第19話 鍛錬一日目 「何の鍛錬?」

 リアラが冒険者で活動を続けるためバルザンに課せられた課題。それは、五日後に領都リーグレントで開催される武闘大会で実力を認めさせることだった。それに伴い、ミーシャを助けるにも実力を認めさせるにも自分の父親相手だと力及ばないと踏んだリアラは、ミーシャをナバスに任せる代わりに、ナバスの弟子になることを了承した。


 そして今、一日目の鍛錬が始まる──。


「庭に出たわけですけど、ナバスさんの鍛錬って何をするんですか?」


「じゃあまずは、私の言う体の部位に魔力を集めてみようか」


「分かりました」


 持っていた杖を地面に置き、準備が整ったリアラは軽く息を吐く。


「一番簡単な利き手からね」

「はい」


 リアラは目を瞑った。血液のように体中を流れる魔力を感じ、そのまま意識を手に持っていく。集まった魔力は温かく、右手だけが温かいため魔力が集まっているのが分かりやすい。


「そのまま左手に移動させれるかい?」

「⋯⋯やってみます」


 右手に集めた魔力を体内で分散させず、塊として移動させる。上級者は体の中心で魔力を集めて体を温め、ある程度の寒さなら耐えられるという。


「どうです?」


「さすが、凄腕の魔法使いの噂は伊達じゃないね。集めた魔力分散させていいよ」


「やめてください! それで拉致にあったり、お父様に見つかってしまったんですから」


「まあまあ、噂のおかげでミーシャに会えたんだから儲けものじゃないかい?」


「確かに⋯⋯って! ミーシャちゃんも私もそのせいで今ピンチなんです!」


 ニヤリと笑うナバスはリアラを見るのをやめ、どこか遠くを見つめながら右手を上げて、弧を描くように腕を振った。すると──。


「自分で蒔いた種は自分で刈り取るのが魔法使いなんじゃないかな?」


 瞬間、二人の間にピンク色の花弁が宙を舞い、ひらひらと地面に落ちていく。


「カッコつけてますけど何ですかその魔法?」


「芸だよ、いつか必要になるかもと思って覚えておいたんだよ。魔力とコツさえつかめば偽物ぐらい作れるよ」


「へー⋯⋯使わなそうですね。⋯⋯まあ、その花の種の刈り取り方ぐらいは覚えておきます」


 それを聞いたナバスは異空間収納から杖を取り出し地面に立てる。


「まあ話はこれぐらいにして、次は両足に魔力を集めてみてくれるかな」


「手と足は魔法学校の基礎ですよ、私舐められてます?」


 両足に魔力を集めるリアラを集中して見るナバス。下から上へと視線ゆっくりを動かし、頭の所でナバスの目は動かなくなった。


「舐め回すように私の体を観察できるのはミーシャちゃんだけです、これ以上見ないでください」


「余裕だね。じゃあ次は頭に魔力を集めてみてくれるかい?」


「頭ですか⋯⋯やってみます」


 目を瞑って頭の中にある魔力を感じ、それを一箇所に集めて維持する。かなり難しいことをナバスは要求したはずだった。


「出来てます?」


「出来てるよ。じゃあそのまま頭に魔力を維持しつつ、頭に力を入れてみてくれるかな? 頭とそれ以外に分けるように」


「頭に力を入れる? ⋯⋯やってみます」


 歯を食いしばって頭に力を入れると、頭がぷるぷると震えだした。手にも力が入り、徐々に顔が赤くなっていく。


「まだだよ、もっと力を入れるんだ」

「いや⋯⋯もう無理です!」

「じゃあ無理やりだね」


 手に持つ杖をトントンと二回地面で弾ませる。するとナバスとリアラの居る空間が黒色の球体で囲まれた。急な状況変化にリアラは驚きつつも、頭に魔力を維持させたまま力を出来る限り入れる。


「ミーシャの命は私が握っていると言っても過言では無いよ。ほら、ミーシャがどうなってもいいの?」


「ここでミーシャちゃんを持ってくるのは、卑怯でしょ⋯⋯!」


 更に力を込めたリアラは頭に血が上り、心臓の鼓動が早くなる。


「頭の魔力はそのまま維持して力を抜いて、心臓が体全体に血液を送ってるのを感じたら、頭以外の体全部で魔法を撃ってみて」


「体で魔法を放つってどういうことです?」

「感覚だよ、本当に体全体で撃つわけじゃない。それと頭に集めた魔力はずっと維持だ」


 軽く息切れを起こしているリアラは集中を切らさず地面に置いた杖を手に取った。


「感覚⋯⋯『衝撃水ウォーターインパクト』! って待って制御出来なぁっ!」


 次々と杖から発射されていく『衝撃水ウォーターインパクト』は何故か通常より勢いが凄まじくなり、石の壁など簡単に壊せてしまうほどだ。


「待って止まんない! というか何この鍛錬は!

 ──あっ⋯⋯」


「ここまでか、鍛錬の続きは昼食後かな」


(最後まで頭に集めた魔力を維持し続けたのは良かったけど⋯⋯最後のを見る限り、魔力操作は母親のように上手くは無いかな)


 黒い球体を解いたナバスは、膝から崩れ落ち意識を失ったミーシャを『浮遊フローティン』で浮かし、さっきまでイリアスがいた一階のリビングまで足を運んだ。


「あら、早かったわね。とは言ってももうすぐ昼食だけれど」


 リアラを奥のソファに寝かせ、イリアスの対面に座ったナバスは異空間収納に杖をしまった。


「リアラの意識が戻るまでは敬語は無しかな?」


「もちろんですよ。ナバスさんと私たちの関係、そしてナバスさんの弟子、魔女ウィクシナーとの関係も、私たちだけの秘密ですから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法学校を卒業した自称普通の魔法使いは伝説の魔女たちを探しに旅に出る!〜才能があると言われてますが魔女の称号を与えられていないので、エリートとは言えません〜 まどうふ @Madoohu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