【#14】vsエレメンタル

「オラオラーー!! モンスター共ー!! どっからでもかかってこーい!!」


 温泉ダンジョンの道中。俺は酒を片手に持ちながら、パーティーの一番前を歩いていた。


"酒クズちゃん、テンションたけーな……"

"さっきまで二日酔いで死んでたとは思えん"

"こーゆー時こそ痛い目に遭いそうな気が"


「いやいや、まさかそんなコトないでしょ〜? ……む!」

 

「ボボーッ!! ボボーッ!!」


 湯煙の先から真っ赤な炎のモンスターが現れた。


 そのモンスターは空中をふわふわと漂っており、炎の中で不気味に光る二つの目がこっちを見ていた。後ろからティーシャが鋭く言ってくる。


「アヤカちゃん! Aランクモンスターの”ファイア・エレメンタル”だよ! 気をつけて!!」


「まーまー、わたしに任せちゃってくださいよー♪」


 二日酔いを乗り越えたのもあって、今日は無敵な気分!! ここはみんなにカッコいいところを見せてやろう。


「ボボォーー!!」


 エレメンタルの火炎攻撃!! だが、慌てない。俺は迫りくる火炎弾をギリギリまで引き寄せて──。


「よっと!!」


 軽い身のこなしで回避した。サラサラと赤い髪が宙に舞う。ちょっと余裕があったので、撮影ドローンに浮かぶコメントをチラッと見た。


”おっ!! 避けた!!”

”上手い!!”

”華麗だ……!!”


(フフフ……みんな褒めてくれてるな!!)


 そうやってつかの間の優越感に浸っていたのだが。


「酒クズちゃん!? 後ろっす!?」


「……え?」


 ラビスさんの警告に振り返ろうとした、その時。


「ほわぁああああああああ!? ケツがぁあああああああああああああああああ!?」 


 突然、お尻の辺りに炎が直撃してきた!?


 どうやら外れた火炎弾がホーミングして、背中側から当たってきたらしい!? ってか、あつっっっっ!! 


”草”

”慢心しすぎ~~ww”

”これは切り抜き”


「アヤカちゃ~~ん!? 大丈夫!?」


「え、えぇ。平気です!!」


 駆け寄ってくるティーシャに、微笑みながら言葉を返す。


 派手に食らったように見えただろうが、実際のダメージは大した事はない。


 この身体は華奢きゃしゃに見えて、耐久力もめちゃくちゃ高いのである。何度か叩くと尻の火は消えていった。 


 だが、その後に悲劇は起こった。ラビスさんが青ざめた顔で言ってくる。


「うはぁ!? 酒クズちゃん!? お尻が丸出しになってるっす~~!!」


「えっ!? ホントだーーーーーーーーーーーーーー!?」 


 なんと着物が下着ごと焼けて……!?


”ぐへへへへ”

”スクショ!! スクショ!!”

”酒クズちゃんのお尻……良い!!”


「うげぇ~~~~~~~~!? やめてぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」


 は、恥ずかしい……!! 

 

 せっかくカッコいいところ見せるつもりがこんな醜態しゅうたいをさらすハメに!? なんでこうなるの!?


 くそっ!! 恥かかされたと思ったら、なんか腹立ってきた……!! こうなったら──。


「でやぁぁあああああああああああああああああ!!」


 怒りのままに妖刀を抜いて、ファイア・エレメンタルの方へ突っ込んでいく。そして──。


「くらえーーーーっ!! 【酔剣すいけん】っっっ!!」


「ボボッ!?」


 一発で叩き斬った。


 黒くなって消えていくファイア・エレメンタル。


 その後、一息ついて納刀していると、ティーシャがこっちに駆け寄ってきた。それも驚いた顔で。


「す、すごいね!? アヤカちゃん!? ファイア・エレメンタルを一撃で倒すなんて!?」


「え? あっ……」


 そういえば、Aランクのモンスターって言ってたっけ……。尻をさらされた怒りで忘れていたが。


 やがて、レインさんも焦った表情でタバコを吸いながら言ってくる。


「酒クズ……キミには私が想像していた以上の実力があったようだな。正直言って、驚かされたよ」


 それに続いて、ラビスさんも横から参戦してくる。


「そうっすよーー!! 酒クズちゃんも人が悪いっすねーー!? そんな実力あるならもっと強いクエスト回せるっすよ!?」


「そ、そうですか? じゃあ、今度からもっと色々お仕事受けてみましょうかね……? あはは……」 


 苦笑いで応じつつ、俺はティーシャの方へ振り向いて言った。


「ところで、ティーシャ……替えのパンツをいただいてもよろしいでしょうか~?」


「ハイハイ♪ どーぞー」


 魔法カバンから新しいパンツを取り出すティーシャ。温泉入浴のために着替えを持ってきていたのが幸運だった。みんなから隠れて急ぎで着替えていく。

 

 その後も、リスナー達から俺の強さについて議論が巻き起こり……とりあえず”Aランク相当ではある”という結論に至ったようだ。


 ──なお、まだまだ本気は見せていない。さっきの戦いもちゃんと力を抑制セーブして戦った結果である。

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