さびしい【プロット】

白雪ざくろ

プロット

『さびしい』   *…調整中の部分


夕日が朦朧と揺らぎながら。

咽返る湿度は僕を包んでいる。

躰はとうに干上がりカラカラ。

遠くでは、踏切の警報音が響いている。

歩く、歩く。


---


下駄箱で靴を履き替える

裏門に向かう

他に生徒はおらず、僕一人だけ

校舎を見上げれば、教室では生徒が工作をしていた

とある生徒がこちらに気が付き、怪訝そうに見てくる

僕はフイと目を逸らし学校を後にした

学校に隣接している幼稚園を通り過ぎる

(うちの学校の生徒はこの幼稚園出身の者が多いけど、僕は違う。)

幼稚園を素通りし少し歩くと、分岐路がある。

そこを右に曲がれば、踏切に続く道

踏切を渡ってすぐのところが隣町

道なりに沿って歩くと、田圃に出る

僕は、道なりに沿って真っ直ぐに歩いた

真っ直ぐに歩いた

簡素な住宅街

相当な年季が入った家がある。

住人のお爺さんが手間暇かけて手入れをした盆栽が置かれている。

古い一本の木が立派な住宅もある

住宅、住宅……。

道路の脇では用水路が流れている

この先の田圃に続いているのだろう

可も不可もない片田舎の風景

風に乗ってきたのだろうか

遠い遮断機の音が響いた

気がした


---


「つかれたー」

間の抜けたで我に帰る。

隣に目をくれると、並んで歩いていた化け物が渋い表情をしている。 

眉間に皺を寄せているが、口は逆三角の半開きでどうにも威厳に欠ける。

マジックペンでも書けそうな、雑な表情だと思った。

「かわいたー」

化け物は意味もなく、くねくねと全身を揺らしている。

謎の動きは川を表現しているのだろうか。

「水なら無いよ」

「うるおいは?」

「無いから期待するな」

その対応が無慈悲だと思ったのか、単に水分補給出来ない事に落胆したのか。

化け物は露骨に肩を落とした。

(と表現をしたものの、おそらくこいつに肩は無い)

