愚か者の章
第一話「少しくらいの本当の奇跡」
結局、俺はあのあと悶絶死を繰り返していたおかげで、朝食(我が家では牡丹が食事を作っている。両親の意思に反しているようで罪悪感が凄いが、俺は悪くないので知らん)は弁当に突っ込まれ、俺は空腹のままシャツを着てバカみたいに暑い外へ出た。
なんだかんだこうして二人で暮らしていて、牡丹を怒らせるとこうなるってのが分かってきてると思ってたんだがな。…………。腹、減ったな……。しかし……
「あいつ、今日もまだ来てねーんか。昨日二時くらいまでゲームするつってたもんな……」
密かに(誰に密かになるのかは未定。これでお察しだろうが、牡丹も俺と同じクラス)早弁を企てながら、待人を置いて行ってやろうかと画策する。結局五分くらい遅れて、対照的にひどく眠そうな顔で、そいつは通りから顔を出した。本当にいつも驚かされるが、こいつくらい小柄だとチャリも通れなさそうな道を平気で通って来やがる。恐るべき奴だ。ちなみに俺はというと、朝にはやはり弱いが今朝の一件があるのでキマっている。
「これはこれは、大賢者様。おはようございます。禁断の書は手に入りましたか?」
すると、目の前の小柄な体躯をした少女――
「禁断の書は無事ゲットしたよ。でもね、その後に調子こいてガチャ禁解放して爆死し……ああっと! これはこれは誰かと思えば、幻の帰宅困難少女を捕まえた挙句、己が家に引き摺り込んで、それを幼馴染の私に黙ってたことの言い訳として『いや、こいつも俺の幼馴染で、彼女だから』とかほざきやがった強くんじゃないですかー。どうもご機嫌麗しゅう」
「いや、あのさ……煽ったんは俺だが、まさか本当に一週間もご近所さんからの白眼視に耐えてやりきるとは思ってなかったんだがそれは」
「バカ言ってんじゃあねえぜ。強を愛してやまないツルギちゃん(??歳)にかかれば、このくらいの恥はかき捨てだ。キリッ」
「バカ言ってんのはお前だ。俺もお前を愛してるぜ。なぜ妙齢を装った。無駄にかっこいいなお前。『キリッ』を使うな鬱陶しい」
「おっと、反応が薄いな。こんなに反応が薄いのは、友達に『神のまにまにと、カニのマカロニって似てるよね?』って話した時以来だよ。これは今朝ドタバタ劇があって、そこで水無月さんの御へその代価として払った××××が痛んでいると見た」
「ハッハッハハハハハ。そんなわけねえだろ。おまえって、ほんとバカ」
「つよしー!」
「おいやめろ俺のソウルジェムは曇りなき白だ。お前の今日のパンツのように」
「ご嬢姦を」
「ほんっとにやめろマジで! 意味わからんのにいかがわしい匂いがプンプンするから! よーし、わかった。すいませんごめんなさいエロで立ち向かった俺が愚かでしたいつもの天真爛漫な劔を返してください」
「えっ、そっ、そんな、
「もういいや。せいぜい独りでやってろ」
心底くだらないこの会話を続けたいのは山々だが、その前に情報整理をしなくちゃな。
詳しいことは省くが、まず、俺とこの馬鹿は小学校からの付き合いだ。
そんでもって、俺は劔のことは、一生をかけて愛でようと思っているくらいには好きだ。うん、間違いなく。おいそこ、キモいとか言ってんじゃあねえぜ。これが愛ってもんだろ。
そして凄まじく気が進まないが、こいつが言ってる「俺の幼馴染」云々についても、ここで軽くだけ触れておくことにしよう。
本当のところ、俺と牡丹は同じ幼稚園に通っていた、ただのそれだけだ。別に特別仲が良かったわけでなし、結婚の約束をしていたでなし、引っ越しがあったでなし。再会を約束したでなし。せいぜい一日に二回会話を交わす程度だ。
それなのに、「幼馴染」だ「彼女」だと騙っているのにはちゃんとした訳がある。
けどまあ、信じてくれる奴は滅多にいねえわな。俺たちは異能力者だ、なんてファンタジーじみた現実は。
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