土属性魔法


「苦じい、ぐびじまっでる絞まってるわよ……」


 服の首元を後ろから引っ張ってギルドから出てきたが、少しおとなしくなったので、服をつかむのをやめて首を解放してやった。


「さて、コーディア。この後どうする。討伐は3日後だぞ」


「……あの冒険者……フン!まぁいいわ」


 コーディアは、先ほど絡んでいた冒険者の方に視線を向けていたが、やっとあきらめたのか、ようやく俺の方を向いて真面目に話し始めた。


「そう言えばアルス、あなたはどうやって戦うつもりなの?」


 一応、先ほどから俺は、船の上からの攻撃方法などを検討していた。

 イレアについては遠距離攻撃に該当するスキルがないので、今回は回復魔法担当だ。今回の件とは別にイレアには最低限、牽制けんせい程度にはなる遠距離戦用のスキルか魔法を覚えさせた方がよさそうだ。

 さて、俺については……そうだな。

 投擲とうてきスキルで投げるのは基本的に今までは石だった。だが、イカの弾力のある肌に小石程度で効果があるのだろうか? 小さい鉄の玉とかのほうがまだ威力が高そうだが、そもそも、そんなもの武器屋には売ってなさそうだし、槍の方がまだあるだろう……。

 という具合に考えてはいたが、これだ! と思える具体案は出てこなかった。


「うーん。そうだな……投擲スキルで鉄の玉や槍を投げるしかないかと思っていたが?」


「なるほど、そうね。うーん……ならアルス、あなた土属性の魔法適正があるって言っていたわよね? 特訓してあげるわ!」


 うーん、一体何をするつもりなんだろうか。

 そもそもこいつに特訓なんて指導できるのだろうか?

 一応俺には土属性の魔法適正があるとはいえ、エクトルに魔法の修行を手伝ってもらっていた時だって、石ころをいくつか出すので精一杯だった。

 不安しかない提案に俺は疑問をぶつけられずにはいられなかった。


「お前が俺の特訓? どうやって? それ本当に大丈夫か?」


「大丈夫よ。私、新人の部下に魔法の指導を行っていたのよ!」


「……まぁ次の日にはみんな……どこかに行っちゃったけど……」と、ぼそっと小声で話した。


「ん? 今何か気になること言ったよな?」


「い、いいえ! 何でもないわ。ところでアルス! 槍なんて投げたら予算がいくらあっても足りないじゃない。今の私たちにとってお金は大事よ」


 胸の前で拳をグッと握り、正論を言ってやったと言わんばかりに堂々としているコーディア。


「お前が言うなよ。誰のせいだと思ってるんだ」


「い、いいじゃない。だから特別に宮廷魔法使いである私が、いい案をアルスに教えてあげようって話なのよ」


 そう言えば、こいつはこれでも宮廷魔法使いなのだということを少し忘れていた。

 そこまで言うなら聞いてやろうじゃないかと思えてきた。


「ほお、で? それは何なんだ?」


 そう聞くと、コーディアはニヤリと笑みを浮かべながら自慢げに提案しだした。


「あなたの土魔法で、石の槍を作るのよ! それなら魔力が尽きるまでいくらでも槍を投げられるわ」


「……石の槍か……なんだかすぐに砕けそうだな」


「そこはイメージが大事なの。魔法は頭の中のイメージでだいぶ変わってくるのよ」


 そう言うとコーディアは早速近くの武器屋に行こうと提案した。

 魔法の話なのになぜ武器屋なのかは不明だが、ひとまず言う通りにしてみた。


 武器屋については、コーディアが昨日この辺をぶらぶらと歩いていた時に見かけたらしいのだが、昨日浴びるように飲んだ酒の影響で記憶があいまいになっているらしい。結局近くにいた商人に武器屋の場所を聞いた。


 がやがやと賑わう市場の街道を抜け、わき道を歩いた先に目的の武器屋がひっそりと建っていた。


 うーん、なんだかパッとしない武器屋だな。

 店の中に入るとそこには、店構えと同じようなパッとしない痩せこけた老人店主がカウンターの席で居眠りをしていた。店は少し埃やカビの匂いがする。


 俺たちは店主が起きないようにひそひそとしゃべった。


「おい、ここに何の用があるんだ? 武器屋なら大通りにもっとちゃんとした店があっただろ?」


「いいのよここで」


 そうするとコーディアは雑にたるの中に放り込まれている武器をガサガサと漁り始めた。


「これこれ! ちょうど良さそうなのがあった」


 コーディアが樽の中から探し出したその品物は、粗悪な鉄で出来た杭のような中途半端な長さの物体だった。表面は荒くごつごつとしており、黒っぽく鈍く光を反射している。


「なんだそれは?」


「うーん、多分、長槍の先端の失敗作かしら?」


 そう言うとコーディアは寝ている店主を叩き起こし、店主が若干ウトウトと寝ぼけている隙に、銅貨1枚で販売してもらうことをゴリ押しして、俺たちはそそくさとその店を後にした。


 店を出てしばらく歩き、海が一望できる場所についた。辺りに人はいなく、波の音と海鳥の鳴く声が聞こえる。夕日を眺められそうなその場所には休憩用のベンチがおいてあった。俺とイレアはそのベンチに座った。


「それで、この不良品は何に使うんだ?」


 目の前に立っているコーディアに尋ねた。

 銅貨一枚で購入したその長槍の先端らしき物体は、ちょうど肘から指先くらいまでの長さがあった。


「アルス、今日の午前中はそれをずっと触っていて」


 ん? これを午前中はずっと触っておく?

