【#15】みんなで入浴!!

 それから更に温泉ダンジョンを進んで行った先、大きな扉の前に差し掛かった。その扉を開けてみると──。


「おぉーーーー!? 絶景ーーーーーーーーーーー!!」


 視界一面に広がる天然の大浴場!! 

 

 大自然のまま残された開放的な空間がそこにあった。ここに来るまでそこそこ探索してきたため、辿り着いた感動もより強いモノになっていた。


”入浴シーンキター!!!”

”ど、どこまで映せるやつ!?”

”はよはよ!!”


「もー、そんなかさないの♪」


 ティーシャはリスナーを優しくさとしてから、俺達の方へと振り返って言った。


「それじゃ、さっそく入っちゃおっか? ──アイテム、”携帯テント”展開!!」


 彼女が呪文を唱えると、目の前に巨大なテントが出現する。それを見たラビスさんは、ワクワクした顔で中に入っていく。


「あ~~、ついにこの時が来たっすね!! みんな、着替えるっす!!」


「………………」


 そう、ついにこの時が来てしまった……!! みんなと一緒に入浴する時が!!


◇◆◇◆◇


 ──数分後。


「お待たせ~~♪」


 ティーシャの掛け声と共に、テント内からバスタオル姿で出てくる俺達4人。たちまちコメントが加速する。


”うほほほほ!!”

”待ってました!!”

”4人共オーラやばすぎる……!!”

 

(は、恥ずかしいぃ~~~~!!)


 配信でここまで肌をさらすなんて! 


「じゃ~~ん♪ 入浴モードのあたしで~す♪」


「うぉおおおお!! 猫人ネコビト(※ティーシャリスナーの総称)のみんな~~!! これは貴重な姿っすよーー!? ちゃんとスクショ撮っておくっす!!」


 ティーシャとラビスさんは平常心で対応しているが……レインさんは俺と同じく緊張している様子だった。彼女は入浴用に束ねた金髪を触りながら、恥ずかしそうに言う。


「その、早く入ろう……!」


「せんぱ~い、すっごい緊張してるっすね~!? ほらほら~、身体硬くなってるっすよ~?」


「ひゃぁっ!? やめろぉ!?」


 背中を触られてビクつくレインさん。大人っぽい身体つきとは対照的に、弱弱しい仕草しぐさが可愛かった。


 そして、いよいよ入浴の時へ……。


「「「「ふぅ……」」」」


 心地よい湯にかり、つい幸せな溜め息が出てしまう。


(あぁ、気もちいい……)


 まさに天国に来た気分だった。


 もともと風呂に入るのは好きな方であるが、ダンジョンの温泉が特別なのか……心の底から身体がリラックスしているのが分かった。


 そんな周りの事も忘れて、完全にくつろいでいる時だった。


「!!」


 ふと、お湯の中の左手に触れる感触。そちらを見ると……ティーシャが手を握っていた!?


(えっ!? ちょ、ちょっと!?)


 ティーシャの方を見返すと、彼女は優しく微笑んでいた。


 その表情はどこか悪戯いたずらっぽい感じで、みんなに隠れてこっそり楽しもうとしている雰囲気だった。


 そんな彼女の行動に、俺以外は気づいてないらしい。ドキドキドキドキ。心臓の鼓動が加速していく。


 俺は強張こわばった笑みで、ティーシャに合図を送るように言った。


「い、良い湯ですねぇ〜?」


「ふふっ♪ そうだね、すごく気持ちいい……♡」


 ボーッとした表情で笑いかけてくるティーシャ。その自然な表情はリスナーのみんなにも当たり前のように見えているだろう。


 だが、こっそり手を握られている俺としては別の意味に感じていた。


(これが異世界流のコミュニケーション? 女友達同士ならこういうこともある……のか?)


 そうかもしれない。いや、きっとそうだ。単なる友達としてのスキンシップだろう。そう思うことにした。


 だが、その日は温泉から上がった後も──ティーシャと手を握った時の記憶が脳内に残ってしまっていた。

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