「ひどいー」

蝉はやかましく鳴き続けている。


---


段々と住宅の数が減って、草木が増えてくる

「なんか、おはなし。してー」

化け物話しかけてくる

ここまで会話という会話をしてなかったから、そりゃあ会話もしたくなるか

最近の学校での出来事を話した


今僕が歩いている、裏門から出た道を帰る生徒の話

分岐路を曲がり踏切へ向かった生徒がいた

そちらの方向にある家はうちの小学校の通学圏外なので、生徒達の帰宅ルートではない

寄り道をしてはいけないと先生にも言われているし、集団下校だから抜け出すのも難しい

でも、お腹が痛いからその辺で……と適当な嘘をつき、抜け出した男子生徒が居たらしい

抜け出した後、いつまで経っても戻ってこないので、ちょっとした騒ぎになった

結局すぐに捕まってこっぴどく怒られたらしい


本当にお腹が危機的状況なら、この辺りなら民家を頼ろうという話になるはず

なんでそんな内容で抜け出せたのかというと


上級生B「そうだ、民家を頼ろう!」

男子生徒「駄目だ!!」

「それは俺のプライドが許さない……」

「男には、譲れないものがあるんです……!!」

上級生B「なにふざけたこと言って……」

上級生A「いいや、ここは彼等の意思を尊重するべきだ」

上級生B「……!」

上級生A「(プライドについて語る)」 

「形は違えど、君にだってそんな熱い想いがあるはず。わかるだろ?」

上級生B「わかり、ました……!」

「アンタの誇りを私は尊重する」

生徒「ありがとうございます!!!」


というアホみたいな経緯があったらしい

クラブの先輩の雑談を片耳で聞いていたので知った

先輩は「ちゃんと自分を持った子達だ。これから大物になるぞ」と何故か誇らしげだった

何故抜け出したかというと、「閉じた世界からの脱却。自我の目覚め」だそうだ


「いや、馬鹿だろ……」

「わー。きゃっきゃっ」

呆れる僕に対し、化け物楽しそう


「それにしても、誰ともすれ違わないな」

「ないー」


*僕が早退している話

低学年はとっくに下校している

中学年から上はクラブのためまだ下校時間じゃない


ここまで来ると住宅は無くなり、辺りは田んぼ

雑草や小石は多いけど、きちんと歩ける脇道がある


---


「かわいたー」

化け物がTシャツの裾を引っ張り、歩みを静止させる。

グッと力を溜めるようにしゃがんだ後、立ち上がりながら躰をくねくねさせる。

子供番組の体操か何かだろうか

「うる、おい」

「お前、またそれか……」

こんな下らない事で、ただでさえよれているTシャツの皺を増やさないで欲しい。

化け物は、自分に水を求めているのだと思った。

「僕に期待しているのだろうけど、残念ながら水は持ってない。

水筒を学校に忘れてしまったから。

でも、仮に僕が水を持っていたとしても、それに期待してはならないよ。」

必要だと思うなら、他人に期待せず用意をしておくべき。

こんな炎天下に水を持ってこないのは、こいつの怠慢。

水筒を忘れた僕が、道中で干上がったとしても、それも僕の怠慢。

化け物はいまいち理解していないようで、「んー」と首を傾げている。

「あめ、ふればいいのにー」

「その考えは駄目だよ。空模様は変わってはくれない。

何かを求めないこと。自分が落胆するだけだから」

「わー。おっとなー」

「いや……」

その言葉に僕は一瞬口を開きかけたが、すぐに飲み込んだ。

これ以上の言葉は自己満足だから。

けれど化け物が興味深そうに、真っ直ぐに瞳を覗き込んでくる。

結局続きを言うことにした。

「僕の考えが大人だっていうなら、それは違う

なぜなら、大人も子供も、本質は変わらないからだ」

「他者と触れ合い接する時、どんな人間も相手に自分を映し出している

他人は『自分の鏡』を相手に求めている

大人も子供も関係ない

鏡の心は何処へ行く?

