第11話
「殺す?何言ってるの⁉街の中では戦闘禁止なのはあなたも知ってるでしょ!」
剣を抜いた男に対して、テナがそう叫んだ。
「それくらい知ってるさ」
あたりまえだろうという表情で男は「だから」とアリーザの方に剣先を向ける。
「お前、俺と決闘で勝負しろ。俺が勝ったらそのホワイトウルフを置いていけ!」
「決闘?戦闘はできないんじゃないの?」
アリーザの疑問にテナがこたえる。
「決闘は普通の戦闘とは違ってプレイヤー同士の合意の上で行われるものだからさっき言った戦闘禁止のルールには引っかからないよ」
「でもそれなら別に受ける必要はないよね」
「そうだけど多分あの人、断ったら街の外で襲い掛かってくるよ」
二人の話に男はあはははと口元に笑みを浮かべてアリーザの方を挑発的に見つめる。
「決闘のこともよく知らないし何よりその装備、もしかしてお前、初心者か?俺だって初心者相手に全力出すほど大人げなくはないさ。おとなしくそいつを置いていくのならそれ以上何もしないと約束してやってもいいぜ!」
「いいよ」
「あ?」
「だからその決闘をうけるっていってるの。ただし、私が勝ったらこれ以上何もしない。それでいい?」
思いのほかあっさりと受けたアリーザに一瞬面を食らいはしたものの、すぐに再び笑みを浮かべる。
「ほーう、いいんだな。言っとくが俺はすでに第二界まで進んだんだ。それでも勝てる気でいるのか?」
「あたりまえじゃん。だって君、全く強くなさそうだもん」
あまりにも余裕を見せているアリーザに対して、徐々に怒りがたまってきた男は顔を赤くし、ゲームであるにもかかわらず血管が浮き出そうになるほどに怒りをあらわにして叫ぶ。
「なめやがって、気が変わった!お前もぶっころしてやる」
『アノスから決戦の申請が来ました。同意しますか?』
アリーザは表示された画面に同意するを選択する。
『これより、アリーザ対アノスの決戦を開始します』
「ちょっとまって!決戦ってどういうこと⁉」
テナが驚きの声をあげるが、続く言葉を待たずに二人は光に包まれ、円形の闘技場のようなところへと転移させられた。
客席にあたるところには人の代わりに四角い画面が並んでおり、テナやホロウ、さらには周囲にいたほかのプレイヤーの姿が映っている。
(私たちだけが戦闘可能な別の場所に転移させられたってことかな)
そう思いながらアリーザは男の方を見た。
「さっき決戦がどうこうって言ってたけど、どういうこと?」
「簡単な話さ。決闘はHPがゼロになる前に終わるが、決戦はどちらかのHPがゼロになるまで戦うってことさ。さっき俺をなめたこと後悔させてやる!」
『戦闘開始!』
「『高速移動』!」
開始と同時にスキルによって加速したアノスは剣を振りかぶりながらアリーザへと切りかかる。
「『アクアスラッシュ』!」
水の斬撃がアリーザへと迫るが、アリーザは体をひねってそれをよける。
一撃で決める気でいたアノスはよけられたことに驚きながらもすぐさま後ろに下がって次の攻撃に転じようとする。
アノスの攻撃に客席からは「おお!!」という驚きの声が上がる。
しかしアリーザは全く違う反応を示していた。
(やっぱり遅いな。実力で言えばホワイトウルフの集落にいた長老たちの方が高そうだな。なによりこの程度の実力なら魔王軍の下級兵士にだって負けるだろうな)
倒そうと思えばいつでも倒すことができる。しかしアリーザはせっかくなので《白狼の主》の能力について試してみることにした。
アリーザは右足を後ろに下げる。
「『風脚』!」
アリーザは先ほどの『加速』以上のスピードでアノスへと迫る。
人によっては瞬間移動とすら思えるそのスピードにアノスは対応することができず、懐ががら空きになってしまう。
そこにアリーザは両手をひっかくようにしてアノスへと振りかざした。
アノスはとっさに剣で防ごうとするが間に合わず、攻撃は胴体に直撃してしまう。
「『狼爪』!」
「ぐは!!」
鋭い攻撃にアリーザ本人の攻撃力が加わり、そのままアノスの鎧を砕いた。
