【#10】今夜は焼肉!!カラオケ!!
その夜。都内の高級焼き肉店にて。
「「「かんぱーい♪」」」
仕切られた個室の中で、カランと鳴り響くビールジョッキ。それを合図にみんな一緒に飲み始めた。
今夜はティーシャ、ラビスさん、俺の三人で飲む事になった。
みんな目立たないためにそれぞれ私服に着替えており、多くの一般人がいる店でもうまく紛れ込めていた。
「ぷはーっ! 一日の終わりに飲むビール、最高っすねぇ~~♡」
ジョッキを片手に気持ちよさそうに言うラビスさん。どうやら見た感じ、酒は結構イケる感じらしい。
それから彼女は俺の方を見て、今日の事を思い出すように言ってくる。
「それにしても、酒クズちゃん超ラッキーだったっすね~♪ まさかあのヘル・タイラントと遭遇して隠れきるなんて!!」
「……え、えぇ!! あそこで襲われなかったのは運がよかったです!!」
「もーー!! ホントに心配したんだからー!!」
ティーシャは感情むき出しで叫んだ後、俺の横へと密着しながら言ってくる。
「でも、アヤカちゃん? 救助隊の助けが来るまで、一人でよく頑張ったね~~!! よしよし♡」
「うわっ!?」
急にティーシャが俺の頭を撫でてきた!? ちょっと待って!? ラビスさんも見てるのに……!?
「や、やめっ!? こんなの恥ずかしいですよ……!?」
「うるさぁ~~い♡ 今夜はもう絶対に離さないから~~~~♡」
ティーシャはまるで大きなぬいぐるみを抱くように、俺の身体を背中からぎゅっと抱きしめてくる!!
「ふへへへへ……♡」
だらしない笑みを浮かべて、俺の頭を撫で続けてくるティーシャ。
(おいおい!? 酔うの早すぎだろ!?)
そんなやばすぎる状況の中、ラビスさんは煽るように言ってくる。
「ふぅー!! 流石は一緒に同居してるお二人!! 仲が良いんすねー?」
「ふふふ!! そうだよー?」
ティーシャはまた一口ビールを飲んで言う。
「しかも、ここだけの話……もう既に一緒のベッドで寝てるんだよー!! ──ね? アヤカちゃん?」
「そ、それは……!?」
またまたややこしい話を!?
当然、聞き逃さないラビスさんではなかった。彼女はウサ耳をピンと立てて面白がるように聞いてくる。
「酒クズちゃん!? ホントっすか!?」
「いや!? それは──わたしの寝る場所がないから仕方なく……」
「!! つまり、二人で寝たのは事実なんすか!?」
「……まぁ、そうなりますが」
「うはーーーーーーーー!? これは衝撃のニュースっす!?」
ラビスさんは面食らったように言って、それからわざとらしく「ハッ!?」と気づいたような顔で言ってくる。
「もしかして!! お二人はすでにデキていて……?」
「ないない!? そんなんじゃですーー!?」
俺は即座に否定して、二人の注意をそらすように鉄板の方へ視線を送る。
「それよりも、ほら!! お肉、いっぱい焼けてますよ!?」
「おーっと、そうっすねー♪ 早く食べないともったいないっす!!」
……ふぅ、どうにか流れを変えられたか。
そうして少し安心していたところへ、後ろから抱き着いたままのティーシャが「んー」と
「そっかー。アヤカちゃんと正式に"カップルになる”っていう手もあるのかなー?」
「……ティーシャ!? なに言ってるんですか!?」
思わずツッコむと、ティーシャは小悪魔っぽく微笑んで言う。
「ふふっ♡ 冗談に決まってるでしょー? それとも”本気”にした??」
「そ、そんなワケないですよ!? アハハ……」
あぁ、そうだよなぁ……ビックリしたぁ!? いやぁ、俺が言うのもなんだけど、酒のテンションって怖いなぁ!?
だって、女の子同士でそういう関係なんてあり得ない……よな?
◇◆◇◆◇
こうして焼肉で腹を満たした俺達は、夜の街へと駆り出す事となった。
「さぁー!! 二次会に行くっすーー!!」
「おっけー♪ アヤカちゃ〜ん、こっちこっちぃ〜♪」
「わわわっ!?」
俺にグッと腕を絡ませてくるティーシャ!? 完全にカップルの間合いだ!?
(うぅ……こんなの写真撮られたら大変だぞ)
変装がバレない事を祈りつつ街中を歩いていると、ラビスさんが向こうの通りを指差して言う。
「あっ、カラオケー!! 酒クズちゃん、カラオケは大丈夫っすかーー!?」
「えっ!? か、カラオケですか!?」
参った……カラオケなんてしばらく行ってないぞ。
しかも、俺って普段は"一人カラオケ"ばかりだから盛り上げる自信ないし、そもそも女になってから歌ったことないし……。
そうやって迷っていると、ティーシャが俺の腕を引いて言う。
「いいねぇ~、行こ行こぉ~♪ あたしもアヤカちゃんの歌聞きたい~~♪」
「!!」
あぁ、すっげぇ行きたそうにしてる……!! こうなると──俺にはもう断れない!!
「わかりました!! 行きましょう!!」
◇◆◇◆◇
こうして流れるようにカラオケ店へ。人生初、女子とのカラオケが始まる……!!
「うぉぉ~~!! 魂の一曲行くっす~~!!」
(ら、ラビスさん!? すげぇ熱唱ぶりだ……!?)
いきなり飛ばしてくるラビスさんに驚かされた。しかも、かなりの盛り上げ上手であり、ちゃんと聞いている人の事を考えた立ち回りだ。
そんな素晴らしいパフォーマンスを見ると、なんだかハードルが上がった気がした。
(やばい、なに入れよう……!?)
そうやって緊張に飲み込まれそうになった時──ティーシャが横から話しかけてきた。
「アヤカちゃん、一緒に歌お♪」
「!? それって、”デュエット”ってことですか!?」
「そうそう♪」
ティーシャは電子パッドで曲を探しながら、酔った口ぶりで寝言のように言ってくる。
「アヤカちゃんとはさ、これから大切な”友達”として一緒に居たいんだ~~♪ だから、今日はその第一歩として一緒に歌いましょぉ~~~!!」
「と、”友達”……ですか!?」
”友達”──まさかティーシャにそう言ってもらえるとは思わなかった。
なぜなら俺は一方的に彼女を応援していたファンであって、こんなすごい人の隣に並び立つなんておこがましい立場だと思っていたから。
でも、今から少しだけ踏み込んでみてもいいのかもしれない。ティーシャの方へと。彼女の言う”友達”への第一歩として。
「……わかりました!! やりましょう!! ──でも、言っておきますけど……わたし上手くはありませんからね!?」
「ふふっ、いいよ~♪ こういうのは楽しんだもん勝ちだから~♪」
──こうして、俺はティーシャと一緒に歌を歌った。酒に酔い過ぎたせいで、上手く歌えていたかは覚えていない。
でも……最高に楽しい夜だったのは確かだ。
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