誰も僕を見てくれはしない。誰も、誰も……」

何故だかわからないけれど、妙に感情的になりかけたので慌てて自制した。

言葉の最後のほうはすごく小さい声だったから、化け物には聞こえていないはず

「雨ね

かつては、僕も雨を望んでいたよ。けど、もうやめた。

何も現実が変わらないのなら、自分が変わるしかない」

化け物を見据えて一言

「だからお前も、勿論僕だってそうするんだ」

「さびしーい」

間の抜けた喋り方で、考える人のような仕草をする化け物

化け物は珍しく、感慨深そうに頷いてみせた。


---


青い稲が生い茂る田んぼの脇道を僕と化け物で歩き続ける

行動自体は何も変わらないのに、何故か化け物は上機嫌に見えた。

口はアヒルのような曲線を描いている。

「水はもういいのか?」

「いる。でも、うるおった」

全身をくねくねと揺らし歩く

僕はわざと化け物より遅く歩き、化け物の斜め後ろを陣取る

気づかれないようにコソコソとランドセルのポケットの奥底を漁る

500円玉が出てきた

学校への金銭の持ち込みは禁止されているけど、非常時のためにこっそり持ち歩いていたもの

これで缶ジュースか何かでも買ってやろうと思った

僕は現実主義なだけで、無慈悲な人間ではないのだ

でも、この辺りに自販機があった記憶はない

表門から出れば、すぐの場所に自販機があったのだけれど

変に期待を持たせても良くないから、見つかるまで黙っていることにした

このまま歩くと、風車へと続くサイクリングロードに出るはず

そこなら何か買ってやれるだろう

僕達は歩みを止めない

奇妙なまでに、道は何処までも真っ直ぐに続いていた


---


ランドセルが重い

炎天下の中歩き続けていたので、黒いランドセルの表面は熱を持っている

こういう時、違う色を買って欲しかったのになと強く思うが、こんな感情は意味のないものだと一蹴

それにしても、この田圃はめちゃくちゃ広い

僕の住んでいる町は農作が豊かなので、駅の傍や住宅街といった人の集まる場所を抜けると大抵田圃や畑になっている

とはいえ普通にスーパーも電車もある、所謂片田舎なので、ガチ田舎には劣る

でも農家の方もこれを維持するのは大変だろう

ため息交じりに呟く

「……つかれた」

「つかれた!」

呟いた途端、化け物がぬるりと勢いよく動き、僕の顔を覗き込んできた。

その目はキラキラに輝いていた。

僕は思わずたじろぎ、立ち止まる。

「やっぱり、なかま」

何を言っているんだ

僕にはこんな奇妙な存在との共通点は無い

「ねー、なんであるくの」

「家に帰るため」

「いえ?いきたいー。いく」

「いや来るな。って、いきなり走るなよー」

化け物は勢いよく一本道を駆け出す

僕からゆるやかに遠ざかっていくけど、本当に歩みがのろい

少し離れた地点ですっ転ぶ

地面にべちょりとした体制

「あーあ……」

僕はゆるゆると、化け物が転んだ地点まで歩く

歩きながら、化け物に聞こえるように声を張りながら話しかける

「そもそも、僕の家は反対側!」

化け物もそもそと起き上がる

「え」

「えー……」

ぐるりとこちらを振り向き、意味がわからないという風に、道と僕の顔を交互に見ている

二回もえーって言った

「僕の家は学校の表門を出て進んだ先

こっちは反対側だから、この道を進んでも辿り着けないよ」

「えー……。えー……?」

化け物はますます意味がわからないという風にこちらを見ている

すごく理由を聞きたそう

「いや、家に帰りたくなくて」

「いえで?」

「家出じゃないよ」

「家に帰るため。そのために、お腹が空くまで歩き続けてたんだ

そうしたら、きっと、自然に帰りたくなると思ったから」

「さっき少し話しただろ

現実が変わらないのなら、僕が変わるだけだって」

適応出来なければ、それは僕が悪い

「我ながら賢い行動だと思うよ」

そうやって、これまでも、これからも僕は生きていく

「うそだー」

一瞬ビクっとして、僕の時間が止まる

なんてことのない言葉

だけれど、ひどく神経を逆なでされた

大きく目を見開き化け物を見るけど、すぐにガンを飛ばすような表情に

「……嘘って、何が」

腹の底から絞り出すような声が出た

「それうそだよー。わかってるよー」

「さびしい」

今までとは違う、端的で冷静な化け物の一言

化け物の見透かしているような言い方に腹が立った

他人に己の根幹を理解して貰う必要は無い

けれど、理解してくれないのであれば、わかった気でいるのをやめろ

反吐が出そうだ

僕はこの手の人間(こいつは人間ではないけど)が、大嫌いなんだ

感情的になりそうなので、なんとか頭を落ちつけようとする。

ここで怒ったら図星を突かれた人みたいだから。

今の状況を冷静に反芻する

僕は早退し裏門から学校を出た

一人きりで

一人きり……?

「いや、お前誰だよ…!?」

化け物と一緒に歩く事に、何の疑問も持っていなかった。

そうだ、僕はずっと一人きりだった

化け物という非現実的な存在の意味もわからない。

そして、この道もよくわからない

目的の場所がある訳ではなく、ただ歩き疲れたかっただけ *

なので、この辺りの道はだいぶうろ覚え(校外学習で一度来たくらい) *

迷っても来た道をまた戻れば帰れるはずだった *

だけど、こんなに奇妙な道をしていただろうか。明らかに記憶にない場所

「ぼくは、ぼくだよ」

「なに言って……」

「わかるよ」

「……お前は、なんなんだよ!?」

僕の感情などお構いなしに、化け物はまくし立てる

「どうしてー。どうしてこんなにさびしいのー」

泣いている化け物の描写

見知った声色に表情

化け物を見て気が付く僕

どうしてこんな大事なものを忘れていたのだろう

めそめそと泣く化け物は

遥か遠くに置き去りにしていた、僕自身だった

「五月蠅い、五月蠅い、五月蠅い!!

