第二章・獄界襲撃編

【#16】獄界王、凱旋

 配信を始めてはや二週間……そろそろ俺もティーシャとの共同生活に慣れてきた頃だった。


 そんなある日、”それ”は突然現れた。


『臨時ニュースです!! 突如、東京の上空に”赤黒い裂け目”のようなモノが現れました!!』


【D-LINE(SNS)の反応】


”なになになに!?”

"この世の終わりかぁ!?"

”やばいやばいやばい”


 謎の裂け目を映すヘリコプターからの中継。


 そんなテレビから流れてくるニュースを、俺とティーシャはリビングで呆然と聞いていた。あまりに衝撃的過ぎて、すぐに言葉が出なかった。

 

「──あれは”ゴクカイ”からの次元門ポータル!?」


 警戒するように猫耳を立てるティーシャ。


 なんだ? 初めて聞く言葉だが。詳しく聞いてみるか。


「あの。”ゴクカイ”、ってなんですか?」


「そっか。アヤカちゃんはこっちの世界の人だから知らないよね」


 そうして、ティーシャは真剣な表情で語りだした。


「”獄界ごくかい”はね、ダンジョンの遥か深層しんそうにある闇の世界だよ。そこには強力な魔族達が住んでいて、あの次元門ポータルっていう異次元の裂け目を通って他世界に侵攻してくるの」


「そ、そんな!? それじゃ、わたし達の世界にもその魔族達が押し寄せてくるってコトですか!?」


「ま、まだわからないけど。でも、あちらの動き次第しだいではそういうコトになるかも……」


「うわぁぁあああああああああ!? こうなったら、朝っぱらからヤケざけします!!」


「ちょっ!? アヤカちゃん!? 落ち着いて!?」


 冷蔵庫から酒を調達して一気に飲んでいく俺。


 もし今日がこの世の終わりとあらば、朝から酒飲むのも許されるだろう。……まぁ、いつも飲んでるんだけど。


 そんな中、中継映像の方に動きがあった。


『人間界の諸君、はじめまして』


「「!!」」


 やがて、裂け目の中から”魔族”と思われる一人の男が現れた。


 頭に二本の角が生えた琥珀色こはくいろの長髪。顔は不気味なほどに真っ白な肌をしており、瞳は血のような真紅。

 身体には漆黒のローブを身に纏っており、誰の目でも明らかに『強者』と分かる振る舞いだった。


 男は空中で静止しながら、テレパシーを使って街中に語りかけてきた。


『我が名はヴェルヌス・アウストゥラ。我は獄界ごくかいべる王である』


”獄界の王!?”

”いきなり王自ら来るの!?”

”終わりだーーーーーーーーーー!!!”


 SNS上でも阿鼻叫喚あびきょうかんの声が上がる。まるでその絶望感を把握したように、ヴェルヌスは街を眼下がんか嘲笑あざわらった。


『ククッ、安心しろ。今すぐに潰すつもりはない。キサマらが見ているこのわれも幻影だ。我は戦いに来たのではなく、この世界と”交渉”しに来たのだ』


(”交渉”だって……!?)


 それからヴェルヌスは人差し指を立てて続けた。


『今、我は獄界ごくかいの軍勢を使ってこの世界へ侵攻を考えている。だが、その侵攻を逃れるための条件が一つだけある。その条件は──』


”条件!?”

”世界の半分とか!?”

”きっと恐ろしい条件に違いない!!!!”


 いったいなんなんだ!? 今、その声を聞いている全員が心の底から気になっているだろう。


 そして、その条件がついに提示された。


!!!』


「「……え?」」


”は???”

”今なんつった?????”

”あれ? ウチのスピーカーおかしくなったかな……?”


「「け、ケッコン……??」」


 俺とティーシャは同時に顔を見合わせた。今聞いた情報が本当なのか確認するように。どうやら聞き間違えではないらしい。


 やがて、ヴェルヌスはカメラに向けて指を差すように言う。


『ティーシャよ。これを見ているのならば、我が魔力を辿り呼びかけに答えよ。さすれば、魔法によって交信が可能となる』


「……!!」


 その指示通り、ティーシャは集中するように目をつぶる。その後、何かを感じ取ったように目を開けた。


「えっと、これでいいのかな?」


『うわわわっ!? ほ、本物だぁ……!?!?!? あっ、すいません! わ、わ、我は獄界王ごくかいおうのヴェルヌスと申します!!! えっと、その……ずっと前からティーシャのファンです!!』


”は!?!?!?!?”

”あれ?? 急に腰低くない……??”

”なんなんだ、コイツ~~~~~!?!?!?”


 こ、この展開はちょっと予想外すぎるんだが……!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どうも、酒クズ女サムライです。~呪いの妖刀でTS美少女と化した俺、【酔剣】使いの酒クズ女配信者としてバズリまくる!?~ 深海(フカウミ) @hukaumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