 特訓というからには、魔法をばんばん撃たされたりでもするのかと思っていたが、全く予想していなかった言葉に少し驚いた。


「……いや、すまないが、もう少し詳しく説明してもらえないか?」


「えー、そんなのいいじゃない」


「目的もよく分からないのにそんなことやってられるかよ」


「うーん、しょうがないわねー」


 そう言うとしぶしぶコーディアは説明しだした。

 先ほど言っていた通り、魔法はイメージによって完成度が変わってくるらしい。この購入した長槍の先端は、あくまで形のイメージを頭の中に入れるために購入したのだという。

 あのパッとしない武器屋で購入したのも、大通りのちゃんとした店ではこのような品物は扱っていないからだとかで、この雑なつくりの品物は、表面が荒くごつごつしており、ちょうど岩石のような見た目にも見えるのでこれを購入したとのこと。


 この形になるように土を圧縮し硬い岩石にするイメージを作っていく。という修行の一環でまずはこの形を徹底的に覚える! という事らしい。


「イメージか……それなら、キレイな長槍とかではだめなのか?」


「それだと多分、鉄のイメージが強くなってしまうから、あなたでは難しいわね」


「鉄か……でも鉄も元は鉱物こうぶつなのだから大地と関連してるし、土魔法で何とかならないのか?」


 俺にとっては素朴な疑問だった。

 でもその話で行くと、もし鉄を魔法で生成出来るなら、鉄ではなくてミスリルや、オリハルコンなんて物も生成できるようになってしまう。ということになるのかな……?


「残念ながら、出来ないのよね。鉄はあくまで鉄。魔法で生成して形にするのに『熱して熔かす』イメージが必要になるから、火属性の魔法適性のないあなたには無理なのよ。そもそも鉄をわざわざ生成するなんて魔力をたくさん使う割にたいした量もできないし」


 なるほど、頑張ればオリハルコンを見られるかもしれない。と少し期待したのだが……残念だ。ともあれ、訓練の意味は分かった。

 早速俺は、手に持っていた長槍の先端らしき物体を、あちこち触ってみたり、軽く叩いてみたり、じっくり見てみることにした。


 しばらく触っていると他の疑問がわいてきた。


「なあ、そう言えば、そもそも土魔法ってどうやって戦闘するもんなんだ?」


「うーんそうね、宮廷魔法使いにも土属性の魔法適正がある人がいたんだけど、その人は、土の壁を作ったり、敵に向かって大地から土の塊を飛び出させてぶつけたり、近くにある岩石を動かしたりしてたわね。結構地味よ」


 土魔法は地味……そうか、まあ仕方がない。


「本来、大地にある土や岩石をそのまま操作する方が消費魔力が少なくていいのだけど、今回は海上での戦いだし、岩石を生成できるようにならないといけないのよ」


「そうか……ちなみに生成した岩石をそのまま相手に向かって放つ! とかは出来ないのか?」


「うーんそうね。『放つ』とかってのはどちらかというと風魔法の分類なのよ。まあ、その宮廷魔法使いの人は風属性の魔法適正もあったから、小石をたくさん放って牽制につかってたけど。でも岩石って重たいから、大きいとそこまで速度が出ないのよね」


「なるほど、相性があるのか」


「炎は軽いから放つことは簡単なんだけど、水の重さくらいまでなら何とかなるイメージ? 岩石だと重いわね。多分、水の二倍〜三倍くらいは重たいんじゃないかしら? 風魔法より物理的に動かす方がいいわ」


 なるほど、それなら俺の投擲スキルと土魔法の相性は良いようだ。土魔法で長槍の先端のような形状の岩石を生成し、遠距離から敵を攻撃できる。飛躍的に攻撃力の向上が図れそうだ。


 俺が何度も質問するので、面倒くさくなってきたのか、コーディアは気が付くと、少し離れたところにいた。


「じゃ! ということで、私はしばらく散歩してるから~。がんばってねぇ~」


「おい、コーディア。また人の金盗むなよ」


 そう俺が言うと、既に少し離れたとこにいるコーディアは「大丈夫〜」と返事し、そのまま市場の方に向かって行った。あいつは本当に大丈夫なのか……? 不安だ。


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ユビワカラ創める物語 ササブキ @sasabuki

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