象」は、考えられるものならペンでも、雑草でも、俺でも、海の向こうにいる国の首相でも、なんだって構わないし、能力保持や発動に際するデメリットもない。
強いて挙げるなら、自身が一定の好感度を持つものにしか使えないと言う点だが、それも圧倒的にマイナスではない限り有効だ。この前、ゴキブリで検証してみた時は、なんと成功した。何だったら無理なんだろうか。一生研究に時間をかければ見つかりそうだが、俺には無理な話だ。こいつにはもっといい奴がいるはずだし。彼氏はいねーらしいんだが。できたらオハナシしてみたいな。ウフフ(笑顔)。
おっと、忘れていた。こいつの能力についての自由度は、あの【A】ですら瞠目に値するレベルで、テストなんかでも選択問題なら「雰囲気」で満点。一問一答も単語群を覚えてさえいれば、あとは当てこみで百発百中。ズルっつーかもうバグだろこれ。
一応原理としては、設問が持つ各選択肢への好感度を比べているらしいが、知るかそんなもん。惜しむらくは、こいつは極度のバカで記述題に対応しきれないことだな。当人の問題とはいえ、勿体無さを感じずには居られない。あいつの成績なら国立医学部も夢じゃねえのに、「将来の夢は専業主婦」なんて言い張って聞かねえからな。
とまあ、こんなとこであいつらの事は終わりにして、俺も俺のことを話し始めるとしよう。
かつて
和解したら終わりのラブコメ 筆名 @LessonFine
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