鉛筆削りが壊れた
秋犬
鉛筆削りが壊れた
鉛筆削りが壊れたようだ。
長年愛用していた手動の鉛筆削りが壊れたので、間に合わせに安い水色の鉛筆削りをこの間買ったばかりだ。先月か先々月だ。本当にこの前だ。
削れないのは仕方ないので、分解してみる。小さい時買ってもらった赤い鉛筆削りを思い出す。思えば昔は文房具も何でもかんでも大袈裟だった。特に昔の学習机は要塞のようで、ライトや様々な形の引き出しなど多機能が評判だった。筆箱も鉛筆削りだの隠しポケットだの、付属品ばかりだった。
その赤い鉛筆削りも大きく、大層立派なものだった。これ壊れた、もう削れないから新しいの買って、と言うと父は鉛筆削りを分解する。内部で折れた芯がカッター部分に挟まっているのだ。器用に父は全てを元通りにすると「まだ使えるから」と言う。
さて、この間買ったばかりの水色の鉛筆削りも「まだ使える」はずだ。ねじ回しで蓋を開け、カッター部分を覗き込む。確かに芯が絡んでいる。クリップを伸ばした部分で芯を取り除き、鉛筆削りを元通りに戻す。これで鉛筆が削れるはずだ。
カラカラカラカラ
おかしい。
芯を取り除いたはずなのに、何が気に入らないというのだ。再度分解してカッター部分にライトを当ててよく観察する。幼い頃、この穴に指を入れたらどうなるかと想像してその度に怖いと思ったものだった。
黒ぐろと回るカッター部分に異常がないことを何度も確かめて、蓋をする。バネが飛び出してしまったので戻すのに一苦労だ。これで直ってくれ、頼む。
カラカラカラカラ
削れない。
何故だ。
考えられるのは、外部からでは見えない部分で故障しているということくらいか。「安物なんか買うから悪いんだ」と、どこからか声が聞こえる気がする。「どうせ安いんだから、レッツヨドバシ」という声もする。「直せばまだ使えるぞ」という父の声も重なる。全くもってやかましい。
直したはずなのに直らない鉛筆削りを前に、私は途方に暮れる。「直して使ってやりたい」という気持ちと「安いんだから買い換えなさい」という気持ちが絶妙に交差する。シャーペンを使えばよい? ︎︎今は鉛筆削りの話をしている。我が家では鉛筆を使うのだ。
ついに第三勢力の「これを機に電動のを買いなさい」という声も降ってくる。なんとも晴れない気持ちで、私は「一度時間を置いて再修理して、ダメなら買おう」というなんとも晴れないもやもやを抱えることにした。ああ文房具、お前は何故変な壊れ方をするのだ。
鉛筆削りが壊れた 秋犬 @Anoni
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます