いつまでも輝く母へ

達見ゆう

かえるの子はかえる

 僕こと、リョウタは街で妻のユウさんと買い物をしていた。ネットで何でも済む時代なのに『メタボ解消のために歩け』と引っ張りだされたのだ。

 正確にはメタボではないのだが、彼女には同じなのだろう。言っても無駄なので観念して買い物に付き合っていた。


「ユウさん、これだけは言っておく。今日の買い物で石は禁止。その場から動かなくなるから僕の運動にはならないよ」


 僕が釘を刺すと彼女はガッカリした顔をした。危ない危ない、また高いコレクター石を買わされるところだった。


 結局は無難にホームセンターに行くことになった。確かに日用品のストックが切れてたし、ここのホームセンターはバカでかいからいい運動にもなるだろう。


「えーと、この洗剤の詰替えとキッチンペーパー、と」


 かごにホイホイ入れていると園芸コーナーがある南側出口に来てしまった。母の日が近いからカーネーションフェアが開かれている。


「ユウさん、お互いのお母さんは元気だからそれぞれカーネーション送ろうか?」


「ああ、お義母さんの分だけでいい」


「え? 何かあったの?」


「今、日本にいないんだ」


「へ? 海外旅行中?」


「ああ、またパックパッカーを再開してな。年金で物価の安い国へ行くって」


「だ、大丈夫なの? その年齢でバックパッカーって?」


 彼女の母親ならありえると思いつつ、僕は念の為聞く。確かに登山一つにしても高尾山にしても浅間山にしてもガチ目の荷物を持っていた。『意外とこういう家族連れが多い山でも夏であっても遭難は起こるものなのよ』とか言ってたな。体力は確かにありそうだし。


「コロナ中はひたすら貯金してたから、資金はあるし、あちこち行くとか。しばらくは帰ってこないみたいよ。お父さんに送ることになるよ?」


「ユウさんはその凶……もといアグレッシブさは母親似なんだね」


「ああ、父ともパックパッカー婚なんだ。カモられそうになってたのを助けたとか、強盗に遭ってたのを空手で倒したとかどこまで本当かは知らんが」


 どちらも本当にありそうだ。かえるの子はかえるということか。


「姉や妹、私達姉妹が生まれてからはさすがに旅は止めてたけど、思い出の写真や現地での石ころ、いろいろ見せては話してくれたなあ。

 チェコにはガーネットがそこら辺に落ちてるとか、ベトナムではルビーラッシュだったから現地人に混ざって田んぼをパンニングしたとか。原石だから簡単にアクセサリーにしたり小瓶に詰めて雑なお土産風にして税関をクリアしたとか。そういう意味では母はいつも輝いていたなあ。私もそんな母みたくなりたい」


「お、おう」


 既になっていると思うが、言うのは野暮だ。

 それにしても、石好きなのもお義母さんの影響か。そりゃあ、家にハンティングした天然石がゴロゴロしてれば、子どももきれいな石を好きになるよね。最後のセリフは密輸ギリギリの量だったのだろうかと疑念がよぎったけど聞かなかったことにしよう。


「じゃ、カーネーションはうちのお母さんの分だけにしておくよ。お義母さんにはどうしようかな。日本に帰ってきたらでいいかな。いつになるかわからないけど」


「どうだろ? 今年中には一時帰国すると思うよ。おめでたいことあるし」


「え?」


 そ、それって、もしかして僕たちに子どもが?! それじゃ妊婦に無理させられないっ!


「ユウさん、なんで教えてくれないの? ほら、ショッピングカートも僕が持つよ! 無理しない! それからベビー用品コーナーへ行くよ!」


「え? 妹の結婚が決まったから顔合わせやら式の関係だから、これから話そうと思ったんだけど、そんなに早く言わなきゃならなかった? って、結婚祝いにベビー用品は早いだろ? 姪っ子の蛍ちゃんの誕生日プレゼントにもまだまだ先だぞ?」


 え? そっち? 僕は早合点してしまった?!


「もしかしたら、私の妊娠と思った?」


 クスクスと笑われてしまった。図星を突かれて恥ずかしい。


「まあ、そのうちなんとかなるでしょ」


 僕はこの凶暴な妻が母親になる時はどんな輝き方をするのか考えようとしたが、ヤバい輝き方しか思いつかない。


「ラジウムとか放射性物質の光り方しそう……」


「さ、カーネーションはリョウタのお義母さんだけにして次のコーナー行くぞ」


「う、うん」


 良かった。独り言は聞かれてなかったとその時は思ったが地獄耳の彼女は聞き逃しておらず、帰った後に足つぼマッサージの刑に遭うことはこの時は思いもよらなかった。








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