【#13】温泉のダンジョンへ

【翌日・品川ダンジョン地下7F】


 俺、ティーシャ、レインさん、ラビスさんの四人で、カギの示す地点へとやってきた。


 この日、配信で初めて顔を出すラビスさんがリスナーに挨拶する。


「みんな、はじめましてーっす!! ラビスっすよー!! 普段はギルドの受付で働いてるっす~!!」


”お~~、可愛い~~♡”

”バニーガール!!!!!”

”ティーシャの友達らしいね?”


「そうっす~。彼女とは異世界アナザー時代からの付き合いで仲良くさせてもらってるっす~。今日はみんなよろしくっすよ~♪」


 自慢のウサ耳をピョンピョン動かしながら喋るラビスさん。そっちの方は問題なく進んでいたんだが──。


「うぅ……おぇ……」


「だ、大丈夫? アヤカちゃん!?」


 今日は俺の方が問題だった。今はティーシャに肩を借りながらどうにか立っている状態だ。


”おいおいおい、顔色ヤバくない?”

”どしたの? 酒クズちゃん?”


「いやさ……昨日ちょっと飲み過ぎちゃって……」


 そう、昨晩はこの4人で飲んでいたのだが──完全に舞い上がって飲み過ぎた。


 どうやら【鋼の肝臓】でいくらでも飲めるからといって、絶対に二日酔いしないというワケではないようだ。


 そんな俺を見て、レインさんがタバコ型のお菓子をポリポリ食べながら言う。


「……まぁ、昨夜の酒クズは誰にも止められなかったからな。強い酒を水のように飲んで、まるで女王のような立ち振る舞いだった」


「うぅ、すいません。ご迷惑をお掛けして……」


"酒クズちゃん……やっぱプライベートでも飲みまくってんのね"

"飲み会で無双できそうで羨ましい"

"それで、結局今日のダンジョン探索は大丈夫なの?"


「そ、それは平気です!! ……おぇ」


 喉から来る気持ち悪さを我慢しつつ、俺はドローンに向かって微笑んだ。


 そうやって無理してるのはバレバレみたいで、ティーシャが俺の身体を抱えながら言ってくる。


「まぁ、アヤカちゃんが本調子を取り戻すまではゆっくり行こっか?」


「そうっすね!!」「了解した」


 ラビスさんとレインさんも、俺のペースに合わせてくれた。かたじけない……。


「ところで、酒クズちゃん。カギの反応はどうっすか?」


「えぇ、だんだん強くなってて……あっ!?」


 その時、俺の手から隠しダンジョンへのカギが離れていった。


 カギは空中で静止すると半透明な扉が現れて、まるで俺達を招き入れるように自動で開いていく。そして、その先に広がっていた景色は──。


「すっご……!!」


 そこはまさに”温泉のダンジョン”と呼ばれるにふさわしい場所だった。


 床はツヤツヤとした黒い岩肌となっており、周りには温かい湯気がほんのり漂っている。さっきまでいた場所とは別世界に感じる。


"キタキタキター!!"

"絶景!!"

"火山の中みたいだな!! なんかすごい冒険してる感!!"


「…………」


 みんなの期待するコメントを見て、俺は少し考え直した。


 そうだ。せっかくこんな貴重な場所に来てるのにグッタリしてられない。こうなったら──。

 

「ティーシャ!! お酒を貰ってもいいですか!?」


「えっ!?」


 ティーシャは不意打ちを食らったように驚いた。


「いいけど……飲んでいいの!? アヤカちゃん、二日酔いでしょ!?」


「──いいんです!! こうなったら『上書き作戦』です!! 更に酔っ払って、今の気持ち悪さを忘れる事にします!!」


「う、う〜〜ん? じゃあ、一杯だけ試しに飲んでみる?」


 そうしてティーシャに手渡されたウイスキーを飲んでみると……。


「うまぁぁぁあああああああああああい!!」


"復活した!?"

"酒クズちゃん、復活ッ!!"

"おいおい、マジで??"


 うぉぉ〜〜!! 身体が軽い!! 気分もいい!! やはり酒は万能薬であるらしい!!


「ふへへへへ〜♪ みんな〜〜、先に進みましょ〜〜♪」


「すごぉ〜〜い!? さっきまで青い顔してたのに!?」


 ティーシャが嬉しそうにメイド服を揺らす中、ラビスさんとレインさんはキョトンとしたようにこっちを見ていた。


「まさかとはビックリっすね!?」


「……あぁ。まさに"酒クズ"の名にふさわしいな」


 酒を飲んでテンション上がった俺は、みんなに勢いよく宣言した。


「よーし!! それじゃ、温泉ダンジョン攻略開始と行きましょうーー!!」

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