泣きたいのは僕のほうだ。僕だってこんなのは嫌だ、嫌なんだよ……」

激昂したものの、言葉の最後は掻き消えるような小ささ


---


気が付けば田圃は終わり、見知らぬ道路に出ていた

人気は一切無く、空は真っ赤に染まっている

僕は振り返らずスタスタと歩き続ける。

化け物はてちてちと幼稚な歩みで付いてくる。

僕が足を速めると、化け物もぎこちなく足を速める。

こいつはそのうち怒り出すんじゃないか。

それとも愛想を尽かしてついて来なくなるのではないか。

そんな想像で頭が一杯になり、鼓動が異常に早くなる。

でも他人が自分の行動のせいで困っているのは気分が良かった。

あぁでも、せっかくさっき自販機があったのに、素通りしてしまった

僕が早く歩きすぎたせいか、滑稽な音がして化け物が転んだ。

僕の歩みが遅くなる。

歩き疲れたから、足が悲鳴を上げているだけだ。

早く、起き上がれよ。

これじゃ、お前に追いかけて欲しいみたいじゃないか。

「……ごめんね」*

化け物がポツリと呟いた

君の笑顔は、いつだって泣き出す寸前の子供のそれだった

泣く寸前なのに、精一杯の優しさでこちらを撫でてくれる

真綿のような優しい手で触れなければ、壊れてしまうもの

僕は振り返らないが、足音が再開するまで止まって待っていた。

足音が徐々に近づいてくる。

隣に化け物が並ぶ。

この距離をひどく懐かしいと感じた。

僕はペースを落として歩いた。

君がもう転んでしまわないように、無くさないように、強く手を握りしめて

僕は気恥ずかしさからぶすーっとして隣には目もくれない

けれど、確かに君は泣いていた。

「……本当は、みんな大嫌いなんだ

溶けて無くなっちゃえばいいんだ」

精一杯の強がり

本当は誰かに消えて欲しい訳じゃない

ただ、ずっと何処かに行きたかった

黙って歩き続ける

ふとどちらかが口を開いた

「この道に果てに、君は何を求めているの?」

「……希望」


---


遠くから、微かな踏切の音が聞こえた

音が僕の意識の手を引く

ずっと、真っ白い闇はガーゼを被せていた

そんな事にも気付かずにいた

本当は、踏切の向こうへ踏み出そうとした男子生徒が羨ましかった

自由を誇らしげに語る彼が眩しかった

僕は普段、誰かに積極的に話しかける事はない

けど、その男子生徒に一度だけ話しかけた事がある

先生の課題運びを手伝っていた時に話しかけた

その時は本当にただの気まぐれだったと思う

先生も僕も黙りっぱなしで、彼が気まずそうにしていたから気を遣っただけだった

男子生徒に「なにこいつ……」的な顔されたけど(気を遣ったのに理不尽だ)、一応その時の気持ちについて語ってくれた

「長く狭い道を駆けた先には、きっと光があるんだ」

「……それが失敗に終わったとしても?」

「そうだよ。光を追いかけた事、俺は間違いだと思わない」

先生に「真面目な子に、変なこと吹き込まないの!」と怒られていた

けど……

僕は彼を夢想した

裏門付近は校外学習で行ったきりで薄っすらとしか記憶にないけど、ただひたすらに想像した

僕は窮屈な教室に押し込められて

学校帰りに皆の目を盗んで、分岐路から迷わず右に進む

長い道を駆け出す

その先には踏切があって、渡ると一気に世界が開けて、僕は自由だった

そんな情景が浮かび、離れなかった

でも毎日は何も変わらない

僕は、自分を適合させる事に慣れすぎてしまった

けど今日、たまたま具合が悪くて早退という事になった

今なら僕でも出来るんじゃないか

何処かへ抜け出せるのではないか

そうだ。どうせなら、彼と同じ歩みで、同じ景色を見たい

自然と足が裏門へ進んでいた

分岐路まで来た

けれど、無理だった

僕には、無理だった

だから、せめて帰りたくなるまで歩くことにした

早退だから親が迎えに来る事になっていたのに、勝手に学校を抜け出してしまい、どうやっても怒られるから

結局、自分は自分でしかなかったから



「行こう」

手を取り合いながら、音の発生源へと駆け出していく


カン、カン、カン。


警報が鳴っているけど、遮断器は降りていない

この踏切を越えれば、隣町に出る

遠く、遠く。光を追いかけて…… *


「一緒に行けるよ。君となら」

お互いに微笑み合い、力強く頷いた。


せぇの。


鳴り止まない警報の中

掛け声と共に、二人で一歩を踏み出す


---


ずっと、探し求めていた

僕の『鏡』が欲しかった

羨ましくなったのだ

道に迷えるその誰もが、僕に己を視るから


『鏡の心は何処へ行く?

誰も僕を見てくれはしない。誰も、誰も……』


其処に在った何かが溶けたのか、粘度の高い液体が水たまりになっている

よれたTシャツはズブズブに浸って、色が変わっている

残骸を鏡が映すことは無く、ただ虚ろに今日も彷徨うのみ。

蝉はやかましく鳴き続けている。


「さびしーい」



-完-



【簡易まとめ】

〇ストーリー

自分がされて嫌だった事を無自覚に他人にしている話


〇登場人物の感情

共通:他人に『鏡』にされる事で孤独だった。誰も自分を見てくれなかった

僕の結論:此処ではない場所へ行きたい。求めるのは「自由と希望」

化け物の結論:自分も『鏡』が欲しい。生み出したのは「羨望と憎悪」


〇「他人は自分の『鏡』を求めている」について

以下の経験などから、僕は上記の発想に至った

母:典型的な、父の悪口を言い子供に同調させるタイプの母親

父:自分を放置していたが急に遊びに連れ出し、父親らしい善行(息子と野球をする等)を押し付けてくる

親父が同じ事をしてくれて嬉しかったから、自分も息子にしようと思ったと語る

先生:授業を聞かない生徒に対し腹を立て「今日の授業はおしまいです」と教室を出ていく

誰も追い駆けないけど、僕だけがそれを追いかけ引き留めたことで、感動し教室に戻って来る

先生は最初から引き留めて欲しかった

→大人も子供も、他人を『鏡』にして自分自身・自分の持ち物・自分の望む姿を映し出している


【あとがき】

はじめまして、白雪ざくろと申します。

初投稿・執筆練習用にこの小説を書いていたのですが、中々完成する気配が無かったため、ひとまずプロットだけをぶん投げる事にしました…!

執筆って大変ですね。もっと精進したいです。

完成版もいつか投稿したいので、その時はどうぞよろしくお願い致します!

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さびしい【プロット】 白雪ざくろ @snow_zakuro

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