【#12】BARで会合

【酒クズちゃん、隠しダンジョンのカギを拾ってしまうww】


1:名も無き探索者さん


 相変わらずラッキーすぎないか?


2:名も無き探索者さん


 ところで、隠しダンジョンのカギってどれくらい価値あるものなの?


4:名も無き探索者さん


 >>2

 んー、モノによるけど大体は相場は500万くらいかなー


5:名も無き探索者さん


 500万!?


7:名も無き探索者さん


 おいおいおい


8:名も無き探索者さん


 すっげー……俺だったら速攻で売っちゃうわ


10:名も無き探索者さん


 酒クズちゃんの事だし、すぐに換金して酒代になるパターンある?


12:名も無き探索者さん

 

 >>10

 いやいや、それは流石にないでしょー。……ないよね?


15:名も無き探索者さん


  >>12

 ないとも言い切れないのが怖い


◇◆◇◆◇


 配信終了後。ティーシャの転移魔法によって、俺達は東京中央ダンジョン内にあるBARへ移動した。


 店内にはまだ客はおらず、ティーシャの顔を見たマスターは多くは聞かず……俺達三人を奥へ通してくれた。


 そして、そのまま店の更衣室で変装用の服に着替えていた途中のこと。


(……ご、500万!? これ、そんなにすごいものなの!?)


 俺は自分について話しているスレを覗き、完全に頭が真っ白になってしまった。


 そりゃっていうのはザックリ知ってたけど……まさかこれほどとは。ついつい金に換えたくなるけど……我慢我慢。


 その後、私服に着替え終わった俺は更衣室の外へ出た。


「よいっしょ、っと。──あっ」


「おっ、アヤカちゃん。思った通り、そのTシャツ似合ってるね~♪」

 

 外に出た時、ティーシャとはち合わせた。


 彼女の視線につられて、自分の着ている服を見下ろす。白いTシャツの真ん中には、だらけた猫のキャラ”ニート猫”が描かれている。は、恥ずかしい……!!


「いくらファッションセンスのないわたしでも、これは”ダサい”って分かりますよぉ!? もぉ~~!?」


「まぁまぁ♪ 今度一緒にオシャレなやつを買いに行こ? ね? ──さて、あとはレインさんだけど……」


 ティーシャがそういった時、隣の更衣室のカーテンがシャっと開いた。


「悪い。待たせたな」 

 

「!!」


 中から出てきたのは、黒いパンツスーツを着た金髪美女──レインさんだ。赤いフチのメガネをかけており、どこか知的なオーラがある。急に大人っぽい雰囲気だ……!?


 俺はガチガチに緊張しながら彼女へ聞く。


「れ、レインさん? そのお姿は……?」


「なにって、”仕事帰りのOL”を想定しての変装だが……どこか変だろうか?」


「い、いえ!? よくお似合いですよ!?」


「そうか……それならいいんだが」


 その後三人でお店側に戻ると、カウンターに座っているバニーガールが手を振ってきた。


「せーんぱーい♡ お疲れ様っす〜♪」


(ラビスさん……?)

 

 そこにいたのはギルドの受付嬢──ラビスさんだ。彼女はレインさんを隣の席に招くと、慣れ親しんだように話を始めた。


「いやー、わざわざ異世界アナザーまでもらって”ワイバーン討伐”してもらって申し訳ないっす!! 頼れる先輩を持つとホントに助かるっすねー!!」


「まったく……ホントに苦労したぞ。しかも、急に頼まれて。これは一つ貸しだからな?」


「わかってるっすよー♪ 今度美味しいお菓子でも持ってくるっす♪」


「……うん、分かればいい。分かれば」


 顔を赤くして、禁煙用のタバコ菓子をポリポリ食べるレインさん。


 過去にティーシャとの配信でも見た情報なのだが、彼女は甘いものに目がなかった。クールな外見と裏腹に意外とチョロいところがある。


 それはともかく──俺はラビスさんに向けて質問した。


「すいません。二人はお知り合いなんですか?」


「……まぁな。”腐れ縁”という奴さ」


 レインさんの言葉を引き継ぐように、ラビスさんが話を続ける。


「まー、そんな感じっす。実は自分、昔異世界アナザーで泥棒してたんすけど……」


「ら、ラビスさんが泥棒!?」


 そんなの初耳だ。ティーシャの方を見ると、彼女もそれを知っていたかのような反応だった。


「そうっす。その時は10代特有の若気わかげいたり的な感じで、自分は盗みの技術にすんごい自信を持ってたっす。でも、ある日道で通りがかったレイン先輩のモノをろうとした時、ついにバレちゃって。その日以来、自分は更生の道を歩みだして今に至るんすよ」


「そうだったんですか……」


 知らなかった。まさかラビスさんとレインさんとの間にそんな関係があったとは。


 それからラビスさんが空気を切り替えるように明るく言う。


「自分の話はこれくらいにして……隠しダンジョンの話っすよ!! ティーシャ、カギの鑑定はもう終わったっすか?」


「んー、まだ。今ここでみんなと一緒にやろうと思って。アヤカちゃん、カギ借りていいかな?」


「あっ、ハイ」


 俺は例の隠しダンジョンのカギをティーシャに手渡した。その後、ティーシャは両手の上にカギを持って呪文を唱えだした。


 すると、空中に異世界の文字が浮かんでくる。


「これは……”温泉のダンジョン”?」


「お、温泉っすか!?」


 ラビスさんはガタっと席を立ちあがり、興奮した口調で言ってくる。


「温泉!! ちょうど入りたかったんすよねーー!! ティーシャ、攻略の時は一緒に行ってもいいっすか!?」


「!! ラビちゃん、いいの!?」


 ティーシャは驚き混じりに聞き返す。


「前に”盗人シーフのスキルを知られたくないから配信には出れない”って聞いたような……」


「いや、いいんすよ」


 ラビスさんは小さく首を振って、どこか吹っ切れたように微笑んだ。


「確かに今までは泥棒だった自分の姿をさらしたくなかったっす。でも、最近配信を始めた酒クズちゃんを見て”勇気”をもらったっす!! 酒クズちゃん、改めてお礼を言わせてもらいたいっす!! ありがとうっす!!」


「わ、わたしは別に何も……!?」


 俺の配信がきっかけで、ラビスさんの心境に変化が?? 俺も多少なりとも影響力を持ってきた……と言うコトなのか?


 そんな中、レインさんが変装用の眼鏡をクイッと上げて言う。


「それじゃ、決まりだな。探索には私も同行させてもらおう。隠しダンジョンには未知の危険も多いだろうからな」


「ふふっ♪ そんなこと言って、レイン先輩も温泉入りたいんじゃないんすかー?」


 肘をついて言ってくるラビスさんに、レインさんはアワアワと口を開けて言う。


「そ、そんなワケないだろう!? バカっ!?」


 ……とりあえず、そういう流れでこの4人パーティーで温泉の隠しダンジョンを攻略する事になった。

 

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