【#11】二丁拳銃のガンレディ

 ──配信者活動を始めて、はや数日。今日は待ちに待ったティーシャとのコラボ配信の日だった。


【品川ダンジョン・地下5階】


「【ホーリー・ボルト】!!」


「ぷぎゃーーーー!?」


 ティーシャの手から放たれた白い稲妻が、Dランクの猪型モンスター『ワイルドボア』を黒焦げにした。


 その雷魔法は威力もさることながら、見た目すらも美しい。流石は魔術の”天才”と呼ばれているだけはある。


 ティーシャは静電気を払うようにメイド服の両袖を軽くはたき、俺の方へと視線を向けて言ってくる。


「アヤカちゃん!! そっちはお願い!!」


「は〜〜い!! まーかせてくださーーい!!」


「「「ぶひぃーーーーーーーーー!!」」」


 三体のワイルドボアがこっちに突進してくる。それに対し、俺は腰を落として妖刀を構える。


 数が多くても慌てない。ここは敵の動きをよく見て──今だッ!!


「──そこぉっ!!」


「「「ぷぎっ!?」」」


 すれ違いざまに一閃。一気にワイルドボアの群れを片づけた。これでクエスト達成。とりあえず今日のノルマはクリアだ。


 俺は安心しながら妖刀をさやにしまうと、ティーシャの方へお礼を言う。


「ふぃ〜……終わった終わった〜。ティーシャ、今日はお手伝いありがとうございました~!!」


「いーのいーの♪ ちょうどアヤカちゃんとダンジョン行きたかった所だったしさ! ……あ! そうだ!」


 そう言って、ティーシャは魔法カバンから琥珀こはく色のビンを取り出した。


「これ、クエスト達成のご褒美ね~♪」


「わぁ~~い♡ お酒ぇ~~~~♡」


 そうしてティーシャから酒ビンをありがたく頂くと、俺はもう考えるより先に飲んでいた。


 そんな俺を見たリスナー達が、一気にコメントしてきた。


"あー、ティーシャに酒恵んでもらってる〜……"

”流石は酒クズ”

"うーーん、ダメ人間!!"


 そんなコメントを見て、俺は酒を片手にキレる演技をしながら言った。


「あぁ、そうですよぉ〜!! どぉーせわたしは"ダメ人間"ですよぉ〜!! お酒が大好きで生活力皆無だしぃ~~!!」


「まぁまぁ、アヤカちゃん……」


 ティーシャはなだめるように俺の肩に手を置いて言った。


「もし仮にアヤカちゃんが”ダメ人間”だとしても、あたしがしっかり面倒見てあげるからね!!」


「やっぱ”ダメ人間”なのは否定しない!?」


 そんな風に二人でのんびり話しながら、ダンジョンを探索していると。


「あっ! ティーシャ、宝箱ですよ〜!!」


 少し外れた通路の先に宝箱があった!!  


"おぉ!! 宝箱!!"

"酒クズちゃん、よく見つけるね〜。やっぱ幸運持ちか〜?"

"さっそく開けようぜ!!"


「ふへへへ〜♡ それじゃ、開けちゃいますか〜!!」


 リスナー達に誘われるまま、俺は宝箱の前へ走っていく。そこへティーシャが慌てて制止してきた。


「あっ!? アヤカちゃん!? そんなにうかつに開けたら──」


「だーいじょうぶですよ♪ いくらなんでもこんな時に……」


 そう言いかけた時、俺は


「ガジャジャジャ〜〜〜〜!!!!」


「うわぁぁああああ!? ミミックだぁぁああああ!!」


 ゆ、油断してた〜〜!? くそっ!? 俺が宝箱開けると、ロクな事になんないんですけど!? 


(とりあえず、このミミックなんとかしないと!?)


 ちょっと本気を出そうと、両腕に力を込めた……その時だった。


 ドシュッ!! ドシュッ!!


「ガジャジャ〜〜!?」


 悲鳴と共に、ミミックは消滅。抜け殻になった宝箱だけが、俺の後ろにガコンと落ちていく。


(いったい誰が倒した……? ティーシャじゃないみたいだけど??)

 

 やがて、後方からコツコツとブーツの音が響いてきた。


「やれやれ。ウワサ通りのトラブルメイカーらしいな。例の"酒クズ女サムライ"は」


 目の前に現れたのは、ハードボイルドな雰囲気の美女だった。


 片目を隠すように伸ばした金髪のロングポニーテール。少し怖めな鋭さを思わせる緑色の目。


 格好はウエスタンハットに砂色のトレンチコート西部劇風で、両手に持っているのは"タバコを銃弾にする"特殊なリボルバー拳銃だ。銃弾が放たれた銃口からは焼けるタバコの匂いがした。


 そんな彼女に対し、ティーシャが意外そうに声を上げた。


「あーー!! レインさん!? どうしてここに!?」


「単なる偶然さ。異世界アナザーからの帰り道でお前達を見かけただけの事だ」


 そんな見知った二人の間に入るように、俺はドキドキと緊張しながら挨拶した。


「は、はじめまして!? あの……レインさんですよね?」


「ん? 私の事を知っているのか?」


「えぇ! そりゃもう〜!!」


 俺は酒の勢いもあって、レインさんにインタビュー記者みたいな感じで語った。


「Sランク冒険者のレイン・アンダーバレットといえば有名人ですよ〜!! 以前からティーシャと共演してるのを観てましたのでよーく知ってま〜す!! この度は危ないとこを助けてもらってありがとうございます!!!」


"うおっ、早口オタクの酒クズちゃんだ"

"流石にティーシャに関連する事は詳しいか"


 ちょっと厚かましかったかもしれない俺に対し、レインさんは顔を赤くしながら言う。


「そ、そうか。なら、自己紹介は不要か。これからよろしく頼む……酒クズ」


"顔赤くなってるの可愛い"

"レイン嬢は恥ずかしがり屋さんだからなー"


「ば、バカ!! そんなことは……ない!!」


 そうやって、コメントに言い返すレインさんはすごく可愛かった。


 そんな微笑ましい気持ちになっていた時、ティーシャが何か気づいたように床を指差した。


「あれ? 二人とも、これ見て!!」


「「ん?」」


 ティーシャが指したのは、さっきのミミックが取り憑いていた宝箱だ。


 てっきり何もないと思っていたが──よく見ると金色のカギが入っていた!!


 ティーシャはそれを拾い上げながら、興奮混じりに言う。


「これ!! "隠しダンジョン"に繋がるカギだよ〜!? しかも、明らかに超レアモノのやつーーー!!」


"マジか!?"

"すげーーーーーー!!"

"酒クズちゃん、ラッキーすぎない!? 隠しダンジョンのカギなんて、毎日ダンジョン潜ってても全然見つからないやつだよ!!!!"

"やっべ、またミラクル起こしてるよ……!!"


「え!? え!?」


 困惑する俺へ、レインさんが目を丸くして言ってくる。


「……驚いたな。これがウワサの"豪運"というやつか」


 な、なんだかまた注目される事態になってしまった気がする……。

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