勢いそのままにアノスは闘技場の壁に衝突してしまう。
HPがみるみる減っていくアノスに対して、アリーザは反撃の隙も回復の隙も与えずに右手をかざした。
「『インフェルノレクイエム』」
赤と紫の炎がアノスを包み込む。
本来この攻撃は相手の魔力すらも燃やしてしまう攻撃なのだが、そもそもHPが残っていないアノスはそんなこと関係なくそのまま燃え尽きてしまう。
炎が消え去り、アリーザただ一人が闘技場に立っていた。
『そこまで!勝者アリーザ!!!』
「わーーーー!!!」という歓声が客席から響く。
それを聞きながら、アリーザは再び光に包まれて、気が付くと元居た場所へと戻っていた。
戻ってきたアリーザに抱き着くテナ。
「よかった」というテナに「大丈夫だよ」と笑いかけながら、アリーザは口を開いた。
「さっきの人はどうなったの?」
「決戦で死んじゃったから今頃神殿で復活しているんじゃないかな?死んじゃったからしばらくはステータスが下がっちゃうけどそのうち戻るから気にしなくていいよ」
テナの言葉に「本当によみがえるんだ」と小さく驚くアリーザにホロウが「それより!」と口を開いた。
「さっきのあれは何⁉『風脚』と『狼爪』はあたしたちホワイトウルフの技だよね!どうしてししょーが使えるの⁉」
「《白狼の主》の恩恵だよ。このジョブは仲間のホワイトウルフを強化するとともに、その仲間の能力を自分も使えるようになるみたいなんだ。だから私はホロウの能力で戦ったってことになるのかな?」
「いや、あたしはあんなに速く移動することも鎧を砕くこともできないし何よりあの追撃の魔法はあたしにはそもそも使えないよ。まぁ、ししょーがとんでもなく強いってことはわかったよ。あたしもししょーみたいになれるかな?」
「それはホロウしだいじゃないかな。でもあれくらいならきっとホロウにだってできるようになるよ」
周りの盛り上がりも落ち着いてきた。
そろそろギルド会館へ向かおうとしていた三人のところに、長い金髪を三つ編みにした青いラインの入った白い鎧を身に着けた男が「ちょっといいかな」と話しかけてきた。
「なに?あなたもなにかいちゃもんをつけに来たの?」
テナがジト目でそう聞き返す。
それに対して男は「違う違う」と慌てて首を振る。
「それなら私たちに何の用?」
「その前に名乗っておこう。僕はレウス。さっきのアノスとは知り合いでね。彼に代わって謝りに来たんだ。先ほどは本当にすまなかった」
「あの人は一体どうしてあんなこと言ってきたの?」
「それが、先日ホワイトウルフの群れに遭遇した時に敗北しちゃってね。どうやらその時、レアアイテムを失ってしまったみたいなんだ。その仕返しにホワイトウルフを探していたみたいなんだけどなかなか見つからないようでね」
「そんな理由でアリーザとホロウちゃんを殺そうとしたの⁉」
驚くテナに対してレウスは申し訳なさそうな顔をする。
「普段はそんなに悪い奴じゃないんだけどな。最近リアルでいろいろと忙しいみたいだからストレスがたまっていたんだろう。僕からもしっかりと言っておく。本当にすまなかった」
レウスは深々と頭を下げた。
「私としてはこれ以上何か言ってこないのならそれでいいよ。ホロウは?」
「ししょーがそれでいいならあたしも文句はないよ」
「てことだからさ。君が謝る必要はないよ」
「ありがとう。アリーザさん」
「アリーザでいいよ」
「なら僕のこともレウスと呼んでもらって構わない。ところで、この後どこに行こうとしていたんだい?」
「クエスト達成の報告をしにギルド会館へ行こうとしていたんだ」
「そうなのかい?ちょうど僕も予定があったから同行してもいいかな?」
「いいよ。二人もいいよね」
「うん」「いいよ」
こうして四人は一緒にギルド会館へと歩き始めた。
異世界魔王のゲーム攻略 月夜アカツキ @akatsuki0707
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